2017年12月28日

彼方の友へ 伊吹有喜

彼方の友へ(かなたのともへ) 伊吹有喜(いぶき・ゆき) 実業之日本社

 卒寿(90歳)を迎えた高齢者施設入所中の女性佐倉波津子(本名はハツ)の若い頃の思い出話です。昭和12年、あと2か月で17歳になるところから始まります。舞台は東京本郷

「第一部 昭和12年」
 上品なようでそうでもない。お金持ちのようで、やっぱりそうでもない。当時の東京の様子が生き生きとした文章で進行されます。
 出版社編集部(銀座にある)で働き始めた佐倉波津子は元気いっぱいです。すがすがしい。当時の男尊女卑とか、学歴偏重社会が、女性差別じゃないか(文章表現はそれほど強烈ではない)というような流れで進んでいきます。女性の自立、そこに、ある男性へのあこがれ、恋心がからんで、青春です。ハツは歌の仕事をしたい。したいけれど歌の仕事はない。宝塚みたい。それから、二十四の瞳、壷井栄を思い浮かべました。今90歳のハツは、小説の中では若い。周囲の人たちも若い20代中心です。

 光景が目の前に見えるような文章運びです。
 料理、食べ物の記述は圧巻でした。(15ページ付近)
 「しめ縄くん」というニックネームが愉快です。

調べた言葉として、「シューバ:ロシア語。毛皮付きの防寒オーバー」
良かった文節として、「好きで女の子に生まれてきたわけじゃない」

「第二部 昭和十五年」
 平成の時代も終わる今となっては、もうみんな亡くなっている。
 長生きって何なのだろう。

主人公は19歳です。
兵隊の話が出るので、第二次世界大戦、たしか、昭和16年勃発、昭和20年終戦の太平洋戦争に突入する時期です。
 
 喫煙とか煙草を推奨、容認する記述は、昭和十五年を表しているのですが、今の時代にアンマッチです。その文章量の多さを見て、作り手側の意識が現代の時代の流れに取り残されている印象を受けました。

 文章に勢いがあります。主人公の思いが文章にのっているのでしょう。

 90歳の影をイメージしながら、20歳前後の主人公彼女の動きを見る。不思議な時間旅行感覚があります。
 内地、外地、大連、満州、昔の人のほうが、世界が広い。

 良かった表現として、「よく見て、よく覚えて、よく考える」、仕事のしかたです。それから、ハトゴヤ、屋上の打合せ場所としての憩いの場所。「多少の文字数の前後はいい」、「読者の目をくぎ付けにする」、「ひらがなでいい」、「昭和の時代ははるかに遠く、気が付けばここにひとり」、「よいことなどひとつもない」、「日本国は言葉が人を助ける国という主旨」

 調べた単語として、「奢侈しゃし:度を過ぎてぜいたく」、「台割り:印刷用語、設計、ページの疑似組み立て」、「マチに入る:ほとぼりが冷めるまでおとなしくする」、「諧謔かいぎゃく:気の利いた冗談」、「若輩者:じゃくはいもの。未熟者」、「忸怩じくじ:自分の行いについて、心の中で恥じる」、「験がいい:げんがいい。縁起がいい」

「第三部 昭和十五年晩秋」、「第四部 昭和二十年」、「エピローグ」
 喫煙シーンの記述の多さに閉口し、流し読みに入りました。苦労してようやく禁煙に成功して4年が経過した身としては、もうたばこの話は耳にしたくありません。

 藪にらみで、(見当違い)嫌われるのですが、超高齢者の偉業を讃える内容と受け取りました。そのうえで、そこまでしなければならないのかと、頭を(こうべ)垂れる思いでした。今、現役で苦労している世代をリアルに(生で)支える作品に出会いたい。

 さて、時局は戦争へと向かっていきます。
 過去と現在と、90歳になって、途中の70年間はどこへいってしまったのだろう。
 
 文化とか美を大切にする心を支えにして、人間としての誇りをもって、生きていこう、あるいは、仕事をしていこうというメッセージが後半にあり、共感しました。

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