2020年12月06日

きまぐれロボット 星新一

きまぐれロボット 星新一・作 和田誠・絵

 31本のショートショートです。
 本の帯に小学校3年生、4年生向けとあります。
 本の帯には「大人になっても忘れない一生の宝物になる1冊」とキャッチコピーが書いてあります。親から子、子から孫へと読み継がれていく本です。

「新発明のマクラ」
 寝ている間に英語学習ができるマクラをエフ博士が発明しました。
 ふむ。おとなしい結末でした。

「試作品」
 おもしろい。
 強盗に入られたエム博士が何日も地下室に閉じ込められますが死にません。
 強盗に勝ったエム博士の知恵と発明でした。

「薬のききめ」
 忘れたことを思い出す薬の発明です。
 おもしろいオチです。ちょっとここには書けません。
 ただ、「いじめ」というものは、いじめられたほうはいつまでも忘れません。いじめたほうは忘れます。だから、このオチは、成立しにくい。

「悪魔」
 エス氏は、氷のはった湖で「悪魔」を釣り上げてしまいました。
 なるほど、金もうけに目がくらんで、もともこもなくした男の話です。人生を表現してあります。愉快です。

「災難」
 飼っているねずみたちが、お守り代わりになってくれる物語です。
 なーるほど。たいしたものです。自分のことばかりではなく、ねずみくんたちのことも考えてやらねばなりません。

「九官鳥作戦」
 ぽつんと一軒家のお話です。
 ひねってある結論でした。

「きまぐれロボット」
 お金持ちのエヌ氏が購入したロボットは優秀です。でも二日目で動かなくなりました。そのあと動くようになりましたが、動きがおかしくなることもあります。気まぐれです。
 それなりの理由がありました。

「博士とロボット」
 博士とロボットが旅に出て人の役に立つことをします。
 そういうことってあるのでしょう。
 人々は、樹木の幹や根っこを見ないで、枝葉の部分を見てありがたがることもあります。

「便利な草花」
 虫をつかまえる草花のお話です。
 生きている物を飼うのはたいへんです。それなりの世話が必要です。

「夜の事件」
 若い女の人の形をしたロボットと宇宙人とのやりとりです。
 漫才のようでした。よくできているお話です。
 読みながら、1960年代(昭和35年から昭和44年)の時代は、まだわからないことがたくさんあって、きっと今より夢があって、夢は大きかった。そう思いました。

「地球のみなさん」
 4月1日のエイプリルフールに本物の宇宙人が地球人の姿をして地球上に存在していたお話です。

「ラッパの音」
 落語のオチのようでした。
 いやなものや人を追い払うために使用するラッパのお話でした。

「おみやげ」
 人類が誕生する前に地球に来た宇宙人が置いていった銀色の卵のお話です。
 反戦のメッセージがこめられていた作品でした。

「夢のお告げ」
 キャンプのお話です。
 テントのなかで眠っていた時に武士の夢をみます。
 武士軍団の軍用金の隠し場所を書いた紙が埋められている夢で、キャンプをしていたふたりは、ついに紙を発見します。
 なるほど。過去と現在がつながりました。

「失敗」
 機械いじりで閉じこもりの生活をしているエス氏です。
 音を消す装置を開発、製作しています。
 そうか。悪いことはできないものです。

「目薬」
 ケイ氏は、悪い人間を見分けることができる目薬を発明しました。
 悪いことをする人は紫色に見えます。ただ、紫色の濃い、薄いがあります。
 教訓に効果ありでした。

「リオン」
 リスとライオンの間にできた子が「リオン」です。
 ブドウとメロンの新種づくりには失敗します。
 そういえば、人間の遺伝も、夫婦の性質のいいところどうしがくっつけばいいのに、たいていは、よくないところどうしがくっついたりもします。

