2020年09月29日

相棒 シーズン10 DVD 2011年-2012年

相棒 シーズン10 2011年10月(平成23年)-2012年3月(平成24年) DVD

「第一話 贖罪(しょくざい。犯した罪や過失を償うこと)」
 懐の(ふところの)奥行きが深い作品でした。お見事でした。
 殺人の罪で服役を終えた男性が飛び降り自殺をして亡くなります。彼は犯人ではありませんでした。冤罪事件の発生です。(えんざい=無罪なのに有罪にさせられる)
 誘導したのは、元裁判官、元検事、元刑事のメンバーです。
 杉下右京は果敢に挑んでいきます。
 始まって、60分ぐらいたったころには、敗色濃厚で、このまますんなり終わるしかないのかというシーンに至るのですが、観ているほうは、『相棒』はこのままでは終わせないと期待がふくらみます。そして、きちんと期待に応えてくれる内容でした。
 
 なにかしら無理がある話ですが、うまくまとめてありました。
 少人数での演劇を観ているようでした。
 キーワードとして、「取り調べの可視化」「録画」
 良かった杉下右京のセリフとして、「ぼくが、あきらめると思いますか?」、伊丹憲一刑事の「(杉下右京に踊らされているのではないかという指摘に対して)こうなりゃいくらでも踊ってやるよ」、そして手法として、『強引に入る』、杉下右京がなんでもできるスーパーマンに見えました。
 その他の言葉などとして、「警察を全面的には信用していませんから」「正義は、(警察、検察、司法によって)ゆがめられてしまう」「警察はいつだって過ちを認めない」
 罪を犯しているのに無罪を主張する人に対して、「裁判では勝てても、社会的制裁が待ち受けている。刑務所の中にいたほうが楽だったと思うであろう」

「第二話 逃げ水」
 かなり苦しい思いが残る悲劇でした。
 殺人事件の加害者の家族が、被害者の家族から責められます。
 怨念があります。怨念:おんねん。深く強いうらみ
 加害者は若い青年です。嘘つきのいいかげんな人間ですが、罪を軽くするために弁護士に進められて、誠意のこもっていない謝罪の手紙を被害者家族に何通も送って実績をつくり裁判で罪が軽くなります。弁護士は正義の味方ではありません。法律解釈を駆使して依頼人のために働き報酬を得ることが目的です。
 加害家族である加害者の両親と姉は社会的制裁を受けてぼろぼろになります。加害者個人の罪だけでは済みません。
 被害者の両親は、出所してきた加害者を殺害したいぐらい憎んでいます。そんな被害者家族にインターネットの誹謗中傷攻撃があります。(ひぼうちゅうしょう:相手が困ることを言いふらしたり、相手を汚い言葉で攻撃したりして、人の心を傷つけて、自分の快楽を得る行為)この作品は10年前のものですが、10年たってようやくネットの投稿者を処罰する対策が動き出しました。一般的に、他人は、冷たいものです。
 タイトル「逃げ水」は、真夏の暑い時に、前方のみずたまりのようなゆらめきが見えるのですが、進んでも、進んでも、その水のゆらめきは遠ざかります。目的地とか、希望というものにたどりつけないのです。にげ水のシーンは幻想的で見ている者の心理作用に効果がありました。

「第三話 晩夏」
 42年前の毒殺事件の謎解きを杉下右京が見事に成し遂げます。
 むずかしい男と女の愛の話でした。
 ラスト付近のトリックには気づけましたが、それでも、半分気づけただけです。謎解きがなかなかむずかしくて見ごたえがありました。

「第四話 ライフライン」
 ライフラインは、運送業を指し、運送会社の経営にゆきづまった社長が、生命保険金と引き換えに自分の命を犠牲にします。
 保険金目的殺人は昔からあるひとつのパターンですが、人を信じてうんぬんという内容になってはいますが、借金のために従業員の生活を優先して、家族の暮らしを壊してという部分には悲しくなります。債権者から逃れるために死を選ぶよりも、法律の手続きにのっかって、破産とか、生活保護の受給とかで一時避難して、再起を図ってほしい。昔は、ひとりの人間が、会社を興して、倒産しての体験をくりかえしたものだと、なかば英雄伝のような話を聞いたことがあります。
 ドラマのほうは、2011年ごろの話で、運送不況のようすですが、10年ぐらい経った今は、ネット通販の拡大で人出不足のようです。なんでも波があるので、うまくいかないときは耐えて、運をためているつもりでいるのがいい。

