2023年05月18日

心理的安全性のつくりかた 石井遼介

心理的安全性のつくりかた 石井遼介 日本能率協会マネジメントセンター

 なにかの記事を読んでいて、いい本ですと紹介されていたので読むことにしました。
 タイトルから見ると、個人の心のもちかたに関するアドバイスに見えるのですが、読み始めてみると、会社組織運営のコツを教えてくれるアドバイス本のようです。
 もうリタイアしたので、どこかの組織に属して働くことはありませんが、内容に興味はあるので、読みながら感想を書き足していきます。

 人間関係のコミュニケーションのことが書いてあります。
 腹を割って話ができることが『心理的安全性』に結びつくというようなことが書いてあります。組織の目標に向かって、①率直な意見 ②素朴な疑問 ③違和感の指摘が、いつでも、だれとでも、気兼ねなく言えることとあります。同感です。

 自分がにがてな人は、しゃべらない人、黙っている人です。
 黙っている人は、たいてい、心の中に不満をもっています。
 意思表示を求めても、その場では発言してくれません。
 文句を言いたい相手がいないところで、本人のおしゃべりが爆発します。
 悪口ざんまいです。
 自分はいい人で、相手は悪い人です。(この本の67ページに類似のことが書いてありました。『相手に問題がある。それに私は困っている』と書いてあります)
 困るのはこちらです。チームワークを形成できません。意思表示をしてほしい。

 組織運営のコツが書いてあります。
 離職率が低く、収益性が高い組織をつくる。
 雇う側からすれば、採用してすぐ辞められるのは痛手です。
 人ひとり雇うのにも、経費がかかっています。金と時間と労力がつぎこまれています。辞めるなら、あなたを採用するためにかかった費用を払ってくださいと反発したくもなるのです。なんでもタダだと思っている新卒就職者がいます。辞めるのは雇う側の対応が悪いからだと主張されると、もう二度と顔も見たくないとため息をつくのです。

 読み進めていくと、本の説明はむずかしくなります。
 正解があるかないかで、時代が変化してきているとあります。
 これまでは、正解があった。これからは、ないというような表現です。
 未来のことです。どうしたらいいですかです。
 懐疑的な気持ちで読み始める読書です。(かいぎてき:疑問をもちがらの)
 理屈の本だと思います。人間は、感情の生き物です。理屈どおりには、ことは運びません。

第1章 チームの心理的安全性
 時代により、小中学校義務教育の中身が変化しました。
 昭和の時代は、軍国主義教育の延長でした。みんなで、社会に貢献するために必要な標準的な人間像をつくるのです。大量生産方式です。
 『組織』を中心にして、個々の個性を押さえて、集団の力を最大限に発揮できる人材を育成することが学校教育の目標でした。(わたしは1960年代のあの時代をふりかえってそう思います)組織というマシーンの歯車製作活動です。
 ゆとり教育のころから、個人の個性が優先されるようになりました。
 組織目標を達成するのではなく、個々の個人が幸福感をもって満足することが優先になりました。
 その結果、組織では、役職者の成り手が激減しました。
 日本の労働者のマンパワーは、弱体化したように見えます。
 昔は、役職者になりたい人間が多かった。なることが当然のことだと、だれもが思っていた。
 今は、役職者の成り手がいないと『指名方式』で、あなたは、いついつから役職ですと指名する時代です。いやなら辞めてくださいです。

第2章 リーダーシップとしての心理的柔軟性

第3章 行動分析でつくる心理的安全性

第4章 言葉で高める心理的安全性

第5章 心理的安全性 導入アイデア集

 以上の構成になっています。

 まずは、第1章 チームの心理的安全性から。
 『罰(ばつ)』について書いてあります。
 罰があるから言いたいことがいえないということでしょう。
 提案しても否定する人間がいる。
 せかされる。空気を読めと言われる。細かいと指摘される。上司だから気を使って言えないこともある。
 まず、保身を考える。
 不安だから、保身を考える。
 
 集合体『チーム』について書いてあります。
 小集団編成でのチームが違っていると、後ろの席に座っている人間の名前も知らない。覚える気もないという人がいたりもします。同じ組織にいても他人扱いです。その無関心さに驚かされることがあります。
 リモートワークのことが書いてあります。
 あなたは、自分が働いている会社の社員の名前と顔がどれだけわかりますか。
 組織の幹部職の名前を知らない人もいます。

