2020年08月21日

ストレイト・ストーリー アメリカ映画DVD

ストレイト・ストーリー アメリカ映画DVD 2000年日本公開

 アメリカ合衆国の73歳おじいさんアルヴィン・ストレイトさんが、けんかして10年間会っていなかった兄が脳卒中になったので、時速8kmのトラクターを運転して560kmの道を5週間ぐらいかけて、兄に会いにいくロードストーリーです。
 
 1994年にあった実話に基づくとありますが、ふつう、身内が脳卒中と聞けば、すみやかに、飛行機なり、電車なり、車で会いに行きます。
 病気は最初から深刻なものではなかったし、旅の途中のエピソードは、脚本家による創作だろうと思いながら鑑賞しました。
 ストレイトじいさんは目が悪いから車の運転はできない。だから、最初は、芝刈り機で出発しますが、すぐに芝刈り機が壊れて、1966年製のトラクターを購入して再出発します。

 出川哲朗さんの充電バイクの旅みたい。
 高齢者の気持ちの持ちようのお話です。
 ストレイトさんの娘さんは知的障害があるようで、そのことも話題になっています。父親と娘の気持ちのさぐりあいがあります。社会福祉の映画でもあります。
 ストレイトさんは、第二次世界大戦にも参戦されていて、反戦の主張もこめられた映画です。
 
 のんびりとした流れと雰囲気の映画でした。
 距離は遠いとはいえ、田舎道の連続です。アイオワ州からウィスコンシン州までの道程だそうです。田園風景のなかにある直線道路をゆっくり進むトラクターの映像がいい。
 暴漢や盗賊に襲われそうな年寄りのひとり旅なのですが、出てくるのは善人ばかりです。ストレイトじいさんを迎えてくれる土地の人たちは皆さん親切です。映画の中とはいえ、あんなに親切なアメリカ合衆国の人たちが、現実社会では、黒人差別をすることが不思議に思えました。
 ストレイトじいさんいわく、第二次世界大戦で戦地に行ったことがあるので、野宿は怖くないそうです。

 自分は、戦地では、狙撃手だった。ドイツ軍兵士を何人も撃った。終戦間近のときは、兵士が不足したためか、少年兵の数が多かった。そして、だれにも言っていないが実は誤射して味方である優秀な能力をもつ仲間を撃ち殺してしまったことがあると告白があります。
 ストレイトじいさんは、重い罪を背負った気持ちを胸におさめて戦地から帰還しています。
 ストレイトじいさんと通りすがりの戦争体験者のじいさんが思い出酒をくみかわします。アル中になったことがある。深酒の原因は、戦争体験で受けた心の傷だと戦争体験者同士のふたりが話をします。戦勝国の兵士も戦争被害者です。
 
 ストレイトじいさんと妊娠中の家出女性との出会いはちょっとショッキングでした。
 家出中の若い女性は、自分が妊娠していることをこどもの父親に話していない。家族のだれにも話していないそうです。
 ストレイトじいさんが、父親の男にも自分の家族にも妊娠していることを話しなさい。みんなで、協力して子育てをしなさいとうながします。

 「道徳」の話を聴くような展開が続きますが、胸にじんときます。思いどおりにいかないのが人生。それでも生きる。

 ゆっくり、静かに進む映画です。

 よかったセリフとして、困っている人を見かけたときは、ストレイトじいさんも出会う人たちも、「なにか、手伝うことはないか」と救いの手をさしのべます。

 もうひとつよかったセリフとして、ストレイトじいさんがお世話になった家のご夫婦の家で、奥さんがご主人さんに、「あんたは優しい人だから、ママの反対を押し切って(あんたと)結婚したのよ」

 トラクターで、ミシシッピー川にかかる橋を渡るシーンが見せ場でした。

 ストレイトじいさんは、険悪な関係になっている兄と仲直りをしたい。

 ようやく会った弟と兄は、老齢のため、もうふたりともよろよろです。ふたりとも杖(つえ)をついて、体を支えています。
 ふたりの頭の上には、ふたりがこどもだったころと変わらず、満天の星空が広がっていました。いつだって、一生懸命生きてきた。そして、老いを迎えた。

(追記 2020年9月2日)
 上の記事を書いた翌々日の8月23日にこの映画の舞台にあるウィスコンシン州で、白人警官が黒人の背後から黒人めがけて拳銃で7発も発砲するという事件が起きました。記事で、黒人差別のことを少し書いたのですが、未来を予測するようなものになって、自分でも驚いています。やはり、映画は映画であって、現実のものではなく、加工された物語だと思って観たほうがいいのでしょう。ちょっとさみしい。