「第五話 消えた女」
 あとあとわかることですが、殺人現場にたまたま居合わせた若い女性の存在がなくなります。
 有力国会議員がからんでくるので、警察上層部から捜査に圧力がかかります。いつものように特命係のふたりが動き回って事件を解決します。
 大きな権力が動くとなんでもできてしまうところが怖い。

「第六話 ラストソング」
 ジャズシンガー役を演じるゲストの研ナオコさんのみせびらかし企画になっています。
 研ナオコさんを犯人としてみせかける内容で、視聴者を困惑させます。
 進行するにつれて、新犯人像をイメージできる流れでしたが、殺人のトリックはわかりませんでした。ただ、ずいぶんと、めんどうくさいことをするのだなと受けとりました。
 脱税がからみます。
 「わたしはもう二度と歌わない」の締めが良かった。

「第七話 すみれ色の研究」
 ウィルス研究のお話です。
 刑事物語を超えた人間ドラマにまで至っています。
 白血病と国からの研究費横領と内部告発と亡くなった妻をめぐる夫婦愛、そして、研究者の父と高校生の娘の葛藤がありますが、父は、一時は犯人と思われるものの、じつは、まじめで誠実です。父はただ、人命を救いたい。
 角田課長のお弁当話がおもしろい。笑いました。バナナの朝食、昼の弁当は、昨夜のおかずの残り物で、肉じゃがのじゃがいもだけ。セリフ「愛妻弁当じゃない。晩メシの後始末」がおもしろかった。
 杉下右京と神戸尊の二本線で捜査が進みます。最後は一本につながります。ふたりがひと芝居うったことには、気づけました。やらせの対決とセリフまわしがおもしろかった。

「第八話 フォーカス」
 報道カメラマンのお話です。最初から後半までは、写真で相手を恐喝するような話で感じが悪いのですが、最後は、複数の『組み写真』によって、感動的な結末を迎えます。報道からの謝罪があります。深い哲学がありました。報道カメラマンの魂が強調されて終わります。先日、戦場カメラマンのロバート・キャパの物語を読んだので思い出しました。
 話はややこしかった。込み入った内容です。冒頭の刃物による刺殺が、劇の撮影中のように見えました。被害者のそばをたくさんの通行人が知らん顔をして通り過ぎます。そういう人もいますが、たいていは、びっくりして立ち止まって救急車を呼びます。

「第九話 あすなろの唄」
 あすは、ひのきになろうという、もうずいぶん古い唄ですが、人のためになろうというあすなろの唄の精神で、最後まで貫かれます。

 硫化水素による中毒死殺人です。この時代だと、地下鉄サリン事件を思い出しました。1995年でした。

 加害者が、『純日本産』にこだわります。日本が利益を得ることへの執着心が強い。もはや、いまとなっては、地球的規模で考える時代です。国境も国籍ものりこえて互いが共存しないと地球が人間の力で破壊されて滅びてしまいます。

 キーワードは、「にわか科学は、目的を失う」
 ダイナマイトを発明したノーベルのことが話されます。

 警察幹部は事件の解決よりも組織の体面のほうが大切です。なのに、特命係のふたりを利用するところがおもしろい。とくに捜査一課の伊丹センパイはじめ三名の動きが楽しい。六角精児さんの鑑識役はかわいそうなぐらい働かされます。

「第十話 ピエロ <スペシャル>」
 手に汗握る傑作でした。
 開始1分41秒で犯人がわかりました。刑事コロンボ方式だろうかと思いましたが、まんまとからくりにひっかかりました。
 テロリストによる身代金誘拐、拘留されている政治犯の釈放要求と思いきや、そうではない、営利目的誘拐かと思いきや、そうでもない。ホームレスがらみの社会福祉の話へと変化していきました。犯人の意図と追いかける警察組織の意図が一致しません。すれ違いです。そして、組織というものは、内輪もめをしたほうが負けるようになっています。

 人質にされた神戸尊刑事への警察の対応がけっこう冷たい。心配されていません。仕事となると、人ではなく、モノ扱いです。大河内監察官だけがフォローしてくれました。
 杉下右京は、さすがです。頼もしい。天才です。
 
 伏線として、ピエロの表と裏、チェスのコマでルーク、

 芹沢刑事が犯人に撃たれてしまいました。死んじゃいけない。

 『生きていてこそ』のドラマでした。2012年元旦に放映された作品でした。

「第十一話 名探偵再登場」
 300億円の相続とか、遺産目当ての殺人事件です。
 結末付近で、「そういうことか」と納得しました。
 人は、カネのためなら人をも殺します。
 私立探偵をからめた事件設定でした。
 調べた言葉として、ギムレット:ジンベースのカクテル

