2020年09月17日

あの子の秘密 村上雅育

あの子の秘密 村上雅育(むらかみ・まさふみ) フレーベル館

 30ページぐらい読んだところです。
 ふたりの小学6年生女子が登場します。クラスメイトです。

 ひとりめは、倉木小夜子(くらき・さよこ)名字のとおり、暗い性格設定になっています。学校には行きますが、しゃべらないそうです。人間よりも本が好き。マンション暮らし。どういうわけか、オスの黒猫がいつも彼女のそばにいます。黒猫の目は緑色です。ただし、黒猫は、想像上の生き物であり、実体としての存在はありません。
 天海優香からは、「よこちゃん」と呼ばれている。「さよこ」の「よこ」なのでしょう。
 マンションの5階暮らしです。

 ふたりめは、東京の笹塚第二小学校から甘縄小学校(あまなわしょうがっこう)に転校してきた児童で、三橋明來(みつはし・あくる)です。編み込んだ前髪とビーズがトレードマークのチャーミングな女の子です。身長154センチだから6年生にしては大きい。人をほめるのが得意。天海優香からは、「あくる」の「くる」をとって、「くるちゃん」と呼ばれます。
 三橋明來は、両親が離婚して、母方の実家へ都会から引越してきました。祖父母が同居しています。明るい性格です。一戸建て暮らしでしょう。

 ほかには、短髪で眉太(まゆぶと)の男性担任の坂井先生がいます。
 女子グループの中心が櫻井美咲ちゃん。彼女には要警戒だそうです。いろいろめんどうな女子の世界があるようです。
 相沢巴(あいざわ・ともえ)は、ポニーテールの女の子。美咲グループの一員ではない。
 天海優歌(あまみ・ゆうか)は、少したれ目がち。おっとした雰囲気。相沢巴と仲良し。
 櫻井美咲(さくらい・みさき)愛称が、「サッキー」お姫さまみたいな女子。高校生の兄がいる。兄の名前が、「咲人(さきと)」

 出だし付近は、小学6年生女子というよりも、女子中学生にみえます。

 文章の区切りに、「月のマーク」それからたぶん「太陽のマーク」があって、そのあとに、月だと倉木小夜子、太陽だと三橋明來(あくる)のひとり語りが始まります。
 どちらかといえば、両親の離婚歴がある三橋明來のほうが暗い個性になるような気がするのですが、この本の場合は逆です。
 驚いたのは、三橋明來にも黒猫が見えるのです。

 「よこちゃん」とはだれ? 黒猫の名前? (倉木小夜子のさよこの「よこ」でした)

 黒猫と倉木小夜子を結び付けたのは、倉木小夜子の父親です。
 父親がショーウィンドウの向こうにあった黒猫を手に入れたのですが、黒猫が生きた猫なのか、人形だったのかはまだわかりません。(157ページで判明します)

 内容については、そんな深刻になるような状況には思えないのですがお話は続きます。
 自分では、自分しか知らない(秘密)と思っていることでも、たいていは、だれもが知っていることということはあります。お互いにしゃべらないと、そのことに気づけません。
 
 2歳から8歳ぐらいに出るという「イマジナリーフレンド」、「見えないお友だち」、「空想上の友だち」、そういう言葉が登場しました。見えると、ペットなのでしょう。
 黒猫が消えてしまうのですが、自分が創り出した想像上の存在であれば、自分で再び呼び戻すこともできるでしょう。ちょっと普通じゃない世界に足を踏み入れることになりますが。
 
 なんだろう。黒猫の存在が具体的なものでない以上、ここまで心理的、そして、交友関係で、ぐずぐずする理由がわかりません。
 
 情景描写がうまい表現に思えません。「みかん色の夕日があたりをあまずっぱい色にそめている」は、風景というよりも食べ物のレポートをしているようです。この作品の風景描写は食べ物がらみが特徴です。たとえば、ケッチャプがらみの夕焼け空があります。