「ボウシ」
 奇術師のもつ帽子からはいろいろなものが出てきます。
 それを見た宇宙人が驚いて帽子を欲しがります。
 宇宙人も勘違いをすることがあります。

「金色の海草」
 話を大きくふくらませていく手法です。
 よかった単語として「海のミツバチ」

「盗んだ書類」
 ここまで読んできて、登場人物として、博士、博士の友人、宇宙人、ロボット、どろぼうという、いつものメンバーがいます。題材として、発明、宇宙人、ロボット、薬です。それらを組み合わせていくつもの知恵と工夫をこらしたストーリーが創作されています。
 そして、悪人に悪事をさせない結末がひとつのパターンです。

「薬と夢」
 薬を飲むと夢に動物が登場します。
 発明がうまくいかずに停滞する結末もありでした。

「なぞのロボット」
 いつもエヌ博士といっしょにいるロボットです。なんのためのロボットなのかがわかりません。
 ロボットは、耳は聞こえるけれど、話すことはできません。
 種明かしをすると、日記をつけてくれるロボットでした。そういう発想があったのかと驚かされました。

「へんな薬」
 かぜを治す薬ではなくて、かぜをひいたように人から見える薬です。仮病で仕事などを休むときに使用します。
 ふと、さし絵のページをながめました。喜怒哀楽の感情のなさそうな人物絵が特徴です。人間のロボットのようです。
 オオカミ少年の話といっしょで、本当の病気の時に仮病だと判断されて命が危ないことになります。

「サーカスの秘密」
 動物に電波を使って催眠術をかける装置です。
 人間にもききます。

「鳥の歌」
 鳥のロボットを本物の鳥の先生にしたてて、ハトにハトポッポの歌を教えさせます。
 同じようなゴールをめざすのだけれど、方法は複数あるというお話でした。

「火の用心」
 ロボットの鳥は、火事を発見することができますが、誤作動も多い。家事ではない熱源に反応してしまいます。
 改良を重ねた結果、ロボットの鳥はいなくなってしまいました。
 そうか。いろんな発明があります。

「スピード時代」
 粉を溶かした水を与えると植物の成長が急速に始まるのです。
 最初は良かったのですが、いいことばかりではありませんでした。

「キツツキ計画」
 悪人のアジト(棲家すみか)があります。
 悪人たちはキツツキを使った悪事を計画します。
 この本にある物語全体に「勧善懲悪(よいことをする。わるいことをこらしめる)」の精神があります。

「ユキコちゃんのしかえし」
 いじめの話です。ユキコちゃんがいじめる子にしかえしをします。
 「いじめ」を嫌う愛情ある一作でした。

「ふしぎな放送」
 意外性のある終わり方でした。

「ネコ」
 トランプカードの模様をした宇宙人の訪問がありました。カード星人です。
 ペットであるネコの本音が出ていておもしろかった。案外飼われているのは人間のほうなのかもというお話でした。  

Posted by 熊太郎 at 07:31Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2020年12月05日

(再鑑賞)スピード DVD

(再鑑賞) スピード アメリカ映画DVD 1994年公開

 前回観たのは6年前です。今回観てまた感激しました。今年観て良かった映画です。
 爆弾悪魔の凶悪犯とSWAT特殊部隊との対決です。ヒーローは、ジャックと女性のアニーです。
 13人が落下寸前のエレベーターに閉じ込められました。犯人から300万ドルの要求がありました。

 エレベーターの落下、途中でストップには、恐怖が走ります。
 高層ビルのエレベーターであり、2001年のニューヨーク世界貿易センタービルに航空機が突っ込んだ同時多発テロを思い出しました。1994年の作品ですので、未来を予言する映画のようになっています。
 すごい迫力です。爆風が強い。「人質を撃て」この言葉が伏線になっていきます。
 人間ってすごい。こういう作品をつくれる。
 ヒーロー側にとって、いろいろと不自由なことが多い。
 シンプルだけど怖い。
 バスがベビーカーをはねました。(のっていたのが、ベビーでなくて、空き缶で良かった)
 積み重ねてきたアイデアがあります。
 爆発は、広島、長崎の原子爆弾のイメージでした。
 アメリカ人は、ヒーロー(勇者、英雄)が好き。
 列車のシーンはオマケのような。なくても十分完成している映画です。
 観ていて、関西であった列車事故を思い出してしまいました。2005年4月のことでした。

