2024年07月08日

優等生サバイバル ファン・ヨンミ

優等生サバイバル -青春を生き抜く13の法則- ファン・ヨンミ作 キム・イネ訳 評論社

 韓国の青春文学です。
 韓国は勉強の競争が厳しく激しいらしい。日本よりもきついと聞いたことがあります。
 韓国の若い人たちは勉強に追われている。
 本のカバーに、『テスト、課題、進路、SNS……』とあります。一日24時間では足りなさそうです。 体を壊したり、心が折れたりしなればいいのだけれどと心配になります。
 青春時代は、長い人生の中では短い期間です。人生は、社会人になってからがはるかに長い。
 青春時代にいられるは、一時的な期間です。やがて、その時期を抜けるべきときがきます。おとなになったら、やりたくないことでもやるべきことは、気持ちに折り合いをつけてやらねばなりません。そうしないと食べていけません。(生活ができません)。やりたくないことをやらないのはこどもです。
 さて、この本には、どんなことが書いてあるのだろうかと楽しみにしながら読み始めます。

 勉強、勉強ですが、まわりのおとなを見渡すと、あんがい読み書き計算が十分にできないまま働いている人はたくさんいます。英会話ができない人などは山ほどいます。大卒の人でも、文字は毎日手書きなりで書いていないと漢字も文章もかけなくなってしまいます。歳をとると、住所氏名を書くだけでも大変になります。漢字をたくさん書ける人は少ない。ましてや、文章を書くことはとてもハードルが高い。
 それでもみんな働いて稼いでいます。なにか、得意なことを生かして働くのです。
 わたしは、仕事は、才能と努力、そして、人間関係だと思っています。

 サバイバル:厳しい条件の世界で生き残ること。

パン・ジュノ:作中では、『ぼく』のこと。高校1年生で優等生。トゥソン高校に通っている。人当たりよく、ルックスもそこそこいい。シミン中学校卒業。『ぼく』が語りながらストーリーを進行します。両親と離れて叔父と暮らしている。両親は、父親が大腸がんの新薬治療のため夫婦で別の土地にいる。パン・ジュノは、ヴィラと呼ばれる低層集合住宅の201号室に住んでいる。リビングでゲームをする叔父さんがいる。ジュノと同級生男子のキム・ゴヌは、女子と付き合ったことはない。けっこうジュノのことを好きな女性は多いが、本人はそのことに気づいていないそうです。
パン・ジュノの父親は医者です。医療系ボランティアの仲間たちと病院をつくった。大金を稼ぐ医者ではない。無料診療、内戦地域での医療活動などをしていた。
父親は今、大腸がんのステージ3(ステージ4が最も重い)で闘病中だそうです。仕事はしていない。母親と父は、忠清道(チュンチョンド)というところでがんの治療に専念している。
パン・ジュノは、叔父と都市部(たぶんソウル)で暮らしている。パン・ジュノは、女子に対する片思いを力に変えて耐えてきたそうです。
パン・ジュノは、医師をめざしていたが、今は、歴史を学んで職業にしたいと思っている。
学校での教室は、校舎の3階にある。

チョ・ハリム:女子。高校生。可愛い。中学時代に芸能事務所の練習生になったことがある。演劇スクールを中途でやめている。なにか、問題がある女子らしい。アイドルになりそこねているのか。プロアナ(拒食をライフスタイルにしている。死ぬほどダイエットすること。チョ・ハリムは、死ぬ寸前までいって、医者に止められたようです)だそうです。なんのことかわかりません。
読んでいて、ルックス(見た目)だけがいい女子という印象があります。本人は自分のルックスがいいことに自信をもっていて、男からふられると激高します。
別の本の小説で読んだことがありますが、イケメンの男と付き合ったら、『なんか違う』という感覚が女子に生まれて女子が去ったというパターンがありました。自分が理想とした頭脳が、イケメンの脳みその中にありませんでした。

キム・ゴヌ:ジュノの同級生男子。マンション住まい。正読室のメンバーには選ばれなかった。

 サブタイトルが、『青春を生き抜く13の法則』ですから、13の法則が目次のように提示されています。
1 名前を呼ばれても慌てないこと(あわてないこと)
2 強風に備えること
3 曲者(くせもの)の登場に動揺しないこと。

 なんだか、NHK朝ドラ、『虎に翼』の週ごと毎週提示されるテーマのようです。

4 トッポキは食べて帰ること
 トッポキ:餅(もち)を使用した韓国料理。餅炒め(もちいため)。日本語では、トッポギと表記されることが多い。
5 どれもダメだった時は、ひと眠りすること
6 どうしてもダメな時は、思い切って白旗をあげること
7 敗北にもくじけないこと
8 目の前にあることを、「ただやる」ってこと
9 メニューが今ひとつの時はパスすること
10 元気のない友達には、おかゆを持っていくこと
11 思いを口に出すこと
12 大海原を想像すること
13 猫かと思った時は、もう一度見ること
(読み終えてみると、ピントこない項目が多い。韓国人と日本人の受け止め方の感覚が異なるのかもしれません)

