2020年09月18日

(再鑑賞) リアル・スティール アメリカ映画DVD

(再鑑賞) リアル・スティール アメリカ映画DVD 2011年公開

 名作です。最初は映画館で観て、その後DVDで、もう何回も観ました。何度見ても泣けます。
 ろくでなしのオヤジとしっかり者の息子の組み合わせで感動をつくりあげます。類似の作品として、「チャンプ」がありますが、チャンプも名作です。
 何回も見えているのでもう筋書は知っていますから、今回は、英会話のリスニング学習目的で鑑賞しました。
 スィリアスリィ:本気か?
 アイル イントロデュース・ミー:自己紹介するよ
 ゲットアップ:立ってくれ
 ミギー、ヒダリー:日本語です。右、左
 アー ユー オールライト?:大丈夫か?
 セイブ マイ ライフ:(ロボットがぼくの)命を救ってくれた。
 ドン ウォーリー:心配しないで(秘密は守る)
 アイノウ アイノウ:オレはわかっている。
 アイム シュワー アイム イレブン:ぼくはたしかに11歳だ。
 パンチアップ:ロボットへの格闘技の命令
 チャーリー プリーズ:(実父のチャーリーに向かって)ぼくを養父母に引き渡さないで。
 ホワット キャナイ ドゥー:実父のオレに何ができるというんだ。
 アイ ウォンチュー ファイトミー:ぼくのために闘って。
 ワンナイト:(子どもの貸し出しは)ひと晩だけよ。
 イエス ユー キャン:お父さんは絶対できる。
 ウォッチミー:オレを見ろ。
 ノットイエット:まだだ。
 ユーズザターボ:(敵の司令官が)ターボを使え。
 父子が操縦するロボットのアトムがジャンプしながら相手のロボットにパンチを打ち込むシーンが美しい。
 勝ち負けなんかもう関係ない。息子は父親に、「ダッドゥ ダッドゥ(おとうさんおとうさん)」、父親は息子に、「マックス マックス」
 へこんでいる人に勇気をくれるストーリーをつくりたい。
 アトムは打たれ強い。映画には、打たれ強い人になれというメッセージがあります。
 アドバイスをくれる父親の恋人の存在は大きい。
 好き嫌いを乗り越えて、認めるべきところは認める。
 やられてからやりかえす感動を呼ぶ筋書です。
 たとえぼろ負けしても堂々と闘おう。
 なにをやってもきちんとやれない人や古くなって時代遅れになった物を排除しないでなんとかしようというところが偉い。
 「悪」が悔い改めて、「善」になるパターンです。
 子どものマックスは、ガッツの固まりです。母親を病気で亡くした男の子ががんばります。


(参考として リアル・スティール 映画 DVD 2014年8月のときの感想)
 殴り合いの野蛮な出だしですが、マックス11歳の登場あたりから落ち着きます。
 根性の腐った父親を叩き直して、真実がわかるまっとうな人間に育てることが目標です。がんばれ!マックス
 マックスの表情がいい。そして、ロボットATOM(アトム)は生きているようです。アトムのシンプルなつくりの顔が効果をあげています。マックスとアトムが練習をする普通の場所、たとえば道路の片隅などでのロケ地撮影がいい雰囲気をかもしだしています。
 バックグランドミュージックもいい。本音を伴うお金のやりとり会話もいい。
 父親と息子の合作がアトムです。児童福祉の映画でもあります。恋愛の映画でもあります。父親は別の女性といい仲になっている。マックスは病死した母親の妹夫婦の家で暮らすことは避けられない。血がつながっていても親子が一緒に暮らせないことはあります。
 試合は粘りです。とりあえず1ラウンドをもたせる。耐えて耐えて耐えて、最後に攻めに出ます。ようやくお父さんはお父さんになれました。これも、亡きお母さんの支えがあったからです。「圧倒的な闘志で戦う」いいセリフでした。  