 最後は、ラブで終了

 なぜ、がんばるのか。「年金と(退職記念の)安物の腕時計をもらうため」は、実感が伝わってくるセリフでした。

 ウォッチヨアヘッド(頭に気をつけて)
 テイクマイハンド(ぼくの手をとって)
 スピーディング(スピード違反)
 ディスイズマッチベター(調子いいみたい)
 ヘルプ(助けてくれ)
 オーマイゴッド(神さま)
 ディスマンハズノータイム(運転手が死にそうなんだ)
 ドンフォゲットアバウトアス(バスに戻ってよ(わたしたちのことを忘れないでよ))
 アイキャントスイヒム((バスの床下に)彼がいないのよ)
 トゥールズ!(工具を!)
 
 力が入りました。


(2014年7月30日のときの映画鑑賞感想文)
スピード 映画 DVD
 もう20年も前にヒットした映画ですが、きちんと観たのは今回が初めてです。登場する女優さんで、サンドラ・ブロックという方が、昨年末に観た「ゼロ・グラビティ」で好演されていたことが今回の鑑賞のきっかけです。
 この映画が上映された当時の記憶としては、B級映画がヒットしたというものでした。今回観て初めてわかったのですが、構成として、単純にバスへの爆発物装着テロではなく、最初にエレベーター、次にバス、最後に地下鉄という組み合わせでした。アメリカ映画らしく、派手で、元気よく、あきらめず、がんがんいく内容で観ていて楽しかった。
 公営バスに乗り合わせたお金のなさそうな人たちのいさかい、励ましあい、協力していく姿にも胸を打たれました。上手な脚本です。なおかつ、あの手この手のアイデア出しが成功しています。バスの車内空間を利用した演劇でした。
 少々、下品な下ネタ表現は、ないほうがいいのですが、おとなが観る作品ということでいいでしょう。
 爆弾魔がいます。彼が言います。「情報化時代とはいいもんだ」。彼は自分の犯行をテレビ中継でながめます。携帯電話を使用しています。ただし、その携帯電話はぶ厚くて大きい。古き時代を感じさせます。最後には、隠しカメラも発見されます。20年前にそういう時代があって、今がある。みな、20歳ずつ、歳を重ねました。
 シンプルであること、あきらめない内容であること、ちょっと想像できないアイデアが盛り込まれていること、映画がヒットするひとつのパターンだと分析しました。   

2020年12月04日

出川哲朗充電バイクの旅 小豆島から尾道

出川哲朗充電バイクの旅 香川県小豆島から広島県尾道市 テレビ番組

 冒頭で出てきた小豆島の二十四の瞳映画村も最後のシーンの尾道市千光寺のてっぺんも行ったことがあるので、なつかしく、映像を楽しめました。
 ゲストは前半が松本明子さん。松本さんはとてもしっかりした方で驚き感心しました。後半のゲストは、小峠英二さん、キャラクターなのか、しじゅう怒っておられましたが、笑いにつながるプンプンでした。
 
 出川哲朗さんが、小豆島を「しょうどしま」と読めず、壷井榮作品の「二十四の瞳」を「にじゅうよんのひとみ」と読み(にじゅうしのひとみが正確な題名)、あんがい、そういう人って多いのではないかと推察しました。
 二十四の瞳の映画も、もうずいぶん前の映像になりました。時代設定自体も昭和初期だったと思います。登場するこどもたちは大正時代の生まれでしょう。映画のなかでは、戦争で幾人かが亡くなっています。
 映画八日目の蝉(ようかめのせみ)の舞台となったのも小豆島であり、文芸の香りを感じます。出川哲朗さんは八日目の蝉を「はつかめのせみ」と言っていました。出川哲朗さんの言い間違えはしょっちゅうで見て聞いて笑います。ほかにも、「うらじゃあまつり」を「ブラジャーまつり」と言っていました。