 さて、どんな話だろうか。
 シチュエーション:場所、状況、立場、情勢
 正読室(「せいとくしつ」と読むのでしょう):図書室のことらしい。なにやら選ばれたメンバーが利用するような書き方がしてあります。(その後読み進んで違っていました。自習用の教室で、本作品の場合は、選抜された30名が使用できる。自習のために室内環境と設備が充実している部屋だそうです)
 パン・ジュノは、チョ・ハリムに誘われて、土曜日にどこかへ行くらしい(デート?)
 なお、正読室は、建物の3階にある。3年生用の正読室は図書室の隣にある。1・2年生用は、廊下の行き止まりにある。
 
 夜間自習:放課後学校に残って自習すること。

 恋愛において、『行動派』と『自然派』があるらしい。
 発情する男ふたりです。こういうときは、空振りになるパターンです。

(つづく)

 古色蒼然(こしょくそうぜん):長い年月がすぎて、ひどく古びて見えるようすのこと。
 スティーブ・ジョブズ:アメリカ合衆国の起業家。Appleの共同創業者のひとり。1955年-2011年。56歳で病死。
 バラク・オバマ:アメリカ合衆国第44代大統領。1961年生まれ。62歳。
 ヴィラ:戸建てタイプの宿泊施設。

 チャン・ジョン・ファン:家庭教師。テスト問題を予想する名人。
 
 ミン・ビョンソ:男子高校生。幼稚園と小学校が、ジュノと同じだった。学校では、2組。正読室の30人のメンバーに選ばれる能力をもっているが、そこは利用せずに、帰宅して家庭教師から学んでいる。
コア部(時事討論サークルの名称)に入部申請をした。母親とこどものころ、カナダに移住歴あり。主人公のパン・ジュノとは学習面ほかでのライバル関係となっている。模試では学年トップ、癒し系のイケメン、おしゃべりじょうず、性格良さそう。ボランティア活動は、総合病院でするつもり。医師になることが目標。
 パン・ジュノに、こどものころに誕生日のプレゼントであげた、『ティモン(ライオンキングに登場するミーアキャットの人形)』を返してくれと要求する。ちょっと頭がおかしい。知能は高度でも、思考に幼稚な面あり。
 成績は学年トップ。
 父親の不倫で、家庭は一度壊れて、現在は継母が家にいる。実母はカナダにいる。

 レベル・マックス:よくわかりませんが、ゲームで、最高地点というような意味のようです。

 オフ講:オンライン講座の逆。普通の面と向かってする講義ということか。
 ソシオ・パス:けんか、攻撃、怒りやすい。(おこりやすい)。無責任。
 
 25ページまで読んで、韓国の青春時代とは、学力競争のなかにあって、息が詰まるほど狭苦しい感じがします。

(つづく)
 
 水曜ステージ:音楽のリズムに合わせて生徒が五人踊っている。毎週水曜日の高校の昼休みに中央昇降口で、ミニステージを開催することがトゥソン高校の伝統だそうです。バンド部、ダンス部、器楽部などが演技を披露している。

 コア:時事討論サークルの名称。入部申請をして入部する。部員となる。大学進学率が高いメンバーである。選抜方式。クラス分けテストの成績表と読書感想文の評価で入部が決まる。課題図書は、『これからの「正義」の話をしよう マイケル・サンデル(パン・ジュノが選んだ)』か、『すばらしい新世界 オルダス・ハクスリー』、『二重らせん ジェームス・D・ワトソン(キム・ゴヌが選んだ)』のいずれかの本から選ぶ。

 いまどきの高校生は、読書感想文は、ノートパソコンでつくるのか。
 原稿用紙に消しゴムをごしごしさせながら、鉛筆書きをしていた昔がなつかしい。
 なんでもかんでもデジタル化で、人間はこのさき幸せになれるのだろうか。デジタル事業推進で金銭的に豊かになるのは、デジタル産業のトップだけのような気がします。

 読んでいると、異様な世界が目の前に広がります。
 学力優先の空間です。
 成績で上下関係ができます。
 成績が上位の者が、下位の者を見下します。

 弘大(ホンデ):街の名称。若者に人気がある。
 ジュノは、チョ・ハリムとデートしますが、カップルとしての実感は湧かないままデートは終わりました。

 スムージー:野菜やくだものを組み合わせてつくるドリンク(飲み物)。

 コンセプト:概念。基本的な観点、考え方。

 コアの入部最終審査に、チョ・ハリムとキム・ゴヌのふたりは合格します。ふたりとも、シミン中学出身です。新入生の合格者は全員で9人です。活動は2週間に1回のペースです。
 
