2020年12月01日

ベロ出しチョンマ

ベロ出しチョンマ 斎藤隆介・作 滝平二郎・絵 理論社

 15本の短いお話がおさめられています。
 小学校低学年の頃、この物語ではありませんが、給食の時間帯に校内放送で短いお話が流れていました。それを聴くのが楽しみで、行きたくもない学校へ登校していました。
 そんなことを思い出しながらこの本を読みました。

「花咲き山」
 単体の絵本で読んだことがあります。滝平二郎(たきだいらじろう)さんの切り絵がきれいでした。
 東北弁です。伝承による民話のように思えますが、作者による創作童話なのでしょう。
 おもいやりの気持ちが花を咲かせます。忍耐の推奨があります。耐えるしかない時代や時期がありました。
 花は、優しさとけなげさの象徴とあります。秋田県の八郎潟(はちろうがた)という地名が登場します。

「ソメコとオニ」
 ソメコは五才です。
 ぼかす技法が使われています。オニを親切なおじさんとして扱ってあります。ソメコは、自分がオニに誘拐されていることがわかりません。
 おもしろい。逆転の発想があります。

「死神どんぶら」
 これまでの作品も含めて、読んでいて、名作の香りがあります。
 三郎治のそばに死神が控えています。死神は三郎治をあの世へとお迎えに来たのです。
 落語の人情噺(にんじょうばなし)を聴くようです。
 版画の切り絵に味わいがあります。
 父親のアルコール依存症が憎い。
 三郎治は小さな娘のカヤに助けられました。

「毎日正月」
 笠雲。山のてっぺんにのっかったような位置に浮かんでいる雲から始まります。
 茨城県の筑波山付近です。
 父親はアル中で、母親は亡くなって、14歳のハナががんばっています。
 昔はまちのあちこちで酔っ払いの男がふらふらしていました。
 江戸時代のお話です。
 唐笠連判(からかされんぱん)という百姓一揆(ひゃくそういっき)を起こすための決意書面が出てきます。だれが首謀者かわからないように円陣の順番で署名と決意表明がしてあります。
 お気楽でだらしない自己コントロールができないオヤジへの戒め(いましめ)の作品でした。毎日酒ばっかり飲んでいるから、毎日がお正月なのです。

「春の雲」
 雪崩(なだれ)の事故で亡くなった登山部の高校生たちを思い出してしまいました。
 雲の上には赤ちゃんたちの姿があって、雪崩で亡くなったこどもたちというお話でした。
 家は貧乏で、両親は山仕事で、12歳の女の子モヨがあかんぼたちの子守りでがんばります。
 春が近づいてきて暖かくなったから雪崩が起こります。
 
「ベロ出しチョンマ」
 怖くて悲しいお話しをユーモアに変えてあります。こんな話だったんだ。
 一家全員が処刑されるお話です。
 はりつけ台で幼い妹が泣くので、兄の長松がベロを出して妹を笑わせるのです。
 権力に対する抗議のメッセージがあります。
 江戸時代の重い年貢に対する抗議です。
 冒頭にしもやけの話が出ます。そういえば、こどものころ、冬になると、両手の甲が、しもやけになっていました。最近はこどもさんがしもやけになったという話は聞きません。いい世の中になりました。

「白猫おみつ」
 美しく生まれたことで特別扱いされた女子の運命です。
 おみつという女の子は、さきざき、殿様の嫁様になると言われて成長していきます。
 おみつはお上品なので、周囲のこどもは彼女に距離を置きます。
 おみつは、殿様ではなく、山賊の頭の嫁様になります。
 ことの顛末(てんまつ)は平凡です。この一作はあまり好みではありませんでした。作品によってできふできの波があるような。

「おかめ・ひょっとこ」
 「鏡」はおそろしいものという教えがあります。
 鏡ばかり見ていた女の子「田ッ子様」が、湖の底に住む竜になってしまったというお話でした。

「こだま峠」
 こちらも悲しいお話でした。
 兄がいて、妹がいて、弟がいる三人きょうだいでした。
 「こだま」は、山で響く「こだま」のことであり、妹の名前「小玉」でもあります。
 兄と弟がトラブルになって、弟が崖から落ちて亡くなってしまいます。
 まんなかの妹はふたりの調整役になって、何を言われてもはいはいと答えるだけです。
 きょうだいの間の比較差別による悲劇があります。けっこうきつい。

「天狗笑い」
 夏の入道雲の陰に天狗が隠れているというお話で、留吉(とめきち)という名の少年の継母(父の妻ではあるが自分の実母ではない)の話でもあります。
 継母が留吉の父の子を産みます。(異母きょうだい)ふつうなら悲しいことが留吉についてくるのですが、留吉はめげません。継子(継母からみて、配偶者の連れ子。実子ではない)への応援メッセージがある作品です。

「緑の馬」
 山の木が泣きます。木は逃げたくても動けないので逃げることができません。
 されど、実がなって、実は種になり、広い範囲へと飛び、自分の仲間がどんどん増えていくじゃないかと励ましがあります。
 別の童話で、「片足ダチョウのエルフ」おのきがく作という作品を思い出しました。

「天の笛」
 142ページにある白黒版画の雪が降る絵は印象深く記憶に残ります。
 ひばりという鳥の話でした。
 思い出しました。まだ、小学校低学年のころは、身近に自然がいっぱいあって、春になると学校の帰り道でたくさんのひばりを見かけました。ひばりたちは、ほんとうに垂直に空へ向かって上昇し続けてけっこう大きな声で鳴いていました。
 いまはもうひばりはみかけなくなってしまいました。
 物語のなかでのひばりもいなくなってしまいます。ひばりが犠牲になる結末で、複雑な気持ちになりました。

「白い花」
 第二次世界大戦中にあった「空襲」がヒントになっている作品だと思います。空から降ってくる爆弾を「空からテングが火を降らしていた。」と表現してあると受け止めました。
 こどもたちを田舎へ疎開させたようなお話しも出てきます。

「寒い母」
 この作品だけは、ほかの作品とは毛色が異なります。女性の性を扱ってあります。寒いから男性に抱かれたいのです。体が寒いというよりは、心が冷えているのです。
 母は、17歳で結婚して、七人のこどもを産んで育てる中で、夫を事故で亡くします。
 文学です。こどもたちは、母親の不貞行為をとがめず助けます。ただ、現実的ではありません。
 やがて長い歳月が過ぎて、母も子も亡くなります。七人のこどもたちは「北斗七星」になったところでお話は終わります。

「トキ」
 そういえば、朝の散歩をしているときに、トキに似た鳥をつがいで見かけることがあります。希少な鳥といわれていましたが、案外渡り鳥としているのではなかろうか。あるいは、見た目が似ている野鳥がいるのかもしれません。
 さて物語のほうは、作者の実体験記録となっています。恋の記録です。戦時中からの思い出話です。あこがれの女性がいました。
 ここまできて気づいたのは、作品群はただの童話ではなくて、けっこう「毒」が含まれています。きれいごとと本音、夢と現実、戦争への憎しみ、生きていくために環境へ適応するための妥協、晩年が近づきつつある作者の気持ちがトキに重ねてありました。「トキは無口だが親身になって聞いてくれる。うまい考えは出せなくても、一緒になってウンウン唸って(うなって)当人よりも考えこみ、時には一緒になってポロポロ泪(なみだ)をこぼしてくれる……」とあります。

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