2020年09月17日

あの子の秘密 村上雅育

あの子の秘密 村上雅育(むらかみ・まさふみ) フレーベル館

 30ページぐらい読んだところです。
 ふたりの小学6年生女子が登場します。クラスメイトです。

 ひとりめは、倉木小夜子(くらき・さよこ)名字のとおり、暗い性格設定になっています。学校には行きますが、しゃべらないそうです。人間よりも本が好き。マンション暮らし。どういうわけか、オスの黒猫がいつも彼女のそばにいます。黒猫の目は緑色です。ただし、黒猫は、想像上の生き物であり、実体としての存在はありません。
 天海優香からは、「よこちゃん」と呼ばれている。「さよこ」の「よこ」なのでしょう。
 マンションの5階暮らしです。

 ふたりめは、東京の笹塚第二小学校から甘縄小学校(あまなわしょうがっこう)に転校してきた児童で、三橋明來(みつはし・あくる)です。編み込んだ前髪とビーズがトレードマークのチャーミングな女の子です。身長154センチだから6年生にしては大きい。人をほめるのが得意。天海優香からは、「あくる」の「くる」をとって、「くるちゃん」と呼ばれます。
 三橋明來は、両親が離婚して、母方の実家へ都会から引越してきました。祖父母が同居しています。明るい性格です。一戸建て暮らしでしょう。

 ほかには、短髪で眉太(まゆぶと)の男性担任の坂井先生がいます。
 女子グループの中心が櫻井美咲ちゃん。彼女には要警戒だそうです。いろいろめんどうな女子の世界があるようです。
 相沢巴(あいざわ・ともえ)は、ポニーテールの女の子。美咲グループの一員ではない。
 天海優歌(あまみ・ゆうか)は、少したれ目がち。おっとした雰囲気。相沢巴と仲良し。
 櫻井美咲(さくらい・みさき)愛称が、「サッキー」お姫さまみたいな女子。高校生の兄がいる。兄の名前が、「咲人(さきと)」

 出だし付近は、小学6年生女子というよりも、女子中学生にみえます。

 文章の区切りに、「月のマーク」それからたぶん「太陽のマーク」があって、そのあとに、月だと倉木小夜子、太陽だと三橋明來(あくる)のひとり語りが始まります。
 どちらかといえば、両親の離婚歴がある三橋明來のほうが暗い個性になるような気がするのですが、この本の場合は逆です。
 驚いたのは、三橋明來にも黒猫が見えるのです。

 「よこちゃん」とはだれ? 黒猫の名前? (倉木小夜子のさよこの「よこ」でした)

 黒猫と倉木小夜子を結び付けたのは、倉木小夜子の父親です。
 父親がショーウィンドウの向こうにあった黒猫を手に入れたのですが、黒猫が生きた猫なのか、人形だったのかはまだわかりません。(157ページで判明します)

 内容については、そんな深刻になるような状況には思えないのですがお話は続きます。
 自分では、自分しか知らない(秘密)と思っていることでも、たいていは、だれもが知っていることということはあります。お互いにしゃべらないと、そのことに気づけません。
 
 2歳から8歳ぐらいに出るという「イマジナリーフレンド」、「見えないお友だち」、「空想上の友だち」、そういう言葉が登場しました。見えると、ペットなのでしょう。
 黒猫が消えてしまうのですが、自分が創り出した想像上の存在であれば、自分で再び呼び戻すこともできるでしょう。ちょっと普通じゃない世界に足を踏み入れることになりますが。
 
 なんだろう。黒猫の存在が具体的なものでない以上、ここまで心理的、そして、交友関係で、ぐずぐずする理由がわかりません。
 
 情景描写がうまい表現に思えません。「みかん色の夕日があたりをあまずっぱい色にそめている」は、風景というよりも食べ物のレポートをしているようです。この作品の風景描写は食べ物がらみが特徴です。たとえば、ケッチャプがらみの夕焼け空があります。

 名前の表記で、「〇〇ちゃん」の「ちゃん」は付けないほうが読みやすい。読んでいると、「ちゃん」がたくさん出てくるので、頭の中で、「ちゃん」が反復して読みにくい。あと、「〇〇さん」の「さん」も同様です。途中から敬称抜きで読みました。
 それから、児童たちの名前はできるだけフルネームで書いてほしい。書くときに、ひとりの人間について、フルネームがあって、上だけの表記があって、下の名前だけの表記があって、愛称表記があってなので、だれなのかがわかりにくい。
 
