2024年03月27日
母親からの小包はなぜこんなにダサいのか 原田ひ香
母親からの小包はなぜこんなにダサいのか 原田ひ香 中央公論新社
短編が、第一話から第六話まであります。
『第一話 上京物語』
読み終えて、自分が若かったころを思い出しました。
詳細は異なりますが、自分は18歳になって実家を出てひとり暮らしを始めました。雰囲気は小説に書いてあるこんな内容の感じでした。半世紀ぐらい前は、学校を出ると、住み込みで職人技を覚える仕事をしたり、会社の独身寮に入ったり、学生なら学生寮や下宿(げしゅく)に入る人が多かった。今ほど、住宅事情が充実していませんでした。
中学や高校を出るなり、大学を出るなりしたら、一時期でもいいからひとり暮らしを体験しておいたほうが、その後に人生に役立ちます。
衣食住の基本的なやりかたとか、社会での契約のしかた、人づきあいのしかたなどを学ぶのです。
たまに、生まれてからずーっと家にいて、おとなになってからも親と同居を続けていますという人をみると、う~むとうなってしまいます。
結婚して他人である配偶者との生活が始まると、夫婦として、いろいろうまくいかないことがありそうです。親にめんどうをみてもらう中学生ぐらいの衣食住に関する暮らし方の意識と知識のまま夫婦生活がスタートすると、いずれゆきづまりそうです。夫婦ゲンカが絶えない混乱の夫婦生活になるでしょう。
またいらぬことを書いてしまいますが、こどもにやらせるべきことをこどもにやらせないで、親や学校の先生がこどもより先にこどものことをやってしまっているせいなのか、学校を卒業して社会に出てくる新人をみて、とほうにくれたことがあります。どうやったらこういう人間ができあがるのだろうかということです。いつでもどこでもだれかが自分の世話をタダでしてくれると思いこんでいる。自分はいつでもどこでもお客さまという扱いをしてもらえるものだと思いこんでいる。自分の思いどおりにならないことがあると、相手のほうに責任があるとして相手を責める(せめる)。そんな新人を相手にすると、もうあなたの顔は二度と見たくないから、もうここには来ないでくれという気持ちになります。自立心とか、自活するんだという心意気が感じられないのです。
さて、こちらのお話です。
吉川美羽(よしかわ・みう):岩手県盛岡市に実家がある。反対する母親を押し切って、東京の短大英文科に進学した。将来ライター、カメラマンなどになりたい。親からの援助と自分の資金30万円ぐらいをもって、杉並区高円寺(こうえんじ)にあるアパートを借りた。人生の節目をへて、新たなスタートです。(最初は孤独感を味わうことになります。人にだまされないように注意してね。まあ、だまされて痛い目にあうことも人生経験ですが。それからアルコールは飲みすぎないほうがいいよ)
吉川小百合(よしかわ・さゆり):吉川美羽の母親。娘に対して過干渉です。『地元岩手第一主義の人』。ご本人も若い頃は東京にあこがれたけれど、東京で暮らしたことはない。東京に遊びには何度も行ったらしい。
吉川美羽の兄:東京の広告会社で働いている。妹の美羽がアパートを借りるまで、妹を同居させた。
吉川美羽の父:農家の三男坊。地元の国立大学を出て、盛岡市の信用金庫に就職した。役員候補。吉川美羽の妻小百合は美羽にパパのような男と結婚してほしいと願っている。娘の結婚相手は、『堅い職場』で働いている男性希望です。
町田:相場不動産の社員。吉川美羽にアパートを紹介した。美羽の母親ぐらいの年齢の女性。
相場:相場不動産の社長。杖をついた老人(男性)
小坂:コサカアパートの家主。コサカアパートの部屋は、四戸ある。
金髪店長:リサイクルショップの店長
美枝子:吉川美羽の母小百合の友人(じっさいはライバル)。東京のタワーマンションに住んでいる。お金があるらしい。ブランド品も集めている。美人。48歳。長男修介、次男修一、いずれも慶応大学関連の学校に通学している。美枝子さんは、自己顕示欲のかたまりです。タワーマンションの高い位置にある部屋から人や街を見下ろして、自己満足をされています。
佳乃:美羽の短大の女子学生。岩手県花巻市出身。
高円寺(こうえんじ)のあたりは、鉄道で何度か通過したことがあるので親しみが湧きます。
文化・芸能に興味がある人たちが住んでいるというイメージがあります。
南部せんべい:青森県八戸(はちのへ)地域発祥のおせんべい
おかあさんは、かなり、娘の人生について干渉しすぎです。
親が心配するほど、娘は男性にもてないということはあります。
話の内容は、おもしろい。
大学というところは、レジャーセンター(遊びにいくところ)なのか。
『……東京というものがなんだか、怖く感じられたのだ。巨大なブラックホールみたいになんでも引き寄せて吸いこんで……』
読んでいて、自分が18歳だったころを思い出します。
老後を迎えて、よくやってこれた。いつだって、一生懸命だった。これでいい。あれで良かった。これで良かった。歳をとった今、そう思います。
人生の体験について考えました。
最近は、冠婚葬祭を軽くすませることが多くなりました。
結婚式を挙げないカップルも多い。
