2012年02月15日

プリズム 百田尚樹(ひゃくたなおき)

プリズム 百田尚樹(ひゃくたなおき) 幻冬舎

 プリズム=光の屈折率が異なる多面体=多重人格という設定です。病名は解離性同一障害となっています。
 整理します。本体は岩本広志です。彼の中に宿るのが、村田卓也、宮本純也、精一、あとふたりの合計5人です。主人公梅田聡子は、相手が多重人格者と知ったうえで、村田卓也に恋をします。
 児童虐待に対する抗議がベース(基礎)にあります。どう読めばいいのか立ち位置に迷う作品です。読書中、作者の精神状態は大丈夫だろうかと不安になります。「 」のセリフ連続記述による進行です。作者は新しい事柄に挑戦しています。
 人間だれしもが多重人格者です。そのときの状況や相手によって自己の性格や人格を変えます。困難から避難するために肉体から人格を離脱させる。自分を外からみつめて、自分の肉体を他者に与える。そういう体験は自分自身にもあります。
 読み始めでは小学生のときに読んだバーネット作「秘密の花園」を思い出しました。病気のひきこもりがいるお話でした。100年ぐらい前の作品です。下地になっている気がします。後半のあと70ページまでのもっていきかたがいい。いくらでも話を繰り広げられる空間を確保している。作者の努力と力量があります。ラストまでの疾走方式にはいくつかの案があって、そのうちのひとつのパターンを採用したのでしょう。
 精神障害で悩む人への励ましです。自己再生による社会復帰への道が「希望」として語られています。
 印象に残った表現です。人間の性格は色。心臓に氷柱(つらら)が刺さったよう。地獄はない。現実が地獄。人格のひとりが、もうひとりの人格を説得する。

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「プリズム」百田尚樹【粋な提案】at 2013年09月17日 23:43
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