 倉木小夜子はなぜ攻撃的な態度をとるのだろうか。わかりません。
 倉木小夜子の両親の状態がいつまでたってもわからない178ページ付近を今は通過しています。
 
(つづく)

 全体を読み終えました。
 後半に向かって、たくさんの仕掛けがしてありました。
 今年読んで良かった一冊です。発想がいい。
 結末は、予想に近かったので安心しました。

 「依存」について考えました。「ギブアンドテイク」という言葉がありますが、たいていは、ギブ(与える)するほうはずーっと与え続けて、受け取る側は、ずーっと受け取るというのが、世の中のありがちな形態です。助け合いではないのです。一方的な援助になってしまうのです。そこが原因になって、人間同士の対立が深まります。
 「利益」のキャッチボールができるようにならないと、「平和」が訪れないのです。

 262ページ付近から、この物語の心臓部に入ります。
 がっちりと構築した「考え」があります。
 「ぬいぐるみは、持ち主といしょに遊んで、飽きられて捨てられるまでが仕事」とあります。
 
 ひとり親家庭が増加している今、こういう物語がこどもたちから要求されているような気がします。

 ファンタジー(幻想)+ミステリー(推理)+超自然現象、スリラー(ぞっとするような怪奇)すらある作品です。
 太宰治の「生まれて、すいません」の世界まで見えてきます。
 精神世界、メンタル、スピリチュアル、心が重たくなって、最後は、解放される。詩的です。
 おとなになったら忘れてしまうこどもの世界です。

 とても深く気持ちを追い詰めた作品でした。

 気に入った文章表現として、
「わたしとともだちになってもいいことないわよ」
「わたしを助けてください」
「友だちって、なろうと思ってなるもんじゃないよう」
「別れを乗り越える」
「心から血を流していたんだろう」
「あなたは私の一部なんでしょう?」
「あたしは、パパとママにいっしょにいてほしかった」
以心伝心(いしんでんしん。言葉や文字なしにお互いの気持ちが通じること)
両親の離婚をこどもである自分のせいにする。

 意味が取れなかった文節として、
「学校はそわそわとした非日常に包まれている」

 調べた単語などとして、
(髪型)前髪編み込みビーズ:髪が編んであって、飾りにビーズが使ってある。
ローファ:靴ひもなしの革靴
リフレイン:繰り返すこと
チャーミング:魅力的。人の心をひきつける。
害悪:がいあく。周囲に災いを与える。
気色ばむ:きしょくばむ。怒ったようすが表情に出る。
山かけうどん:とろろいもがのったうどん
外聞:がいぶん。世間での評判
杞憂きゆう:無用な心配
アンタッチャブル:ふれてはいけない。倉木小夜子には話しかけにくい雰囲気がある。
だしに使う:自分の利益のために利用する。
所在ない:何もすることがない。
ゴーマン:傲慢(ごうまん)人を見下す態度
自嘲的(じちょうてき):自分で自分をばかにして笑いのネタにする。
坊主めくり:百人一首の札を使う。絵札を使う。裏向きで山札を積む。ひとりずつめくる。絵札が男性の時は自分の手札になる。絵札が僧侶(坊主)のときは、自分の手札を全部捨てて山札の隣に置く。絵札が女性のときは、坊主の人が捨てた札を全部もらう。山札がなくなったときに、手札を一番多く持っていた人が勝利者となる。
残響(ざんきょう):音の反射。引き続き聞こえる音
無粋(ぶすい):気持ちのやりとりに配慮がないこと。
アルペジオ:ギターの弾き方。高い音、 あるいは低い音から、一音ずつ弾いていく。
アイデンティティ:自己同一性。自分は何者なのか。自分の定義。自分の人生の目的。自分の存在意義
コンプライアンス:法令順守(ほうれいじゅんしゅ)法令を守る。  

Posted by 熊太郎 at 07:27Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2020年09月16日