 レンギョウ:落葉低木広葉樹。黄色い花がたくさん咲く。
 物語の中で咲いています。季節は、春が近づくころです。

 ノ・ユビン:新入生女子。時事討論サークルである『コア』の部員。水曜ステージでダンスを踊っていた。警備員のおじさんの脚立(きゃたつ)を支えていた。どうも、この先、パン・ジュノは、このノ・ユビンが好きになるようです。学校での教室は校舎の2階にある。

(つづく)

 バリー:両親が飼っている犬の名前。父親は、抗がん剤治療をしている。

 パン・ジュノとチョ・ハリムの恋人関係が消滅します。
 チョ・ハリムの話を一方的に聞かされる関係に、パン・ジュノが切れました。(怒った(おこった))

(つづく)

 パク・ボナ先輩:『コア(時事討論サークル)』の会長。高校2年生女子(韓国名は性別がわかりにくいです)。予備校街にあるスタディカフェで、2週間に一度のコアの活動がある。パク・ボナのファミリーは、エリート一家で、父親は実業家、母親は弁護士、親戚には教授や国会議員もいる。勉強に厳しい。ソウル大学のロースクールに行くよう強制されている。ロースクール:大学院課程。法曹(ほうそう。裁判官、検察官、弁護士など)を養成する。この女性は、将来に向けて、わが道をいく人です。

 チョン・ホビン:サッカー選手。ユビンが、ファンクラブに入っている。背番号は29。

 ヒョウンジュン:中学2年生のころ学力がトップだった男子。

 サークルのグループチャット:複数人が参加するチャンネル内でのチャット(おしゃべり。文字を入力して会話をかわす。わたしは、そんなものはキライです。声を出すならまだしも、文字だけのやりとりはむなしい。ばかばかしい)。みんな、人工知能ロボットになろうとしているように見えます。

 “無気力な世代と嫌悪”
 昭和40年代に、若者について、『三無主義』という言葉があったことを思い出します。『無気力、無関心、無責任』です。時代が変わっても課題は同じですな。その後、三無主義に無感動も加わった記憶です。

 ポン・ジュノ:韓国の映画監督、脚本家。作品として、『パラサイト 半地下の家族』。1969年(昭和44年)生まれ。54歳。
 ピエール・ブルデュー:フランスの社会学者、哲学者。2002年(平成14年)71歳没。

 ポリコレ:ポリティカル・コネクトネス:不快感や不利益を与えないための中立的な表現。政治的正しさ。政治的妥当性。

 ヤマボウシ:落葉中香木。白い花が咲く。
 カシワ:落葉高木。
 ロウル:タヌキの昔の呼び方。(伏線になります)。見ると幸運が訪れるそうです。学年トップになれる。
 
 勉強することの話が延々と続きます。つまらない。

 ゴヌが、恋をしたいと訴える。今年のクリスマスは絶対に彼女と過ごすとアピールする。カノジョとかカレシとか、なんだか、所有物のようです。
 
 学年トップコレクター:89ページにこの単語がありますが、ちょっと意味をとれません。収集家ではない様子です。

(つづく)

 オ・セジュン:ゴヌのクラスメート。兄がいる。兄が、パク・ボナ先輩と同じクラスだった。

 Kリーグ:韓国のプロサッカーリーグ

 いろいろ考えて、パン・ジュノは、将来の目標について、医師から歴史学者のような仕事に進路変更をしたい。
 父母の日に、離れて住む両親に会って話をしたい。そして、両親といっしょに暮らしたい。両親がいる土地の高校へ転校したい。
 同じように、ノ・ユビンは、こちらは転校することが確定しています。1学期の8月までで終わり。実業系の高校に転校する。大学へは行く気はない。もともと実業系の高校にある観光学科へ行きたかったが父親が反対していた。ようやく父親を説得できたとのこと。旅行会社勤務を経て、自分の旅行会社をもちたい。大学へ行っても、将来の仕事のことを考えるといいことないと考えています。

 いっぽうゴヌは、パク・ボナ先輩と付き合いたい。パク・ボナ先輩が好きだそうです。いろいろあります。
 ゴヌはさしあたって、勉強をしたい。

 ブブゼラ:南アフリカの楽器。口で吹く。こちらの話では、サッカーの応援で使用する。プラスチック製。

 韓国の学期制:2学期制。1学期は3月スタート。入学式は3月にある。2学期は9月からスタートする。

 わたしが思うに、仕事というのは、才能と努力と人間関係です。
 自分の生まれ持った才能が、どの分野だったら発揮できるのかを考えてがんばれば、仕事は続くと思うのです。自分はこれしかできないから、これを仕事として続けていますという人は多い。