 生そうめんがおいしそうでした。先日観た天草の乱のビデオでは、大量の農民の戦死者が出て、人口が減った島原半島に小豆島の人たちが移住して小麦をつくりそうめんを名物にしたと解説がありました。

 岡山行きのフェリーに乗り、路面電車を映像で見ました。路面電車が走っていることは知りませんでした。
 途中、若い女性が出川哲朗さんにサインをお願いしたのですが、書いたのは彼女の貯金通帳で、中身まで開けて、淋しい残高だとばらしていました。出川哲朗さんだからできる会話です。
 
 宿泊したホテルの職員の方のコメントがよかった。「おもしろいことはできないのですけど、よろしいですか」というもので、そこがおもしろかった。笑いました。

 小峠英二さんのかき氷食べて休憩をしたいという熱意がおもしろかった。笑いました。  

2020年12月03日

へんな怪獣 星新一・作 和田誠・絵

へんな怪獣 星新一・作 和田誠・絵 理論社

 星新一:ショートショートの神様。1926年-1997年。71歳没
 和田誠:イラストレーター。1936年-2019年。83歳没

 表紙の怪獣の絵がおもしろそう。
 19本のショートショート集です。ショートショートどうしのお互いの関連はありません。
 発明として、ロボットと新薬の話が多い印象でした。

「とりひき」
 楽しいオチです。悪魔の訪問があります。強運の能力と引き換えにあなたの魂をくださいというお話です。自宅で留守番をしていた男性は悪魔の言うとおりにします。(でも留守番の男性はロボットなのです)おもしろい。

「鏡のなかの犬」
 読みながら、昔、高校受験勉強をしていたころ、携帯ラジオにイヤホンを差して、星新一作品を流すラジオ番組を聴いていた夜をなつかしく思い出しました。
 これは鏡の中に住んでいるという犬のお話です。鏡から出たり入ったりできるワンちゃんです。
 うむ。不正をするために鏡の中のワンちゃんを使うのは不可です。

「へんな怪獣」
 本のタイトルにもなっていますが、最後ははっきりせず、もやもやとした気分で読み終わりました。
 怪獣は、宇宙人からのプレゼントです。宇宙船にのった怪獣が地球にやってきます。

「花とひみつ」
 一本の作品が、5ページから8ページぐらいなのですぐ読み終えます。気軽さがいい。
 空想の世界です。ハナコちゃんが描いた絵が風や鳥に運ばれます。
 壮大なほら話でした。

「あーん。あーん」
 あかちゃんが泣きやまない。終わりのないお話でした。

「みやげの品」
 作者は24時間、ネタ(物語の材料)を考えていたのでしょう。楽しかったのか、苦痛だったのかはわかりません。
 観光地にあるおみやげ屋さんのお話でした。
 人は自慢をしたい。店主はそこを利用してお金もうけにつなげます。

「飲みますか」
 飲みますかで飲むものは「幸せな気分になる薬」です。麻薬のようですが、研究中の試薬です。
 研究室に強盗が入ってきました。
 なるほど。飲む人の人格によって薬の効く効かない(きくきかない)があるのか…

「夜の音」
 もうすっかり忘れていました。
 昔の共同トイレでは、大のほうを使用するときは、使用中か、からっぽかを確認するために、使いたい人は、外からドアをノックしていました。使っている人がいたらその人は、しゃがんだままノックを返していました。かつ和式トイレでした。さらに新聞紙をもんでやわらかくした紙で尻をふいていました。今の若い人たちが聞いたらびっくりすることでしょう。
 今はドアにある「表示」で、使用中かそうでないかがわかるようになりました。

「抑制心」
 足もとに落ちている銀貨を拾うか拾わないかの話です。
 やがて、吸血鬼のお話につながっていきます。

「ヘビとロケット」
 まだ人間が宇宙の星へ行く前のことです。
 人間の代わりにヘビをロケットに乗せて宇宙の星へ運びます。実験です。ヘビが行けて帰還できたなら人間もいけるはずだという理屈です。
 何事も予定通りには運びません。未来のことを考えるよりも今のことを考えたほうがいいと少しずれた感想が残りました。