八月のひかり 中島信子

八月のひかり 中島信子(なかじま・のぶこ) 汐文社

 小学校中学年から高学年向けの児童文学だと思います。
 読み始める前の情報として、児童の貧困について書いてあるようです。

 とりあえず、20ページまで読みました。各章に食べ物のタイトルが付いているのですが、最初の章「味噌汁(みそしる)」は、味噌汁は出てきません。焼きそばが出てきます。
 離婚による3人世帯の母子家庭があって、主人公の田端美貴が小学5年生、弟の優希が2年生です。
 母親は、パートでスーパーのレジ担当です。
 父親は、優希が3歳のときに離婚して離別ですので、5年前が離婚時期です。以降、家族は父親とは会っていない。養育費の援助もない。
 それから横須賀に母方のおばあちゃんがいますが、母親とは仲が良さそうにはみえません。
 祖母は未婚の母だったそうです。

 今は小学校の夏休みです。8月6日広島原爆投下の日です。
 美樹が昼食の用意をしていますが、おかずを買うお金が少ないようです。今回の昼食はひとりぶんの焼きそばをきょうだいふたりで食べます。やきそばって、いまはスーパーの安売りで、ひと玉25円ぐらいで売っているところもあるので、もっと買えるはずなのにと、ちょっと意外でした。
 自分も類似のひとり親貧乏体験があるのでなつかしい。
 本の中のふたりのこどもは、いつだって、おなかがぺこぺこだそうです。
 時代背景が違うので、書きにくいのですが、お金がないということでは、昔のほうがきつかった。昔の貧乏は、テレビもエアコンもありませんでした。扇風機はもらいものがありました。小学校は、給食を食べるために行っていました。

「トマト煮」の章
 たこ焼きと鳥肉のトマト煮が出てきました。美樹さんはお料理が上手です。
 貧乏は、開き直ったほうが勝ちだし、楽です。ないものはないのです。いまのところ、食べ物の話ですが、自分は着るものがなくて困ったことがあります。パンツをはかずに登校したときに身体検査がありました。よく覚えていませんが、たぶんフリチンで受診したと思います。小学校2年生ぐらいのときです。

「お好み焼き」の章
 夜中にお母さんの具合が悪い。翌朝もだめで出勤できずにお休みします。そして、病院に行くお金がないようです。医療費の支払いがむずかしい。ひとり親家庭の医療証ってなかったかな。たしか医療費の助成があったと思います。
 ご家族は水道も節約されているのですが、こちらも水道料金の助成があったような気がします。
 
「カレーキャベツ」の章
 美樹ちゃんは万引きをする女性を発見します。万引きはだめです。
 お金があってもするのが「万引き」です。万引きは心の病気です。
 美貴ちゃんは、おかあさんに万引きおばさんのことを話せばいいのに。

「ソース炒め(そーすいため)」の章
 クワガタくん登場。だけど、彼に与えるエサがない。昆虫ゼリーを買うお金が惜しい。
 それでもいろいろ工夫して楽しい思い出ができました。
 学童保育所に通っているようですが、学童保育所での話はほとんど出てきません。

「マヨネーズ和え(まよねーずあえ)」の章
 8月11日の午後です。小学2年優希くんのお友だちである須藤大輔くんが遊びに来ました。クワガタくんを披露します。
 大輔くんもひとり親家庭のこどもです。離別で、ママのほうが出て行ったのです。よって、父子家庭です。
 ひとり親家庭が増加するいま、児童文学の素材も変化してきてもいいと思います。ひとり親家庭を扱ったこのパターンの児童向けの物語はまだ少ない。

「納豆キャベツ」の章
 8月12日水曜日です。
 類(るい。似た者同士)は類(るい)で固まるというようなお話しです。
 それから、別離した父親らしい影が出てきます。父も成長した子の姿を見たいときがある。(残念ながら、お金を貸してくれでした)
 いろいろあるけれど、秘密をかかえこむと苦しい。しゃべると楽になれます。

「クリーム煮」の章
 長女美貴の負担が重い。
 事故?
 生活保護の話が出ました。どうしても無理なら一時的なこととして受給することもやむを得ないのではないか。
 母親が病気で倒れたら終わりです。