思うに、結婚式のやりかたを体験していないと、自分のこどもが結婚式を挙げるときに、結婚式の挙げ方(あげかた)を、親がわからないということがあります。ほかの儀式についても同様です。人生の節目にある儀式を軽くみる傾向を、人のありかたとして、それでいいのだろうかと心配しています。お葬式も同様です。(この本の最後のお話にそういうことが出てきます。ふつう、親が死んだときには、葬祭場の部屋で、棺桶に入った親といっしょに一夜を過ごします。お通夜です(おつや)。その話のときに出てくる娘さんは、ホテルを借りてホテルで過ごしました。びっくりです)
この本は、親の『子離れ』の話だろうか。
『第二話 ママはキャリアウーマン』
かなりいい内容でした。今年読んで良かった一冊になりました。第一話との関連はありません。
以前読んだ別の本のタイトルを思い出しました。『母が重くてたまらない 信田さよ子(のぶたさよこ) 春秋社』。娘にとって、あなたはこうしなさいと強制してくる母親は悩みの種なのです。
新井莉奈(あらい・りな):新婚さん。主婦。夫の北海道への転勤で、札幌市から車で1時間ぐらいのところに住み始めた。こどもはいない。
新井大樹:新井莉奈の夫。大手損害保険会社勤務。20代。大卒。係長。北海道の支社へ転勤。将来出世するための転勤と受け取れます。会社の借り上げ住宅(社宅代わり)に住んでいる。
新井大樹は、職場のことでいろいろとストレスがたまっている。妻の就労については、働いてもいいし、働かなくてもいい、本人次第と思っている。
松永敬子:新井莉奈の母親。離婚後、母子家庭で娘を育て上げた。夫と離婚してから必死に働いて、起業して今はお金持ち。東京住まい。
渡辺:新井大樹の会社の社員。新井大樹にとっては、年上の部下。新井大樹はやりにくい。
母親には自負があります。(じふ:自信、誇り)。自分は、女手一人(おんなでひとり)で、働いて、娘を一人前に育てた。母親は娘に、女性の自立として、結婚後の就労を強要します。
娘には、負い目(おいめ)があります。一生懸命働いて自分を育ててくれたことには母に感謝している。されど、自分がこどものころ、母親は仕事に追われて、日常生活は、殺伐とした(さつばつとした)雰囲気だった。こどもの自分は、母親にほったらかしにされて、かぎっ子でさびしい思いをした。暗い家庭だった。自分は、そんな家庭にはしたくないので、結婚しても働きたくない。主婦一本でやっていきたい。夫や、いつかできるであろうこどものために働きたくない。
読んでいて思い出したことがあります。主婦の人には怒られるかもしれません。
『主婦』という人は、組織で働く人間の苦悩を知らないと思ったことがあります。
勤め人には、自分が自由に使える時間があまりありません。主婦にはあります。主婦の仕事もあるでしょうが、自分で自分の時間をコントロールできる権利があります。勤め人と違って、時間を使う自由度が格段に違います。
読んでいて、母親の娘に対する束縛(そくばく。行動の自由を奪う。強制)が厳しい。
渋面(じゅうめん):不愉快そうな顔つき。
『本当に好きな人と結婚できるチャンスは、人生に何度もないよ』(一般的に、そのとおりです)
『家庭をおろそかにしてまで、働く必要なんてない。』(ケースバイケースです。食べていけなければ、こどもを犠牲にしてまで働かなければならないこともあります)
北海道の郷土料理が、みんなを救います。北海道の赤飯(せきはん。甘納豆が入っている)、それから、いももち。
食事はだいじです。食事内容が、会話のネタになります。無難な話題です。(ぶなん:あたりさわりがない。問題にならない。無事(ぶじ))
『損か得か』にこだわると、『文化』からは距離が遠くなります。人生のおもしろさからは、離れていきます。
実(じつ)の娘なら、母親に対して、母親の自分に対する強制的な態度が、イヤならイヤとちゃんと言えばいい。
不満があったら、言わなきゃわかりあえません。
沈黙は、了解と受け取られてしまいます。
イヤなことがあっても、やらねばならないこと、やるべきことをやるのが大人(おとな)です。やりたいことだけをやって、やりたくないことをやらないのはこどもです。
こどもに対して、こどもの人生を決めようとする強制的な親に読んでほしい一編(いっぺん)です。
ラジオでお昼に流れている番組、『テレホン人生相談』みたいな内容でした。今年読んで良かった一冊になりました。
この話の場合、母親は、いくらお金があっても、哀れ(あわれ)な人です。
『第三話 疑似家族』
読み終えての感想です。
昔よく言われていた、『結婚と恋愛は違う』という内容の話です。結婚は、似た者同士で結婚したほうがいい。
お話の中では、理想に近づく形で終わっていますが、自分は、つくり話だと感じました。お金持ちの家の青年が性格もいい人として書いてありますが、そういうことはないと思います。お金の苦労をしたことがない人に、お金がない苦労がどんなにつらいものかはわかりません。お金持ちである彼と彼の親族は、きっと貧しい女性とその親族を見くだします。人には、人を差別したがる性質があります。
石井愛華(いしい・あいか):28歳。人材派遣会社勤務。群馬県出身。両親は愛華が小学生の頃に離婚して、父親は家を出て行ったまま行方知れずとなっている。こどものころは、親から虐待を受けていた。
愛華は、お金の無心(むしん。貸してくれとねだる。返してはくれない)をしてくる母親から逃げて都内で身を隠しながらひとり暮らしをしている。お金がないので、一生懸命働いている。親が今どこでどうしているのか知らない。