「接着剤」
 たいてい「エヌ氏」というのが登場人物です。固有名詞はださないことが特徴のショートショートです。
 エヌ氏は、時間制限のある接着剤の発明に取り組んでいます。時間がくると接着力がなくなるのです。「時限接着剤」と名付けました。
 ラスト、そうかと納得しました。

「廃屋」
 平家の落人(おちうど)物語のようです。廃屋にある井戸に、400年前の亡霊がいるのです。かれらはまだ生きているがごとしです。
 大資本に切り捨てられていく少数派の悲しい気持ちが伝わってくる良作でした。

「なぞの贈り物」
 青年の話です。人生で運の薄い青年です。母は事故死して、父は過労死しました。
 そんな彼に贈り物があります。
 未来からの贈り物です。

「足あとのなぞ」
 これまでの作品も含めて、明瞭な短文なので、情景を想像しにくい難点があります。
 雪が降り積もった翌朝に、夜中に侵入したどろぼうの足跡が逃走途中の雪道の途中でふっと消えています。
 とんちくらべです。(気のきいた知恵、アイデア)
 オチはなるほど。たいしたものです。

「いじわるな星」
 新しく発見された星に基地を建設するために宇宙船が出発しました。
 この星には幻が現れる現象があります。
 そうか、そういうオチか。
 今まであったものは、すべてが幻だった。

「歓迎攻め」
 前作の「いじわるな星」に似ていますが、こんどの星には生き物がいます。しっぽがあるちっちゃな恐竜みたいな生き物です。星には、水も酸素もあります。
 恐竜みたいな生き物は人間に食べ物を提供してくれます。人間は代わりに武器をひとつひとつ手放していきます。
 どうなるのだろう。
 やっぱりそうか。

「神」
 「神」をつくる研究を始めた博士がいます。
 まず調査としてあらゆる神のデータが蒐集されます(しゅうしゅう。研究のために集める)
 うーむ。結末は、納得できるようなできないような。

「変な侵入者」
 珍しく固有名詞が登場しました。「キダ氏」です。彼の別荘で事件が起こります。
 別荘にロボットがやってきて居座りますが悪さはしません。
 ロボットを追い出そうとしますが無理です。キダ氏は警察に通報して相談しました。でも警察も相手が人間ではないので、とりあってくれません。
 おとり捜査のようなものか。

「宝島」
 宝島へ行く地図を手に入れた男とその秘書の話でした。地図は海岸で拾ったびんの中に入っていました。
 かなりおもしろかった。陰謀が隠されていました。(ひそかにたくらむ悪事)  

Posted by 熊太郎 at 06:54Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2020年12月02日

マイ・ビューティフル・デイズ アメリカ映画DVD

マイ・ビューティフル・デイズ アメリカ映画DVD 2016年米国公開

 高校の女性教師と演劇部の男子高校生ふたり、女子高校生ひとりのお話でした。
 波があるようでそうでもなく、淡々と鑑賞時間が過ぎていきますが、女性教師も障害をもつらしきひとりの男子高校生も孤独であることに変わりはありません。心に満たされないものを抱えています。
 人の深層心理の底を突くセリフと演技です。のんびりと間の開いた雰囲気が徐々に広がりを見せていきます。
 ごたごたがありましたが、最後はさわやかでした。

 観始めは白人種たちによる白人のための映画かといやけがしましたが、演劇大会の優勝者は黒人だったので自分の思い込みで悪かったと思いました。

 同性愛のこともからんでいるようです。

 男子高校生がベッドの上で長時間ジャンプしている姿を見ていたら、はるか昔に、知的障害のこどもさんが延々とジャンプを続けていたことを思い出しました。

 1970年代(昭和45年から昭和55年)ぐらいの流行歌が流れています。されど、スマホを使用しているので時は現代です。

 良かった女教師のセリフとして、
 「世の中はイヤな人ばかりよ。いい人は少ない」
 障害をもつ男子高校生の演劇における演技のセリフとして、
 「ディスイズミー(これが僕だ)」
 女教師と関係をもった妻がいる他校の男性教師のセリフとして、
 「アウトサイド(世間は、外面だけだ(そとづら)」
 そして、
 「あなたもだれかに頼るべきだ」他者に頼ることを恥じてはいけない。お互いに支え合う。