「また、味噌汁」の章
 「くわちゃん」ってだれだろうとしばらく考えていて、コクワガタのことだとようやくわかりました。
 食べ物でリレーしていくストーリー仕立てでした。
 もう一歩踏み込めると良かったような。

 こどもは、まずは、生きていることが大事だと感じました。  

Posted by 熊太郎 at 07:08Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2020年09月15日

リトル・ランボーズ イギリス・フランス合作映画DVD

リトル・ランボーズ イギリス・フランス合作映画DVD 2010年日本公開

 コメディドラマという位置づけのわりには、哀れで、物悲しくなってくる根っこがあります。
 父親のいない少年同士が中心になって映画づくりをします。
 シルベスター・スタローンの「ランボー」に刺激されて、「ランボーの息子」というタイトルです。

 イギリス・フランスの教育制度、文化なので、日本人の自分にはすんなり内容を理解できません。宗教のことが色濃く反映されています。
 されど、ラストシーンは、胸にぐっときました。
「(高校生ぐらいの兄が、11歳の弟に)おまえは、唯一の家族だ」
「(主人公の少年が神さまに)家族や友を与えてくださり感謝します」

 父親が芝刈り作業中に脳動脈瘤の病気で死んだという11歳のお人よしのウィル・プラウドフットが主人公です。彼は、気が弱い。物語づくりが好き。映画が好き。母子家庭で、教会の宿舎みたいなところで暮らして教会のお世話になっています。
 ウィルを映画製作の道に誘い込むのが、イカサマ師のような同級生リー・カーターです。彼の父親は彼が生まれた頃にどこかへいっちまったそうです。彼には兄がいます。ローレンス・カーターといいますが、あまりいい青年には見えません。それでも、弟は兄を慕います。

 教会員だから、会員同士を家族とし、他人をきょうだいと呼びます。

 ときに、ハリーポッターみたいな雰囲気あり。

 映画の中に映画制作風景があります。

 カンカン(缶)のカカシがおもしろかった。

 「(ママの恋人に)あんたはパパじゃない!」

 玉手箱をぶちまけたようなラスト付近はキラキラと輝いていました。

 教訓として、「人生は、さみしさをかかえながら進むもの」

 忍者が登場、読めない文字ですが、漢字も登場(日本公開を意識してある?)

 募金をアピールする犬のつくりものが、凧にくくりつけられて空に浮かびます。

 もう(父親の形見の)腕時計は、だれのものでもない感じです。

 ほんとうの友だちになりたかったら、また、家族になりたかったら、お互いによく話をしようというメッセージがあります。  

2020年09月14日

アーティスト フランス・ベルギー・アメリカ合作映画DVD

アーティスト フランス・ベルギー・アメリカ合作映画DVD 2012年日本公開

 本当の主役は、ワンちゃんではないだろうかと思わせてくれるぐらい犬のジャックの名演技が輝いていました。イヌなのに人間みたいでした。

 映画自体は、1927年(昭和2年)から1932年(昭和7年)で、途中に世界大恐慌(1929年昭和4年に起きた株の大暴落、破産)を経て、映画が、無声映画からトーキー(発声映画)に移っていくなか、没落していく有名男優と躍進していく若い女優のふたりの関係を描くという、どちらかといえば、今の時代においては新鮮な話題とはいえない素材なのですが、前記のワンちゃんの名演技もあって、印象に残る良作として仕上がっています。最後のセリフが確か、「パーフェクト」でした。

 始まって少しして、<この映画は、声は出ないのか?>さらに、<ずっと白黒か>になります。おじさんと若い娘の恋心もうっすらとあります。

 男優ジョージ・ヴァレンティンから見て、人というものは、自分よりも偉くなった人間(かけだしの女優)が嫌いです。
 彼は、発声映画で売れ出した女優のペピー・ミラーを責めますが、彼自身は、無声映画で売れていた時は、ごうまんで威張っていました。
 平家物語と同じで、「おごれる者は久しからず」です。昔(のやり方があったから)があったから、今がある。
 その「今」は、やがて、「過去」になる。歴史はそうやって繰り返していく。