石井愛華は、野々村幸多と同棲している。彼に同棲を頼まれた。石井愛華は、ほんのでき心から同棲することになった野々村幸多にウソをついている。自分は、幸せな家庭に育った娘だとウソをついている。
石井愛華の信条(心構え)は、『自分を守れるのは自分しかいない』(そのとおりです)
石井愛華には、輝かしい経歴も家柄もない。大学通学のための奨学金はキャバ嬢をやって全額返済した。
野々村幸多(ののむら・こうた):商事会社勤務。お金持ちのお坊ちゃん。父親は、東証一部上場企業の役員、母親は主婦をしながら点字のボランティア活動をしている。東京都豊島区高級住宅地である目白(めじろ)に実家がある。有名な私立学校に通っていた。家族仲は良い。野々村は、恵比寿でひとり暮らしをしていたが、石井愛華を気に入って、彼女を家に招き入れて同棲している。野々村は、石井愛華と結婚したい意思がある。男三人兄弟。野々村幸多の親戚は、医者や学者、弁護士などです。野々村は、石井愛華のほんとうの素性を知らない。(すじょう。生まれ育ち)
楓(かえで):石井愛華の親友である女性。東北出身。
都築めぐみ:群馬県居住。農家で、農作物のネット販売をしている。夫は役所勤めで農作業を兼業している。娘は29歳で、東京都墨田区にある金融会社勤務、息子は高校生。夫の母親と同居している。
小料理屋喜楽(きらく)の60代のおかみ。おかみの仲介で、若いふたりが知り合った。
母親からという設定で(実はウソ)、石井愛華にお米とサツマイモが送られてきます。(都築めぐみからのネット販売です)
石井愛華の同棲相手である野々村の笑顔があります。石井愛華の母親と家庭について誤解しています。石井愛華のウソにだまされています。
ラタトュイユ:フランスニースの郷土料理。夏野菜の煮込み料理。
ご笑納(しょうのう):っまらないものですが、笑ってお受け取りください。(贈り物を渡すときの言葉)
読んでいる途中で意味がわからなくなります。石井愛華がウソをついているからです。タイトル、『疑似家族』に通じるものがあります。
積極的に愛華に結婚を迫る野々村幸多ですが、石井愛華は、自分の本当の家柄のことを野々村幸多に言えません。
身分が違うと、結婚話がしづらいということはあります。いくら財産がある相手でも、自分の親も含めた親戚づきあいがつらい。人生は気楽が一番です。結婚は、同じような人間同士がいっしょになるのが最適です。似た者同士です。
石井愛華にとって、小包を送ってくれる優しい親はいない。
122ページ、読んでいてせつなくなる。(胸が痛む)
石井愛華に、ちゃんとしたアドバイスをしてくれる人が現れます。良かった。
人生において、結婚できるチャンスは、そう何回もあるとは思えません。
この物語のふたりの結婚はむずかしい。結婚できたとしても、結婚生活を継続していくためには、このパターンの場合、男が、女をしっかり守るという強い意識をもっていなければなりません。もし苦難を克服できたらすごいことです。
『第四話 お母さんの小包、お作りします』
初めて短編同士がつながりました。
第三話で登場した群馬県の農家都築めぐみさん宅の状況です。
どこの家でもうまくいかないことがいろいろあります。
東京に出た娘さんが妻子ある男性と不倫をして捨てられて、お金まで吸い取られて仕事を辞めて、10年ぶりに群馬の実家へ本格的に帰ってきました。(数年に1回の帰省はあった)
都築めぐみ:都築宅の母親。『ありんこ農場』を名乗って、お母さんの小包をつくって(中身は米ほか農作物)、ネットやラインで受け付けて配送している。
めぐみの夫:地元の役所勤務で、仕事の合間に農作業をしている。
都築さとみ:長女。東京へ行くと、親の反対を振り切って大学進学で上京して、東京で就職したのに仕事を辞めて帰郷した。28歳ぐらいか。
都築隆:長男。高校生
祖母:認知症が始まっている。アルツハイマー型認知症。症状は軽い。
亜美:都築さとみの小学校の時の友だち。思春期は、不良グループに所属していた。父親がいない。母親は美容師。自宅の近くのアパートを3万円で借りて暮らしている。ユニクロは高くて買えない。古着屋を利用している。コメダ珈琲(コーヒー)も高くて入れない。マックの100円コーヒーを飲んでいる。
友ちゃん:同じく、さとみの幼馴(おさな)なじみ。
お宝市場:リサイクルショップ
駒田:都築さとみをだましたテレビディレクター。チビで、デブでハゲだそうです。妻子あり。詐欺師のような男。めぐみの貯金を吸い上げた。貢がせた(みつがせた)。めぐみを自分の借金の保証人にした。
『24歳から5年間妻子ある男と付き合ってしまった』(ばかだなあ。そんな男に、『誠実』という言葉はありません)
読みながら考えたことです。
人間はなんのために生きているのか。
人間は、遊ぶために生きている。
遊ぶために働いている。
人生を楽しむために働こう。
水沢うどん:群馬県渋沢市伊香保町の名物料理
一筆箋(いっぴつせん):小型の便箋(びんせん)。短文を書く。
ロム専(ろむせん):読むだけで書き込みをしない人。Read Only Member
読んでいると、さみしくなってくるような内容でした。
テレビ局の番組とか、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の弊害(へいがい。有害なこと)が書いてあります。