 風景映像を観ていて、アメリカ合衆国というところは、車で長距離を移動する国だという感想をもちました。
 それから喫煙シーンを観ていて、自由な国だけれど、自己責任の国という印象をもちました。  

2020年12月01日

ベロ出しチョンマ

ベロ出しチョンマ 斎藤隆介・作 滝平二郎・絵 理論社

 15本の短いお話がおさめられています。
 小学校低学年の頃、この物語ではありませんが、給食の時間帯に校内放送で短いお話が流れていました。それを聴くのが楽しみで、行きたくもない学校へ登校していました。
 そんなことを思い出しながらこの本を読みました。

「花咲き山」
 単体の絵本で読んだことがあります。滝平二郎(たきだいらじろう)さんの切り絵がきれいでした。
 東北弁です。伝承による民話のように思えますが、作者による創作童話なのでしょう。
 おもいやりの気持ちが花を咲かせます。忍耐の推奨があります。耐えるしかない時代や時期がありました。
 花は、優しさとけなげさの象徴とあります。秋田県の八郎潟(はちろうがた)という地名が登場します。

「ソメコとオニ」
 ソメコは五才です。
 ぼかす技法が使われています。オニを親切なおじさんとして扱ってあります。ソメコは、自分がオニに誘拐されていることがわかりません。
 おもしろい。逆転の発想があります。

「死神どんぶら」
 これまでの作品も含めて、読んでいて、名作の香りがあります。
 三郎治のそばに死神が控えています。死神は三郎治をあの世へとお迎えに来たのです。
 落語の人情噺(にんじょうばなし)を聴くようです。
 版画の切り絵に味わいがあります。
 父親のアルコール依存症が憎い。
 三郎治は小さな娘のカヤに助けられました。

「毎日正月」
 笠雲。山のてっぺんにのっかったような位置に浮かんでいる雲から始まります。
 茨城県の筑波山付近です。
 父親はアル中で、母親は亡くなって、14歳のハナががんばっています。
 昔はまちのあちこちで酔っ払いの男がふらふらしていました。
 江戸時代のお話です。
 唐笠連判(からかされんぱん)という百姓一揆(ひゃくそういっき)を起こすための決意書面が出てきます。だれが首謀者かわからないように円陣の順番で署名と決意表明がしてあります。
 お気楽でだらしない自己コントロールができないオヤジへの戒め(いましめ)の作品でした。毎日酒ばっかり飲んでいるから、毎日がお正月なのです。

「春の雲」
 雪崩(なだれ)の事故で亡くなった登山部の高校生たちを思い出してしまいました。
 雲の上には赤ちゃんたちの姿があって、雪崩で亡くなったこどもたちというお話でした。
 家は貧乏で、両親は山仕事で、12歳の女の子モヨがあかんぼたちの子守りでがんばります。
 春が近づいてきて暖かくなったから雪崩が起こります。
 
「ベロ出しチョンマ」
 怖くて悲しいお話しをユーモアに変えてあります。こんな話だったんだ。
 一家全員が処刑されるお話です。
 はりつけ台で幼い妹が泣くので、兄の長松がベロを出して妹を笑わせるのです。
 権力に対する抗議のメッセージがあります。
 江戸時代の重い年貢に対する抗議です。
 冒頭にしもやけの話が出ます。そういえば、こどものころ、冬になると、両手の甲が、しもやけになっていました。最近はこどもさんがしもやけになったという話は聞きません。いい世の中になりました。

「白猫おみつ」
 美しく生まれたことで特別扱いされた女子の運命です。
 おみつという女の子は、さきざき、殿様の嫁様になると言われて成長していきます。
 おみつはお上品なので、周囲のこどもは彼女に距離を置きます。
 おみつは、殿様ではなく、山賊の頭の嫁様になります。
 ことの顛末(てんまつ)は平凡です。この一作はあまり好みではありませんでした。作品によってできふできの波があるような。