 人に優しくされない人は、犯罪を犯しやすい人になります。男優はみじめです。がんこです。そんなにこだわらなければならないことなのか。
 がんこであることのメリットは少ない。みじめで、失恋ぽい気持ちも重なります。
 されど、男優を助けようとするワンちゃんのダッシュ走りがすばらしい。

 人は、一時的な援助では立ち直れません。継続的な収入がある本人の労働が必要です。
 再起できる社会づくりへのメッセージがあります。
 
 カメラの構図がうまい。

 タップダンスがうまい。

 印象的だったシーンとして、
 目立つように、女優の鼻の右下につけぼくろを付ける。
 男優の影が勝手に動き出していなくなったシーン
 執事が男優にかけた言葉、「誇りを捨ててください。(男優へ援助の手をさしのべている女優)ミラーさんは、善良な人です」頑固なまでのこだわりは心の病気です。
 部屋に日光東照宮の「見ざる言わざる聞かざる」のサルのつくりものがあったこと。
 女優さんのセリフとして、「あなたを助けてあげたいの」「話し合いましょうよ」
 犬を紹介するときのセリフとして、「無口な奴でして」
 たいてい、ノックなしで部屋に入ってくるのでびっくりしました。

 義理・人情・温情にしがみついて生きる人生もある。時勢から取り残されることもあるけれど、それでいいと自分が納得するのならそれでいい。それぞれがそれぞれの暮らしに自信をもって暮らしていく。落ちぶれても落ちぶれなくても淡々と生活して寿命をまっとうする。

 「没落体験」という体験をもつだれか、あるいはだれかたちがつくった映画だと感じました。ゆえに、共感を呼びます。
 スタッフ一同の映画が好きという気持ちが伝わってきました。  

2020年09月13日

ガープの世界 アメリカ映画DVD

ガープの世界 アメリカ映画DVD 1982年公開

 奇想天外なほら話の類(たぐい)ですが、けっこう胸にぐっときて、受け取るべきメッセージがありました。

 こどもはほしいけれど夫はいらないという看護師のジェニー・フィールズが、不正な方法で妊娠して出産したのがガープという男子で、その子の幼児期から、中年期までを、母親のジェニー・フィールズをまじえて物語化してあります。なお、ガープの父親は戦傷病者で亡くなっています。
 母親は今は、おそらく、高校の学生寮で、住み込みの子連れ看護師として働いています。その後は、障害者施設でも働きます。ガープはまだこどもです。
 未来においては、ガープも母親のジェニーも小説家になります。

 シリアス(深刻で、暗くて、悲劇)なのに、コメディ仕立てで笑ってしまいます。悲しい話なのに笑いがあって、ああ、創作物語を観たという実感が湧きました。
 独特な世界観があります。奇妙ですがおもしろい。ふつーじゃない。
 「死」とか、「命」を考える映画です。いつかはみんな死ぬんだよ。だから、しっかり生きていくんだよというメッセージがあります。
 性的な人間の本能の部分をむきだしにしてあっても不快にならない程度に抑えて表現してあります。
 看護師のママの存在が、物語にとって大きい。
 ごつい女性のような男性が登場します。彼(彼女?)もまたいい役割を果たします。
 強姦されて、口止めのために舌を切られた女子がいて、彼女を支援する女性団体がいる。状況は重いのに、そう感じさせない。
 三角関係みたいな男女関係があります。
 夫婦双方の浮気もあります。けっこう悲惨です。夫婦というものは、夫婦になったら、相手の浮気の一回ぐらいは許す度量が必要なようです。争いごとは、双方にとってマイナスを生じます。
 狙撃で血を見るシーンもあります。
 
 ストーリーの中にストーリーがあって、いずれも架空のものです。壮大なほら話なのです。

 救われる気分になれた映画でした。

 良かったセリフなどとして、
「あなたの助けが必要なのよ」
「さみしかった」
「わたしもよ」
「ママ、父親は必要なかったよ」
「このところ小説を書く気にならない。過去のことばかりを思い出す」
「人生は冒険だな」

 小さなかっこいい車が出てくるシーンが良かった。