う~む。つくってある話です。現実ではありません。
『第五話 北の国から』
北海道に、もしかしたら亡くなった父親の母親(主人公にとっての祖母)がいるのではないかという話です。
亡くなった父親の両親は、離婚している。父親は祖父が引き取って育てた。祖母の所在は不明という設定です。
亡くなった父親(脳出血で急逝(きゅうせい。突然亡くなった))に毎年1回昆布が送られてきていたという経過があります。相手の名前は、槇恵子さんです。(まき・けいこ)
両親を失って、天涯孤独の身になった24歳の内藤拓也(広島県出身。東京の会社の独身寮住まい。18歳で上京、専門学校卒業後東京で就職)が、恋人の奈瑞菜(なずな。世田谷区下北沢居住。実家は千葉の稲毛(いなげ))と北海道羅臼(らうす)にいる槇恵子を訪ねます。
名古屋とか、千葉市稲毛区とか、昨年夏に訪れた下北沢とか、自分にとって土地勘のある場所が物語に出てきたので、親しみを感じました。
親戚はいても親戚づきあいをしてこなかったので、少し遠縁の親戚とは交流がない内藤拓也です。
係累(けいるい):親族のつながり。とくに、夫婦・親子兄弟姉妹
小包を送る話ですが、相手のことを思って、力いっぱい、たくさんの物を箱に入れて送るということはあります。自分たち夫婦にも、こどもたちや孫たちにそうやって大量の物を送った体験があります。歳月が流れて、そのときのことを思い出すと、たぶん迷惑だっただろうなあと今になって気づきます。でも、あれはあれで良かったと思います。人間とはそういうものなのです。気持ちがだいじです。
昆布の送り主は、内藤拓也くんの祖母ではありませんでした。
こういうことってあるのだろうなあ。年に1回だけのお世話になった方へのあいさつの物を送る交流です。(年賀状ということもあります)。お互いに会うことはないけれど、切りたくない人間関係ってあります。こちらの話の場合は、若い頃にかなわなかった恋の継続維持です。好き同士でも、結婚できず、それぞれが所帯をもつということはあります。
『第六話 最後の小包』
主人公は24歳の若い女性なのですが、読んでいて、その女性がキライになりました。
彼女の脳みその中は、反抗期にある中学二年生女子の思考です。まわりにいる人間たちがみんな敵という感じ方と考え方です。(まわりにいる人たちは、その女性にかなり気を使っています。その女性を攻撃などしていません)
主人公女性の気持ちはわかりますが、自分の言いたい事だけ言って、自分がやるべきことを人にやらせています。(実母の葬儀一式)。そして、イヤならイヤとまわりの人に話をすべきなのに、説明もしません。勝手に腹を立てて、無言で、その場を去っています。とんでもない人です。
イヤでもやるべきことはやるのが、おとなです。やらないのは、こどもです。
主人公の女性は、中学二年生の頭脳のまま、見た目だけ24歳のおとなに成長した人です。
後藤弓香(ごとうゆみか):24歳。食品会社大阪支店勤務。本店は東京都内にある。中一のときに父母別居。父親が家を出て行った。その後、父母離婚。父の不倫が離婚の原因。父は、部下に手をつけた。母はその後再婚して、二度目の夫(元高校教師。定年退職して70歳ぐらい)と千葉県の房総半島で暮らしていた。その母が肺炎で急死した。継父の親族は後藤弓香をきらっていないのに、後藤弓香は、継父の親族たちをきらい、終始失礼で無礼(ぶれい)な態度を継父の親族たちにとった。東京杉並区内に、昔の家族三人で暮らしていたころの母親名義の分譲マンションがあるが今は空き家になっている。
平原正夫:後藤弓香の母親の再婚相手。70歳ぐらい。元高校教師。前妻も教師だったがすでに病死している。こどもはふたり。長男と長女がいて、長男夫婦に孫がひとりいる。
後藤弓香は、気持ちがカッカきて自分ひとりで興奮状態になるけれど、あきらめたほうがいい。人生は流されたほうが楽なときもあります。
がんこを貫いても(つらぬいても)、ひとりぼっちになってしまうだけです。
重松清作品『卒業』を思い出します。継父・継母がからんだこどものお話です。苦悩から、卒業するのです。名作です。
意地を張って馬鹿(ばか)だから、後藤弓香は、母親の死に目に立ち会うことができませんでした。親不孝者です。
人生経験がないから勝手です。後藤弓香は、葬式の段取りも知りません。結婚式の段取りも知らないでしょう。
人生は、知識よりも体験が重要です。
年齢に応じたやるべきことをやって体験を積んでおいた方が、のちのちの人生で楽ができます。
喪主(もしゅ)なんて、だれがやってもいいと思いますが、妻が死んだら、ふつうは夫が喪主です。
娘である自分が喪主をやりたいなら、そのことを継父に言えばいい。
継父は二度続けて妻を病気で亡くしています。精神的にかなり強いショックがあります。
だまっていて、怒りの対象になる相手がいないところで文句を言うのは卑怯者です。(ひきょうもの。勇気がない。臆病者(おくびょうもの)。いやしい。どうどうとしていない)
池知智春(いけち・ともはる):後藤弓香の元カレ。高校生のときに父親を亡くしている。
物語の中で、後藤弓香を見て、この人は、クズだと思いました。
そんな後藤弓香に、母が亡くなってから、母が亡くなる直前に、娘にあてて送った小包が届きました。後藤弓香は、ばかたれです。改心しなさい。(かいしん。心を入れ替える)。心ある親はいつだって、こどものことを心配しているのです。