「第十二話 つきすぎている女」
 月本幸子さん役の鈴木杏樹さんが登場して、以降、「花の里」の女将さんになることをいまごろ知りました。テレビをあまり見ない生活が長かったので、少しずつ過去を取り戻す作業を続けています。
 何もないところに何かがあるような雰囲気をつくる。元家政婦の遺体がなかなか出てきません。
 杉下右京さんの調子も悪いようで、鑑識の六角さんいわく、更年期障害ではないだろうかと。
 答えは目の前にあるのに気づいていなかったという杉下右京さんの説明でした。
 そういうことかと納得がいきました。税金逃れの偽装失踪事件です。すっきりしました。

「第十三話 藍よりも青し」
 首つり自殺に見せかけた殺人事件でした。
 犯人も犯人ではない人が自首します。
 2011年という時代背景で、外国人労働者たちも出てきます。

「第十四話 悪友」
 三人で強盗に失敗して服役の悪友たちです。以前の放送であったときのメンバーで記憶があります。
 なんだかんあっても腐れ縁は切れません。現実と同じです。
 3億円の詐欺事件です。からくりがいろいろからみあっていて、うまいつくりでした。真犯人がなかなか見えてきません。

「第十五話 アンテナ」
 アンテナというのは、自分に対する愛情を確認する感度です。相手が自分のことを思って自分に言ってくれているのか、あるいは、ものを言っているほうの自分自身のために言っているのか、その割合は何対何なのかというような感度です。そして、ひきこもりになると、その感度があがるのです。
 ひきこもりの青年が、通り魔事件の犯人として疑われます。彼は無実ですが、それがわかるまでにすったもんだします。16歳で時が止まった25歳の息子がいると説明があります。
 ひきこもりって何なのだろう。若者だから注目されますが、老若男女、ひとり暮らしの人も含めて、あまり出歩かず、何らかの手段で生計維持できているのならそれはそれでいいのではないか。いろいろな暮らし方があっていいのではないか。
 落語で火事息子というのが紹介されます。ほろりとくる親子の人情噺です。
 もうひとつ、最後に若い夫婦の気持ちのすれ違いが映像で流れます。赤ちゃんが生まれたときにありがちなことです。でも、それが殺人行為の動機です。妻の証言と夫の言葉の交互の映像は怖いぐらいの対比でした。夫に対する妻の殺意があります。男尊女卑の男優位の社会に対する女性の抗議があります。

「第十六話 宣誓」
 相棒の神戸尊さんが、もうじき番組を去る気配がありました。
 事故死とも思える単純な傷害致死事件が発生しましたが、警察の不祥事がからんでいます。5年前の冤罪事例が明るみに出ます。犯人ではない人が犯人とされて、さらに警察に追い詰められて事故死しています。
 権力をもっている悪人たちがグルになったら何でもできてしまいます。それを杉下右京が阻止します。
 神戸尊さんにも類似体験があるようで、自分は裁判所で嘘の証言をしたことがあると発言があります。さみしげな終わり方をしました。
 タイトルの宣誓は、警察職員になったときの宣誓をさすそうです。洗脳に近い。

「第十七話 陣川、父になる」
 三人の妊婦の取材をしていたテレビ番組制作会社の女性ディレクターが、自殺に見せかけた毒殺で亡くなります。
 人間の恐ろしい二面性を克明に浮き彫りにした作品です。人はみかけによらない。言動と腹の中にあるものは正反対です。
 人間とはなにか、つまり「欲望」を追いかけるのが人間というドラマです。

「第十八話 守るべきもの」
 国会議員のSP(セキュリティポリス)をしていた警察職員が中途退職して警備会社に転職後、警備中に狙撃から警備依頼者を守ろうとして命を落とします。
 人として不良な部分がある人の警備はできない。
 信頼関係の裏切り、組織内での着服、脱税、隠蔽(いんぺい。悪事を隠す)、狂言(きょうげん。人をだますための嘘の芝居)
 ありがちな内部犯行です。正直者が不利益を受けます。

「最終話 罪と罰 スペシャル」
 ついに最終話となりました。それでもまだ2012年の春です。
 クローン人間の是非を問う内容です。最近はクローン人間という言葉を聞かなくなりました。8年ぐらい前はよく耳にしました。