 学校というとても狭い世界の中でのことが詳しく書いてあります。とても狭い。

 転校についての不安などが書いてあります。
 わたしなんぞは、転校は何回も体験したし、仕事を始めてからも、人事異動による転勤は何度も体験しました。だから、読んでいて、転校はイヤですなどという雰囲気で書いてあると、そんなことは問題にはならない。イヤだなどと考える余地もないという気持ちになってしまうのです。
 人によって違うのかもしれませんが、わたしは変化することをなんとも思わない人間です。
 どこでどうなろうが、やるしかないのです。

 包菜(サンチュ):葉物野菜で焼き肉包んで食べる。

 競争に勝った人に、案外、いい人は少ない。むしろ、負けた人に、いい人が多い。

 民間のスタディルーム:レンタルできる自習室。

 このころの恋愛で(青春時代)、カレシとかカノジョというのは、『人間』ではなく、『商品』のようなものという感覚があります。装飾品のような、所有物であったりもする。
 そんなことより、まず、仕事に就(つ)かなければなりません。経済的な支えがなければ、恋愛の先にある結婚までとどりつけません。

(つづく)

 ペーパーテストの問題を解く能力と、実際に仕事をしてお金を稼ぐ能力は違います。
 そして、お金がなければ、生活していくのに困ります。
 韓国においては、学力重視に非常にかたよっている社会背景があって、個々の高校生たちの将来に対する希望とか夢があって、この小説は、韓国における教育現場の社会背景と学ぶこどもんもの将来への希望が一致していないことを題材にしてある物語です。

 いまどきの若い人は、SNSがないと生活できないのか。
 SNSの歴史はまだ浅く、2010年(平成22年)ぐらいから社会に浸透した記憶です。
 SNS世代はある意味、しんどい時代を生きているように見えます。
 SNSにのめりこむと、人としての創意工夫に満ちた空間が壊れていくではなかろうか。
 物語の中では、自分に対して従順でなかった異性の同級生に対して、ストレートではなく、暗喩(あんゆ。たとえ。この物語の場合、『鳩の目玉(をした女)』)を用いてねちねちと痛めつけるようなことをSNSに投稿をする学力優秀者が現れます。

 オギャーとこの世に生まれたとたん、お金や有価証券や不動産などがからだにくっついてくる富豪のところに生まれたあかちゃんがいます。生まれたとたん、一生働かなくて生活していけるのです。いっけん、うらやましいのですが、それは、不幸なことです。夢のない人生だからです。この物語の中では、そういうこどもはドラッグ(薬物)中毒になっていきます。お金があってもむなしいのです。

 『統制の所在』:すんなり意味をとれないのですが、学校の教師の対応を指しているのでしょう。学習について、やる気のない生徒を置き去りにするのです。成績が優秀ではない生徒は学校にとってはいらない存在なのです。

 主人公のパン・ジュノが、自己主張を始めました。
 正読室の利用をやめると宣言します。
 教師たちからは何の反応も返ってきません。やめたい奴はやめればいいのです。引き止めはありません。
 学力優秀な特定の生徒だけが人間扱いです。
 主人公は、『自分のことを自分で判断して、決定して、実行する。そして、ふりかえりをして、また前へ進む』という一連(いちれん)の行動ができるようになります。
 『……だれかが決めた基準で流されている限り、ぼくは永遠に不安の奴隷として生き続けるしかない……』
 
 正解自販機:登場人物のうちのだれかのこと。

 言葉の聞き間違いについて書いてある部分があります。
 韓国の言語であるハングルだから起きる意味のとりかた間違いなのだろうと推察しました。
 どちらにもとれる言葉があるということには、不安定さがつきまといます。
 書いてある内容はおもしろいけれど、ちょっと怖い(こわい)です。

 本アカ・サブアカ:SNSで、ひとりの人間がふたつのアカウントをもつ。アカウント:個人認証情報。IDとパスワードをもつ。本アカが主に利用するもの。サブアカが、補助的に利用するもの。

 シールド:守って保護してくれるもの。

 釜のふた:パン屋の店名。ベーカリー(パン・洋菓子販売店)

 自由の海:社会のことだと受け取りました。人生は、学校を出てからがはるかに長い。もうすぐこの本のラストですが、青春時代のこういったことは、何十年も先に思い出すものです。もう、とおーい過去になっています。そして、青春時代のあのときに約束したラブは、たいていかなっていないのです。  

Posted by 熊太郎 at 06:31Comments(0)TrackBack(0)読書感想文