短編が、第一話から第六話まであります。
『第一話 上京物語』
読み終えて、自分が若かったころを思い出しました。
詳細は異なりますが、自分は18歳になって実家を出てひとり暮らしを始めました。雰囲気は小説に書いてあるこんな内容の感じでした。半世紀ぐらい前は、学校を出ると、住み込みで職人技を覚える仕事をしたり、会社の独身寮に入ったり、学生なら学生寮や下宿(げしゅく)に入る人が多かった。今ほど、住宅事情が充実していませんでした。
中学や高校を出るなり、大学を出るなりしたら、一時期でもいいからひとり暮らしを体験しておいたほうが、その後に人生に役立ちます。
衣食住の基本的なやりかたとか、社会での契約のしかた、人づきあいのしかたなどを学ぶのです。
たまに、生まれてからずーっと家にいて、おとなになってからも親と同居を続けていますという人をみると、う~むとうなってしまいます。
結婚して他人である配偶者との生活が始まると、夫婦として、いろいろうまくいかないことがありそうです。親にめんどうをみてもらう中学生ぐらいの衣食住に関する暮らし方の意識と知識のまま夫婦生活がスタートすると、いずれゆきづまりそうです。夫婦ゲンカが絶えない混乱の夫婦生活になるでしょう。
またいらぬことを書いてしまいますが、こどもにやらせるべきことをこどもにやらせないで、親や学校の先生がこどもより先にこどものことをやってしまっているせいなのか、学校を卒業して社会に出てくる新人をみて、とほうにくれたことがあります。どうやったらこういう人間ができあがるのだろうかということです。いつでもどこでもだれかが自分の世話をタダでしてくれると思いこんでいる。自分はいつでもどこでもお客さまという扱いをしてもらえるものだと思いこんでいる。自分の思いどおりにならないことがあると、相手のほうに責任があるとして相手を責める(せめる)。そんな新人を相手にすると、もうあなたの顔は二度と見たくないから、もうここには来ないでくれという気持ちになります。自立心とか、自活するんだという心意気が感じられないのです。
さて、こちらのお話です。
吉川美羽(よしかわ・みう):岩手県盛岡市に実家がある。反対する母親を押し切って、東京の短大英文科に進学した。将来ライター、カメラマンなどになりたい。親からの援助と自分の資金30万円ぐらいをもって、杉並区高円寺(こうえんじ)にあるアパートを借りた。人生の節目をへて、新たなスタートです。(最初は孤独感を味わうことになります。人にだまされないように注意してね。まあ、だまされて痛い目にあうことも人生経験ですが。それからアルコールは飲みすぎないほうがいいよ)
吉川小百合(よしかわ・さゆり):吉川美羽の母親。娘に対して過干渉です。『地元岩手第一主義の人』。ご本人も若い頃は東京にあこがれたけれど、東京で暮らしたことはない。東京に遊びには何度も行ったらしい。
吉川美羽の兄:東京の広告会社で働いている。妹の美羽がアパートを借りるまで、妹を同居させた。
吉川美羽の父:農家の三男坊。地元の国立大学を出て、盛岡市の信用金庫に就職した。役員候補。吉川美羽の妻小百合は美羽にパパのような男と結婚してほしいと願っている。娘の結婚相手は、『堅い職場』で働いている男性希望です。
町田:相場不動産の社員。吉川美羽にアパートを紹介した。美羽の母親ぐらいの年齢の女性。
相場:相場不動産の社長。杖をついた老人(男性)
小坂:コサカアパートの家主。コサカアパートの部屋は、四戸ある。
金髪店長:リサイクルショップの店長
美枝子:吉川美羽の母小百合の友人(じっさいはライバル)。東京のタワーマンションに住んでいる。お金があるらしい。ブランド品も集めている。美人。48歳。長男修介、次男修一、いずれも慶応大学関連の学校に通学している。美枝子さんは、自己顕示欲のかたまりです。タワーマンションの高い位置にある部屋から人や街を見下ろして、自己満足をされています。
佳乃:美羽の短大の女子学生。岩手県花巻市出身。
高円寺(こうえんじ)のあたりは、鉄道で何度か通過したことがあるので親しみが湧きます。
文化・芸能に興味がある人たちが住んでいるというイメージがあります。
南部せんべい:青森県八戸(はちのへ)地域発祥のおせんべい
おかあさんは、かなり、娘の人生について干渉しすぎです。
親が心配するほど、娘は男性にもてないということはあります。
話の内容は、おもしろい。
大学というところは、レジャーセンター(遊びにいくところ)なのか。
『……東京というものがなんだか、怖く感じられたのだ。巨大なブラックホールみたいになんでも引き寄せて吸いこんで……』
読んでいて、自分が18歳だったころを思い出します。
老後を迎えて、よくやってこれた。いつだって、一生懸命だった。これでいい。あれで良かった。これで良かった。歳をとった今、そう思います。
人生の体験について考えました。
最近は、冠婚葬祭を軽くすませることが多くなりました。
結婚式を挙げないカップルも多い。
思うに、結婚式のやりかたを体験していないと、自分のこどもが結婚式を挙げるときに、結婚式の挙げ方(あげかた)を、親がわからないということがあります。ほかの儀式についても同様です。人生の節目にある儀式を軽くみる傾向を、人のありかたとして、それでいいのだろうかと心配しています。お葬式も同様です。(この本の最後のお話にそういうことが出てきます。ふつう、親が死んだときには、葬祭場の部屋で、棺桶に入った親といっしょに一夜を過ごします。お通夜です(おつや)。その話のときに出てくる娘さんは、ホテルを借りてホテルで過ごしました。びっくりです)