 誤解について書いてあります。
 仲良しごっこや、なれ合いでは、いい仕事は出来上がりません。(この本では『ヌルい職場』と表現されています)
 なれあいでは、不祥事を隠す集団ができあがります。不祥事が発覚したときに、組織は崩壊の危機に陥ります。

 本では、個々の人間の技能が、同じぐらいの能力水準(それも高い水準での)能力をもつグループについて書いてあります。
 現実には、各自の能力は凸凹(でこぼこ)です。お互いに足りない部分を補い合って働くのがチームワークです。
 
 「キツい職場」について書いてあります。
 パワハラありです。いじめありです。
 
 著者が求めていているのは『学習して成長する職場』です。
 なにごとでも『学び』は大切です。それをやることによって、なにかしら自分にとって『得(とく)』がある。得こそ、人間の欲望を満たし、進路を開拓していく動機です。損か得かを考えて動くのが、人間の性質です。
 『基準は高くする』(現実には、それがむずかしい。ずばぬけた能力をもつ人材がほしいという以前に、普通の能力をもつ人材をそろえたい)
 採用時の物差しとして、楽をしてきた人間はいらない。
 苦労人こそ人材です。

 サーベイ:調査

 心理的安全性を感じられるとき
 ①話しやすい ②お互いに助け合う気持ちがある ③挑戦する心意気がある ④新奇歓迎
 というようなことが書いてあります。
 新奇(しんき):新しい発想、奇抜な発想ということでしょう。『異能、どんと来い』と書いてあります。

 チームとして仕事をするときのグループと個人についての姿勢に関する記事が書いてある本です。この本は、リーダーやこれからリーダーになるメンバーが読む本です。

 中小企業ではむずかしい。人間関係のしがらみが多い。
 この本は、大企業向けのテキストです。

 裁量の分量分担分けがむずかしい。
 うまくいくこともあるし、いかないこともあります。
 結局『人材』が大事です。

 だれしも楽をしたいと考えるのが人情です。
 リーダー同士の関係もあります。

第2章 リーダーシップとしての心理的柔軟性

 個人の利益のために組織を利用されるということがあります。
 組織・チームの歴史について書いてあります。
 昔は組織の中に、雇われ人を村人とする村社会がありました。村長がいて、村人がいる。組織のルールとは別に、村の掟(おきて)がある。掟は、組織のためにあるのではなく、村社会の利益のためにある。村人たちが儲かれば(もうかれば)、不正も良しとする。自分たちの利益のためなら、不正はOK。そんな組織の体質が歴史になって、次世代に引き継がれていく。
 
 人事権を握っている人間に組織運営を左右される。
 リーダーシップについて書いてあります。
①取引型:アメとムチ。成果主義とあります。織田信長タイプでしょうか。
②変革型:ビジョンと啓発とあります。やはり織田信長型だろうか。豊臣秀吉型の要素もあるような。
③サーバント:奉仕者だろうか。直訳は使用人です。メンバーにサービスを提供するリーダーだろうか。
④オーセンティック:直訳は「本物の」「正真正銘の」です。自分らしく、弱さも見せられると書いてあります。

 ページをめくるごとに『考え』が表(ひょう)になっています。
 縦軸と横軸があって、それぞれの特徴が書いてあります。
 
 本のテーマは『メンバーが心理的に安全なチーム』をつくることです。
 むずかしいことが書いてあります。
 『社会構成主義』とは、現実だと思っていることは、客観的な事実ではない。読みを深めると、個々の人間がもっている考えを全員がもつ。考えを共有してこそ(合意)現実になると読み取れます。だから『対話型組織開発』が必要だと読めます。

 『行動』をどうするこうするということが書いてあります。
 昔聞いた、野球の名選手が名監督になれるわけでもないというような話が書いてあります。
 立場によって、やりかたを変えなければならないのです。『心理的柔軟性は、状況・立場・文脈に応じて行動を切り替えること』というような説明があります。
 心理的安全性の因子として、①話しやすさ ②助け合い ③挑戦 ④新奇歓迎 です。
 
 これはこうだという思い込みをもって人と接することを『色眼鏡をかけて見ている』と表現があります。いまどきのロシア大統領のようです。

 トラブルを乗り切る時の手法として『それはちょーどよかった』と発言する方法が紹介されていますが、自分にはピンとくるものがありませんでした。

 このテキストは、講演会の台本のようでもあります。

(つづく)
 