「おかめ・ひょっとこ」
 「鏡」はおそろしいものという教えがあります。
 鏡ばかり見ていた女の子「田ッ子様」が、湖の底に住む竜になってしまったというお話でした。

「こだま峠」
 こちらも悲しいお話でした。
 兄がいて、妹がいて、弟がいる三人きょうだいでした。
 「こだま」は、山で響く「こだま」のことであり、妹の名前「小玉」でもあります。
 兄と弟がトラブルになって、弟が崖から落ちて亡くなってしまいます。
 まんなかの妹はふたりの調整役になって、何を言われてもはいはいと答えるだけです。
 きょうだいの間の比較差別による悲劇があります。けっこうきつい。

「天狗笑い」
 夏の入道雲の陰に天狗が隠れているというお話で、留吉(とめきち)という名の少年の継母(父の妻ではあるが自分の実母ではない)の話でもあります。
 継母が留吉の父の子を産みます。(異母きょうだい)ふつうなら悲しいことが留吉についてくるのですが、留吉はめげません。継子(継母からみて、配偶者の連れ子。実子ではない)への応援メッセージがある作品です。

「緑の馬」
 山の木が泣きます。木は逃げたくても動けないので逃げることができません。
 されど、実がなって、実は種になり、広い範囲へと飛び、自分の仲間がどんどん増えていくじゃないかと励ましがあります。
 別の童話で、「片足ダチョウのエルフ」おのきがく作という作品を思い出しました。

「天の笛」
 142ページにある白黒版画の雪が降る絵は印象深く記憶に残ります。
 ひばりという鳥の話でした。
 思い出しました。まだ、小学校低学年のころは、身近に自然がいっぱいあって、春になると学校の帰り道でたくさんのひばりを見かけました。ひばりたちは、ほんとうに垂直に空へ向かって上昇し続けてけっこう大きな声で鳴いていました。
 いまはもうひばりはみかけなくなってしまいました。
 物語のなかでのひばりもいなくなってしまいます。ひばりが犠牲になる結末で、複雑な気持ちになりました。

「白い花」
 第二次世界大戦中にあった「空襲」がヒントになっている作品だと思います。空から降ってくる爆弾を「空からテングが火を降らしていた。」と表現してあると受け止めました。
 こどもたちを田舎へ疎開させたようなお話しも出てきます。

「寒い母」
 この作品だけは、ほかの作品とは毛色が異なります。女性の性を扱ってあります。寒いから男性に抱かれたいのです。体が寒いというよりは、心が冷えているのです。
 母は、17歳で結婚して、七人のこどもを産んで育てる中で、夫を事故で亡くします。
 文学です。こどもたちは、母親の不貞行為をとがめず助けます。ただ、現実的ではありません。
 やがて長い歳月が過ぎて、母も子も亡くなります。七人のこどもたちは「北斗七星」になったところでお話は終わります。

「トキ」
 そういえば、朝の散歩をしているときに、トキに似た鳥をつがいで見かけることがあります。希少な鳥といわれていましたが、案外渡り鳥としているのではなかろうか。あるいは、見た目が似ている野鳥がいるのかもしれません。
 さて物語のほうは、作者の実体験記録となっています。恋の記録です。戦時中からの思い出話です。あこがれの女性がいました。
 ここまできて気づいたのは、作品群はただの童話ではなくて、けっこう「毒」が含まれています。きれいごとと本音、夢と現実、戦争への憎しみ、生きていくために環境へ適応するための妥協、晩年が近づきつつある作者の気持ちがトキに重ねてありました。「トキは無口だが親身になって聞いてくれる。うまい考えは出せなくても、一緒になってウンウン唸って(うなって)当人よりも考えこみ、時には一緒になってポロポロ泪(なみだ)をこぼしてくれる……」とあります。  

Posted by 熊太郎 at 07:10Comments(0)TrackBack(0)読書感想文