この本は、親の『子離れ』の話だろうか。
『第二話 ママはキャリアウーマン』
かなりいい内容でした。今年読んで良かった一冊になりました。第一話との関連はありません。
以前読んだ別の本のタイトルを思い出しました。『母が重くてたまらない 信田さよ子(のぶたさよこ) 春秋社』。娘にとって、あなたはこうしなさいと強制してくる母親は悩みの種なのです。
新井莉奈(あらい・りな):新婚さん。主婦。夫の北海道への転勤で、札幌市から車で1時間ぐらいのところに住み始めた。こどもはいない。
新井大樹:新井莉奈の夫。大手損害保険会社勤務。20代。大卒。係長。北海道の支社へ転勤。将来出世するための転勤と受け取れます。会社の借り上げ住宅(社宅代わり)に住んでいる。
新井大樹は、職場のことでいろいろとストレスがたまっている。妻の就労については、働いてもいいし、働かなくてもいい、本人次第と思っている。
松永敬子:新井莉奈の母親。離婚後、母子家庭で娘を育て上げた。夫と離婚してから必死に働いて、起業して今はお金持ち。東京住まい。
渡辺:新井大樹の会社の社員。新井大樹にとっては、年上の部下。新井大樹はやりにくい。
母親には自負があります。(じふ:自信、誇り)。自分は、女手一人(おんなでひとり)で、働いて、娘を一人前に育てた。母親は娘に、女性の自立として、結婚後の就労を強要します。
娘には、負い目(おいめ)があります。一生懸命働いて自分を育ててくれたことには母に感謝している。されど、自分がこどものころ、母親は仕事に追われて、日常生活は、殺伐とした(さつばつとした)雰囲気だった。こどもの自分は、母親にほったらかしにされて、かぎっ子でさびしい思いをした。暗い家庭だった。自分は、そんな家庭にはしたくないので、結婚しても働きたくない。主婦一本でやっていきたい。夫や、いつかできるであろうこどものために働きたくない。
読んでいて思い出したことがあります。主婦の人には怒られるかもしれません。
『主婦』という人は、組織で働く人間の苦悩を知らないと思ったことがあります。
勤め人には、自分が自由に使える時間があまりありません。主婦にはあります。主婦の仕事もあるでしょうが、自分で自分の時間をコントロールできる権利があります。勤め人と違って、時間を使う自由度が格段に違います。
読んでいて、母親の娘に対する束縛(そくばく。行動の自由を奪う。強制)が厳しい。
渋面(じゅうめん):不愉快そうな顔つき。
『本当に好きな人と結婚できるチャンスは、人生に何度もないよ』(一般的に、そのとおりです)
『家庭をおろそかにしてまで、働く必要なんてない。』(ケースバイケースです。食べていけなければ、こどもを犠牲にしてまで働かなければならないこともあります)
北海道の郷土料理が、みんなを救います。北海道の赤飯(せきはん。甘納豆が入っている)、それから、いももち。
食事はだいじです。食事内容が、会話のネタになります。無難な話題です。(ぶなん:あたりさわりがない。問題にならない。無事(ぶじ))
『損か得か』にこだわると、『文化』からは距離が遠くなります。人生のおもしろさからは、離れていきます。
実(じつ)の娘なら、母親に対して、母親の自分に対する強制的な態度が、イヤならイヤとちゃんと言えばいい。
不満があったら、言わなきゃわかりあえません。
沈黙は、了解と受け取られてしまいます。
イヤなことがあっても、やらねばならないこと、やるべきことをやるのが大人(おとな)です。やりたいことだけをやって、やりたくないことをやらないのはこどもです。
こどもに対して、こどもの人生を決めようとする強制的な親に読んでほしい一編(いっぺん)です。
ラジオでお昼に流れている番組、『テレホン人生相談』みたいな内容でした。今年読んで良かった一冊になりました。
この話の場合、母親は、いくらお金があっても、哀れ(あわれ)な人です。
『第三話 疑似家族』
読み終えての感想です。
昔よく言われていた、『結婚と恋愛は違う』という内容の話です。結婚は、似た者同士で結婚したほうがいい。
お話の中では、理想に近づく形で終わっていますが、自分は、つくり話だと感じました。お金持ちの家の青年が性格もいい人として書いてありますが、そういうことはないと思います。お金の苦労をしたことがない人に、お金がない苦労がどんなにつらいものかはわかりません。お金持ちである彼と彼の親族は、きっと貧しい女性とその親族を見くだします。人には、人を差別したがる性質があります。
石井愛華(いしい・あいか):28歳。人材派遣会社勤務。群馬県出身。両親は愛華が小学生の頃に離婚して、父親は家を出て行ったまま行方知れずとなっている。こどものころは、親から虐待を受けていた。
愛華は、お金の無心(むしん。貸してくれとねだる。返してはくれない)をしてくる母親から逃げて都内で身を隠しながらひとり暮らしをしている。お金がないので、一生懸命働いている。親が今どこでどうしているのか知らない。
石井愛華は、野々村幸多と同棲している。彼に同棲を頼まれた。石井愛華は、ほんのでき心から同棲することになった野々村幸多にウソをついている。自分は、幸せな家庭に育った娘だとウソをついている。