第3章 行動分析でつくる心理的安全性
 『凝り固まった関係性・カルチャーを解きほぐす』とあります。
 読みながら思うことは、それが正しいこととして、実行するためには、個人ひとりの力では無理です。集団でないとコントロールできません。研修担当の部署などで組織的な取り組みが必要です。
 『歴史を変えることが必要です』とあります。長年続いてきた職場風土の歴史を変えるためには人を変えなければなりません。どちらかといえば、ベテランの入れ替えが必要ですが、そこがむずかしい。個々がもつ人間の脳みそは簡単には変えられません。厳しい話ですが、使うか捨てるかの判断をしなければならないこともあります。リーダーは、ときに非情で孤独です。
 
 鎌倉時代の鎌倉幕府『御恩と奉公』のような話が出てきます。
 行動に対するみかえりがあります。人間のもつ欲の本質でしょう。
 本では『増えるみかえり:好子(こうし)』と『減るみかえり:(嫌子(けんし)』という言葉で説明があります。

 読みながら思いついたことです。
 会話のキャッチボールがじょうずな人になる。
 そういう人を見つけて自分もその人の真似をする。
 
 よく話し合って、方針を決めて実行する。
 決めたとおりにやって、うまくいかないこともあります。
 そのときは、また話し合う。
 その繰り返しで、全体がいい方向へと動いて行けるようにコントロールする。

 『効率』は、ビジネスの世界だけにして欲しい。
 プラベートに効率はいりません。ムダがあっても心がリラックスできたほうがいい。

 個人は、自分にとって強い分野をもつ。(得意なことを身につける。自信をつける)
 自分が弱い分野は、委任する。
 そんなことが書いてあります。同感です。だれしも得手不得手はあります。
 協力して、チームワークを発揮することが大事です。

 細かすぎる手段にこだわらない。
 言われたことをやるだけの人間にならない。
 イエスマンや太鼓持ち(たいこもち。相手をいい気分にさせる。内容のよしあしは関係なくほめる)にならない。
 異質を否定しない。
 理解するために対話を続ける。
 そんなことが書いてあります。上達のヒントです。

 あれはイヤだ。これもイヤだと言って、されど、代替え案は示さない人は、グループにとっては、いなくてもいい人なのかもしれません。むしろ、グループ全体にとって、いないほうがいい人なのでしょう。

 プロンプト:補助的なもの。正しい行動につながる確率を高める補助的なもの。

第4章 言葉で高める心理的安全性
 人間はイメージ(みための先入観、第一印象)に感化(かんか。気持ちや感情が影響される)されやすい性質をもっている。キャッチフレーズの連呼とか、イケメンとか美女とか、可愛いとか、スタイルがいいとか。シンボルカラーの色とか。企業はそれをコマーシャルで利用する。活用する。宣伝効果で利益を得る。選挙もそうなのでしょう。
 
 読みながら思いついたこととして、仕事場の人は、自分の周囲2.5mのことしか関心がない。その狭さをどう広げていくか、どうやって、各自に、空間の広さと全体の流れを体感させていくか、言葉で表現していかなければなりません。仕事をしているときの個人の視界は狭い。

 チームのことが書いてあります。「営業チーム」「採用チーム」「開発チーム」「経理チーム」それぞれに目標があります。
 
 仕事は『感謝』から始める。
 だれかのおかげで、自分は自分の仕事ができているのです。
 『ありがとう』と言われて、怒る人はいません。(おこる人はいない)
 いろいろ有益なアドバイスがあります。
 『あなたをいつも(優しく)見ています』ということを言葉で表現する。気にかける。
 なんでもすべてを知っているリーダーはいない。リーダーは、謙虚に教えてもらう態度を忘れない。助けてもらう。お礼を言う。
 のび太力(のびたりょく):のび太のように、ドラえもんに頼る。
 
 296ページの『人生で大切なことは、「判断すること」よりも「選択」した方が良い場面があります。』ですが、「判断ではなく、選択しよう」の部分は読んでいて、ピンときませんでした。
 
 全体をざーっとですが、読み終えました。
 なかなかいい本でした。  

Posted by 熊太郎 at 07:36Comments(0)TrackBack(0)読書感想文