 名前の表記で、「〇〇ちゃん」の「ちゃん」は付けないほうが読みやすい。読んでいると、「ちゃん」がたくさん出てくるので、頭の中で、「ちゃん」が反復して読みにくい。あと、「〇〇さん」の「さん」も同様です。途中から敬称抜きで読みました。
 それから、児童たちの名前はできるだけフルネームで書いてほしい。書くときに、ひとりの人間について、フルネームがあって、上だけの表記があって、下の名前だけの表記があって、愛称表記があってなので、だれなのかがわかりにくい。
 
 倉木小夜子はなぜ攻撃的な態度をとるのだろうか。わかりません。
 倉木小夜子の両親の状態がいつまでたってもわからない178ページ付近を今は通過しています。
 
(つづく)

 全体を読み終えました。
 後半に向かって、たくさんの仕掛けがしてありました。
 今年読んで良かった一冊です。発想がいい。
 結末は、予想に近かったので安心しました。

 「依存」について考えました。「ギブアンドテイク」という言葉がありますが、たいていは、ギブ(与える)するほうはずーっと与え続けて、受け取る側は、ずーっと受け取るというのが、世の中のありがちな形態です。助け合いではないのです。一方的な援助になってしまうのです。そこが原因になって、人間同士の対立が深まります。
 「利益」のキャッチボールができるようにならないと、「平和」が訪れないのです。

 262ページ付近から、この物語の心臓部に入ります。
 がっちりと構築した「考え」があります。
 「ぬいぐるみは、持ち主といしょに遊んで、飽きられて捨てられるまでが仕事」とあります。
 
 ひとり親家庭が増加している今、こういう物語がこどもたちから要求されているような気がします。

 ファンタジー(幻想)+ミステリー(推理)+超自然現象、スリラー(ぞっとするような怪奇)すらある作品です。
 太宰治の「生まれて、すいません」の世界まで見えてきます。
 精神世界、メンタル、スピリチュアル、心が重たくなって、最後は、解放される。詩的です。
 おとなになったら忘れてしまうこどもの世界です。

 とても深く気持ちを追い詰めた作品でした。

 気に入った文章表現として、
「わたしとともだちになってもいいことないわよ」
「わたしを助けてください」
「友だちって、なろうと思ってなるもんじゃないよう」
「別れを乗り越える」
「心から血を流していたんだろう」
「あなたは私の一部なんでしょう?」
「あたしは、パパとママにいっしょにいてほしかった」
以心伝心(いしんでんしん。言葉や文字なしにお互いの気持ちが通じること)
両親の離婚をこどもである自分のせいにする。

 意味が取れなかった文節として、
「学校はそわそわとした非日常に包まれている」

 調べた単語などとして、
(髪型)前髪編み込みビーズ:髪が編んであって、飾りにビーズが使ってある。
ローファ:靴ひもなしの革靴
リフレイン:繰り返すこと
チャーミング:魅力的。人の心をひきつける。
害悪:がいあく。周囲に災いを与える。
気色ばむ:きしょくばむ。怒ったようすが表情に出る。
山かけうどん:とろろいもがのったうどん
外聞:がいぶん。世間での評判
杞憂きゆう:無用な心配
アンタッチャブル:ふれてはいけない。倉木小夜子には話しかけにくい雰囲気がある。
だしに使う:自分の利益のために利用する。
所在ない:何もすることがない。
ゴーマン:傲慢(ごうまん)人を見下す態度
自嘲的(じちょうてき):自分で自分をばかにして笑いのネタにする。
坊主めくり:百人一首の札を使う。絵札を使う。裏向きで山札を積む。ひとりずつめくる。絵札が男性の時は自分の手札になる。絵札が僧侶(坊主)のときは、自分の手札を全部捨てて山札の隣に置く。絵札が女性のときは、坊主の人が捨てた札を全部もらう。山札がなくなったときに、手札を一番多く持っていた人が勝利者となる。
残響(ざんきょう):音の反射。引き続き聞こえる音
無粋(ぶすい):気持ちのやりとりに配慮がないこと。
アルペジオ:ギターの弾き方。高い音、 あるいは低い音から、一音ずつ弾いていく。
アイデンティティ:自己同一性。自分は何者なのか。自分の定義。自分の人生の目的。自分の存在意義
コンプライアンス:法令順守(ほうれいじゅんしゅ)法令を守る。  

Posted by 熊太郎 at 07:27Comments(0)TrackBack(0)読書感想文