石井愛華の信条(心構え)は、『自分を守れるのは自分しかいない』(そのとおりです)
石井愛華には、輝かしい経歴も家柄もない。大学通学のための奨学金はキャバ嬢をやって全額返済した。
野々村幸多(ののむら・こうた):商事会社勤務。お金持ちのお坊ちゃん。父親は、東証一部上場企業の役員、母親は主婦をしながら点字のボランティア活動をしている。東京都豊島区高級住宅地である目白(めじろ)に実家がある。有名な私立学校に通っていた。家族仲は良い。野々村は、恵比寿でひとり暮らしをしていたが、石井愛華を気に入って、彼女を家に招き入れて同棲している。野々村は、石井愛華と結婚したい意思がある。男三人兄弟。野々村幸多の親戚は、医者や学者、弁護士などです。野々村は、石井愛華のほんとうの素性を知らない。(すじょう。生まれ育ち)
楓(かえで):石井愛華の親友である女性。東北出身。
都築めぐみ:群馬県居住。農家で、農作物のネット販売をしている。夫は役所勤めで農作業を兼業している。娘は29歳で、東京都墨田区にある金融会社勤務、息子は高校生。夫の母親と同居している。
小料理屋喜楽(きらく)の60代のおかみ。おかみの仲介で、若いふたりが知り合った。
母親からという設定で(実はウソ)、石井愛華にお米とサツマイモが送られてきます。(都築めぐみからのネット販売です)
石井愛華の同棲相手である野々村の笑顔があります。石井愛華の母親と家庭について誤解しています。石井愛華のウソにだまされています。
ラタトュイユ:フランスニースの郷土料理。夏野菜の煮込み料理。
ご笑納(しょうのう):っまらないものですが、笑ってお受け取りください。(贈り物を渡すときの言葉)
読んでいる途中で意味がわからなくなります。石井愛華がウソをついているからです。タイトル、『疑似家族』に通じるものがあります。
積極的に愛華に結婚を迫る野々村幸多ですが、石井愛華は、自分の本当の家柄のことを野々村幸多に言えません。
身分が違うと、結婚話がしづらいということはあります。いくら財産がある相手でも、自分の親も含めた親戚づきあいがつらい。人生は気楽が一番です。結婚は、同じような人間同士がいっしょになるのが最適です。似た者同士です。
石井愛華にとって、小包を送ってくれる優しい親はいない。
122ページ、読んでいてせつなくなる。(胸が痛む)
石井愛華に、ちゃんとしたアドバイスをしてくれる人が現れます。良かった。
人生において、結婚できるチャンスは、そう何回もあるとは思えません。
この物語のふたりの結婚はむずかしい。結婚できたとしても、結婚生活を継続していくためには、このパターンの場合、男が、女をしっかり守るという強い意識をもっていなければなりません。もし苦難を克服できたらすごいことです。
『第四話 お母さんの小包、お作りします』
初めて短編同士がつながりました。
第三話で登場した群馬県の農家都築めぐみさん宅の状況です。
どこの家でもうまくいかないことがいろいろあります。
東京に出た娘さんが妻子ある男性と不倫をして捨てられて、お金まで吸い取られて仕事を辞めて、10年ぶりに群馬の実家へ本格的に帰ってきました。(数年に1回の帰省はあった)
都築めぐみ:都築宅の母親。『ありんこ農場』を名乗って、お母さんの小包をつくって(中身は米ほか農作物)、ネットやラインで受け付けて配送している。
めぐみの夫:地元の役所勤務で、仕事の合間に農作業をしている。
都築さとみ:長女。東京へ行くと、親の反対を振り切って大学進学で上京して、東京で就職したのに仕事を辞めて帰郷した。28歳ぐらいか。
都築隆:長男。高校生
祖母:認知症が始まっている。アルツハイマー型認知症。症状は軽い。
亜美:都築さとみの小学校の時の友だち。思春期は、不良グループに所属していた。父親がいない。母親は美容師。自宅の近くのアパートを3万円で借りて暮らしている。ユニクロは高くて買えない。古着屋を利用している。コメダ珈琲(コーヒー)も高くて入れない。マックの100円コーヒーを飲んでいる。
友ちゃん:同じく、さとみの幼馴(おさな)なじみ。
お宝市場:リサイクルショップ
駒田:都築さとみをだましたテレビディレクター。チビで、デブでハゲだそうです。妻子あり。詐欺師のような男。めぐみの貯金を吸い上げた。貢がせた(みつがせた)。めぐみを自分の借金の保証人にした。
『24歳から5年間妻子ある男と付き合ってしまった』(ばかだなあ。そんな男に、『誠実』という言葉はありません)
読みながら考えたことです。
人間はなんのために生きているのか。
人間は、遊ぶために生きている。
遊ぶために働いている。
人生を楽しむために働こう。
水沢うどん:群馬県渋沢市伊香保町の名物料理
一筆箋(いっぴつせん):小型の便箋(びんせん)。短文を書く。
ロム専(ろむせん):読むだけで書き込みをしない人。Read Only Member
読んでいると、さみしくなってくるような内容でした。
テレビ局の番組とか、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の弊害(へいがい。有害なこと)が書いてあります。
う~む。つくってある話です。現実ではありません。
『第五話 北の国から』
北海道に、もしかしたら亡くなった父親の母親(主人公にとっての祖母)がいるのではないかという話です。
