2020年09月14日

アーティスト フランス・ベルギー・アメリカ合作映画DVD

アーティスト フランス・ベルギー・アメリカ合作映画DVD 2012年日本公開

 本当の主役は、ワンちゃんではないだろうかと思わせてくれるぐらい犬のジャックの名演技が輝いていました。イヌなのに人間みたいでした。

 映画自体は、1927年(昭和2年)から1932年(昭和7年)で、途中に世界大恐慌(1929年昭和4年に起きた株の大暴落、破産)を経て、映画が、無声映画からトーキー(発声映画)に移っていくなか、没落していく有名男優と躍進していく若い女優のふたりの関係を描くという、どちらかといえば、今の時代においては新鮮な話題とはいえない素材なのですが、前記のワンちゃんの名演技もあって、印象に残る良作として仕上がっています。最後のセリフが確か、「パーフェクト」でした。

 始まって少しして、<この映画は、声は出ないのか?>さらに、<ずっと白黒か>になります。おじさんと若い娘の恋心もうっすらとあります。

 男優ジョージ・ヴァレンティンから見て、人というものは、自分よりも偉くなった人間(かけだしの女優)が嫌いです。
 彼は、発声映画で売れ出した女優のペピー・ミラーを責めますが、彼自身は、無声映画で売れていた時は、ごうまんで威張っていました。
 平家物語と同じで、「おごれる者は久しからず」です。昔(のやり方があったから)があったから、今がある。
 その「今」は、やがて、「過去」になる。歴史はそうやって繰り返していく。

 人に優しくされない人は、犯罪を犯しやすい人になります。男優はみじめです。がんこです。そんなにこだわらなければならないことなのか。
 がんこであることのメリットは少ない。みじめで、失恋ぽい気持ちも重なります。
 されど、男優を助けようとするワンちゃんのダッシュ走りがすばらしい。

 人は、一時的な援助では立ち直れません。継続的な収入がある本人の労働が必要です。
 再起できる社会づくりへのメッセージがあります。
 
 カメラの構図がうまい。

 タップダンスがうまい。

 印象的だったシーンとして、
 目立つように、女優の鼻の右下につけぼくろを付ける。
 男優の影が勝手に動き出していなくなったシーン
 執事が男優にかけた言葉、「誇りを捨ててください。(男優へ援助の手をさしのべている女優)ミラーさんは、善良な人です」頑固なまでのこだわりは心の病気です。
 部屋に日光東照宮の「見ざる言わざる聞かざる」のサルのつくりものがあったこと。
 女優さんのセリフとして、「あなたを助けてあげたいの」「話し合いましょうよ」
 犬を紹介するときのセリフとして、「無口な奴でして」
 たいてい、ノックなしで部屋に入ってくるのでびっくりしました。

 義理・人情・温情にしがみついて生きる人生もある。時勢から取り残されることもあるけれど、それでいいと自分が納得するのならそれでいい。それぞれがそれぞれの暮らしに自信をもって暮らしていく。落ちぶれても落ちぶれなくても淡々と生活して寿命をまっとうする。

 「没落体験」という体験をもつだれか、あるいはだれかたちがつくった映画だと感じました。ゆえに、共感を呼びます。
 スタッフ一同の映画が好きという気持ちが伝わってきました。