 事件自体は、早い時期に明らかになり犯人、犯行内容もわかります。
 クローン人間をつくりだすことができる女性研究者がいます。
 夫とこどもを事故で亡くした女性研究者の娘がいます。女性研究者が死んだ孫息子の細胞の核を娘の子宮に植えつけてクローン胚をつくり妊娠させました。
 クローン技術に反対意見をもつ女性研究者の息子がいます。彼は熱心な宗教家です。クローン人間は神を冒涜(ぼうとく。けがす)するものだと主張します。
 姉が弟を殺害します。次に、ふたりの母親である女性研究者が娘の身代わりになって自首します。でも、杉田右京は嘘を見破ります。杉下右京の推理はすばらしい。
 被害者が着ていた黒いダウンのロングコートが推理の決め手でした。
 妊娠している娘のおなかの中のこどもの決着はどうするのだろう。とても長い時間をかけました。
 クローン人間の是非を問う問答が続きます。神戸尊と杉下右京が対立します。
 結局神戸尊は人事異動となりました。特命係から転出です。
 杉下右京は孤独です。そういえば、これまでに杉下右京の自宅の映像を観たことがありません。真実を貫こうとする人間は孤独です。

 巨大組織のとりまわしがあります。
 組織を守るために、事実をあったのになかったことにしようとするのが権力者の思考です。
 神戸尊の人事に関しては、人事権で人をしばって身動きさせないようにするのが上層部の仕事です。
 
 研究者である母親女性には、研究者としての成功欲望があります。功名心です。(こうみょうしん。成果をあげて名誉を手に入れたい)そのためには、娘を実験台にでもする。それが本音。建前は、娘を守りたいです。
 いっぽう娘もまた欲望があります。クローンでもいいから自分の子が欲しい。娘はおとなしそうにしていましたが、いざとなれば牙(きば)をむき出しにします。人間は怖い。犯人たちの本性がむき出しになります。女性だからといって優しくはありません。相手も必死です。

 そもそもクローン人間と呼ばれる生き物は、人間ではありません。人間の姿形をした人間とは異なる生物です。
 生まれてきても実験材料でしか扱えません。クローン人間が生きられる場所は研究所の中だけです。

 ちょっと、心にしんどい時間帯が長すぎたかなと思わせる作品でした。

「裏相棒DVD」
(1)舞台 相棒スペシャル ファンミーティング
 最初に神戸尊(及川光博)さんの卒業紹介が本人と杉下右京(水谷豊)さんの映像で流れて、次に捜査一課の三名、伊丹憲一(川原和久)さん、三浦信輔(大谷亮介)さん、芹沢慶二(山中崇史)さん、角田六郎(山西惇)さん、米沢守(六角精児)さんの五人で、おまんじゅうを盗んで食べたのはだれかという推理の寸劇をされていました。
 BGMの力を借りながら話を進めていく手法でした。
 映像では出ない各自の個性が現れておもしろかった。川原和久さんは結婚が決まったらしくその話題に終始していました。大谷亮介さんは関西のおじさんという感じで演技がうまかった。山中崇史さんは大きな声を出して明るい人でした。山西惇さんは頭のいい人で、六角精児さんはセリフがいっぱいで、ご自分でもこんなにたくさんしゃべる役ではないのでと何度か言い間違いもあり大変そうでした。みなさん、映像と実像は異なります。
 その後、トークショーをされましたが、おしゃべりはそんなに上手じゃないことがわかりました。やはり、台本がいる役者さんです。
(2)卒業発表記者会見
 杉下右京(水谷豊)さんと神戸尊(及川光博)さんふたりの記者会見です。製作者の方も同席されました。
 神戸尊さんが番組を去る発表です。神戸尊さんのひとこと、「ざっくりいうと、そのほうがもりあがるから」がわかりやすかった。
 おととしの秋にふたりには、神戸尊の降板が告げられていたというお話には驚かされました。でもまあ、いつも遠い先を観ながら番組をつくっているのでしょう。
 神戸尊のスパイ役での登場を思い出してなつかしかった。
(3)水谷豊×及川光博インタビュー
 どんな仕事でもいろいろなことがあるとふたりのお話を聞きながら思いました。
(4)スーパーJチャンネル独占インタビュー
 同じことを場所を変えながら何度も話さなければならない役者さん、芸能人さんは大変です。聴き手の渡辺宜嗣(わたなべのりつぐ)さんが上手にインタビューされていて感心しました。お人柄のいい方です。
(5)ALL UP
 シーズン10終了撮影シーンです。花束贈呈の連続です。仮想の世界なんだなあと実感しました。
 もう8年ぐらい前のことですが、テレビをあまり見ない生活を送っていたので新鮮です。続けて、シーズン11を観ます。過去を掘り起こす作業をしています。楽しみです。