亡くなった父親の両親は、離婚している。父親は祖父が引き取って育てた。祖母の所在は不明という設定です。
亡くなった父親(脳出血で急逝(きゅうせい。突然亡くなった))に毎年1回昆布が送られてきていたという経過があります。相手の名前は、槇恵子さんです。(まき・けいこ)
両親を失って、天涯孤独の身になった24歳の内藤拓也(広島県出身。東京の会社の独身寮住まい。18歳で上京、専門学校卒業後東京で就職)が、恋人の奈瑞菜(なずな。世田谷区下北沢居住。実家は千葉の稲毛(いなげ))と北海道羅臼(らうす)にいる槇恵子を訪ねます。
名古屋とか、千葉市稲毛区とか、昨年夏に訪れた下北沢とか、自分にとって土地勘のある場所が物語に出てきたので、親しみを感じました。
親戚はいても親戚づきあいをしてこなかったので、少し遠縁の親戚とは交流がない内藤拓也です。
係累(けいるい):親族のつながり。とくに、夫婦・親子兄弟姉妹
小包を送る話ですが、相手のことを思って、力いっぱい、たくさんの物を箱に入れて送るということはあります。自分たち夫婦にも、こどもたちや孫たちにそうやって大量の物を送った体験があります。歳月が流れて、そのときのことを思い出すと、たぶん迷惑だっただろうなあと今になって気づきます。でも、あれはあれで良かったと思います。人間とはそういうものなのです。気持ちがだいじです。
昆布の送り主は、内藤拓也くんの祖母ではありませんでした。
こういうことってあるのだろうなあ。年に1回だけのお世話になった方へのあいさつの物を送る交流です。(年賀状ということもあります)。お互いに会うことはないけれど、切りたくない人間関係ってあります。こちらの話の場合は、若い頃にかなわなかった恋の継続維持です。好き同士でも、結婚できず、それぞれが所帯をもつということはあります。
『第六話 最後の小包』
主人公は24歳の若い女性なのですが、読んでいて、その女性がキライになりました。
彼女の脳みその中は、反抗期にある中学二年生女子の思考です。まわりにいる人間たちがみんな敵という感じ方と考え方です。(まわりにいる人たちは、その女性にかなり気を使っています。その女性を攻撃などしていません)
主人公女性の気持ちはわかりますが、自分の言いたい事だけ言って、自分がやるべきことを人にやらせています。(実母の葬儀一式)。そして、イヤならイヤとまわりの人に話をすべきなのに、説明もしません。勝手に腹を立てて、無言で、その場を去っています。とんでもない人です。
イヤでもやるべきことはやるのが、おとなです。やらないのは、こどもです。
主人公の女性は、中学二年生の頭脳のまま、見た目だけ24歳のおとなに成長した人です。
後藤弓香(ごとうゆみか):24歳。食品会社大阪支店勤務。本店は東京都内にある。中一のときに父母別居。父親が家を出て行った。その後、父母離婚。父の不倫が離婚の原因。父は、部下に手をつけた。母はその後再婚して、二度目の夫(元高校教師。定年退職して70歳ぐらい)と千葉県の房総半島で暮らしていた。その母が肺炎で急死した。継父の親族は後藤弓香をきらっていないのに、後藤弓香は、継父の親族たちをきらい、終始失礼で無礼(ぶれい)な態度を継父の親族たちにとった。東京杉並区内に、昔の家族三人で暮らしていたころの母親名義の分譲マンションがあるが今は空き家になっている。
平原正夫:後藤弓香の母親の再婚相手。70歳ぐらい。元高校教師。前妻も教師だったがすでに病死している。こどもはふたり。長男と長女がいて、長男夫婦に孫がひとりいる。
後藤弓香は、気持ちがカッカきて自分ひとりで興奮状態になるけれど、あきらめたほうがいい。人生は流されたほうが楽なときもあります。
がんこを貫いても(つらぬいても)、ひとりぼっちになってしまうだけです。
重松清作品『卒業』を思い出します。継父・継母がからんだこどものお話です。苦悩から、卒業するのです。名作です。
意地を張って馬鹿(ばか)だから、後藤弓香は、母親の死に目に立ち会うことができませんでした。親不孝者です。
人生経験がないから勝手です。後藤弓香は、葬式の段取りも知りません。結婚式の段取りも知らないでしょう。
人生は、知識よりも体験が重要です。
年齢に応じたやるべきことをやって体験を積んでおいた方が、のちのちの人生で楽ができます。
喪主(もしゅ)なんて、だれがやってもいいと思いますが、妻が死んだら、ふつうは夫が喪主です。
娘である自分が喪主をやりたいなら、そのことを継父に言えばいい。
継父は二度続けて妻を病気で亡くしています。精神的にかなり強いショックがあります。
だまっていて、怒りの対象になる相手がいないところで文句を言うのは卑怯者です。(ひきょうもの。勇気がない。臆病者(おくびょうもの)。いやしい。どうどうとしていない)
池知智春(いけち・ともはる):後藤弓香の元カレ。高校生のときに父親を亡くしている。
物語の中で、後藤弓香を見て、この人は、クズだと思いました。
そんな後藤弓香に、母が亡くなってから、母が亡くなる直前に、娘にあてて送った小包が届きました。後藤弓香は、ばかたれです。改心しなさい。(かいしん。心を入れ替える)。心ある親はいつだって、こどものことを心配しているのです。
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