2018年05月10日

ルラルさんのだいくしごと いとうひろし

ルラルさんのだいくしごと いとうひろし ポプラ社 2018年課題図書

 色合いとして、オレンジ色と黄緑色の対比が美しい。
 最初、ルラルさんの文字が「ハラルさん」に見えて、読みながら、だいぶ長い間、ハラルさんだと勘違いしました。
 ルラルさんは、日本人のようでもあるし、外国人のようでもある。30代にも見えるし、もっと年配にも見えますが、おそらく作者と同年齢だろうから、50代ぐらいでしょう。

 描いてある大工道具は、かなづち、スパナ、曲がり尺、きり、のこぎり、かんな、ビス、やっとこ、ドライバー、くぎ抜き、のみ、なんとか全部の道具を思い出しました。
大工仕事をするのは、中学2年生技術・家庭科の授業で自家製椅子を作って以来ありません。

 物語は、「作成」からではなく、「修理」から始まります。絵を見ると窓の修理をしています。ルラルさんは、プロの大工ではないと説明があります。

 今回は雨漏りの修理です。
 家が雨漏りするとは、最近は聞かなくなりました。よほど、強烈な台風の来襲があったあとぐらいでしょう。
 昔はよく雨漏りというのはありました。今は建築技術が発達して、大丈夫なのでしょう。

 雨漏りしているのは、2階建ての家ではなく、平屋です。ルラルさんははしごをかけて、そこを登って屋根の上ですが、そのはしごが、はずれるのです。はしごがなにかのはずみで倒れたとしか思えません。
 ルラルおじさんは、屋根の修理が終わりましたが、はしごが、地べたに倒れているので、屋根から降りることができません。
 
 そこへ助けが来てくれましたが、お気楽なメンバーなので、すぐさまの助けにはなりません。
 ワニ、カメ、ネコ、ネズミ、犬、ブタ、カエル、右端は耳が長いからウサギだろうか。ウサギには見えない。後姿なので、わかりにくい。

 ひもやロープ、縄の電車ごっこは見たことがありますが、はしごの電車ごっこを見るのは初めてです。
 みんな、はしごの電車ごっこに夢中になって、森のほうへ行ってしまいました。ルラルおじさんはどうして彼らを呼び止めないの? まず自分をおろしてくれーって。おろしてから、みんなは遊びに行けばいいのに。

 ここからは意味が深くなります。
 世の中では、「時間はお金」だとかで、時間をむだにしてはいけないという教えがあります。でも、ほんとうはそうではありません。むだだと思える時間こそ、必要な時間なのです。むだな時間のなかに交流があります。心の交流です。

 ルラルおじさんは、屋根の上に寝そべって、流れる雲を見上げながら、動物のこどもたちが森から帰ってくるのを待ちます。人間には、休憩が必要です。ずーっと休みなしに働き続けると体や心が壊れて病気になったり、事件や、事故に巻き込まれたりします。

 ルラルおじさんは長い時間待ちます。こんなに長い時間、電車ごっこができるとも思えませんが、おじさんはこどもたちにためされているのかもしれません。ルラルオジサンがこどもたちに対して、怒るか怒らないかをためすのです。
 ルラルおじさんは怒りません。「ゆとり」とか「余裕」とか、きっとみんなは帰ってきて自分が屋根から降りられるようにしてくれるだろうという「信頼」があります。

 ルラルおじさんは屋根から無事に降りることができました。
屋根の修理がすみました。のんびりできた結果、心の修理もできたことでしょう。働き方改革の絵本でした。  

Posted by 熊太郎 at 20:01Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2018年05月09日

ひがしやまどうぶつえんにて

ひがしやまどうぶつえんにて

ちっちゃいけれど、ちからもちだぞう。



おしりだけ見せてゴメンネ



(左側)「ちょっと、きょう、暑くない?!」 (右側)「だから、日陰にいる。」



暑くても、食べ物があればいい。



暑くても、お水があればいい。



おいらは、なにもなくてもいい。
アフリカゾウは、インドゾウよりでっかいゾウ



  

Posted by 熊太郎 at 11:18Comments(0)TrackBack(0)名古屋市

2018年05月08日

それまでの明日 原寮

それまでの明日 原寮 早川書房

 初めて読む作家さんです。推理小説です。

 タイトルの意味がわかりません。「それまで」は、現在もしくは過去、「明日」は未来、ゆえに接合できない気がします。

 登場人物は小さなグループになっています。警察グループ、金融会社、強盗、料亭、主人公は、沢崎という男性私立探偵です。

 1項目が7~8ページで読みやすい。

 出だしがおもしろい。交番の前をうろうろする探偵さんです。

 タバコの記述が多いのは、昔風です。

 ひとり行方不明。
 ひとり死体になる。
 
(つづく)

 たぶん、中身は高度で、完成度の高い作品だと思うのですが、昔風なのです。
 ことに、タバコのシーンが連続していきます。タバコで引っ張っていく物語です。昭和時代の名残です。

 読書の玄人(くろうと。熟達した人)受けする文章です。

 だから、「それまでの明日」 というタイトルなのだろうかと勝手な解釈をします。それまで=これまでのやり方で、明日もやるです。変化しない。時代から遅れていく。

 可能性がある複数の提案のあとの選択はしない。
 各人が秘密をもっていてなかなか口外しない。
 正体が明確ではない。
 いろいろな仕掛けがしてあります。

調べた単語として、「警邏:けいら。漢字を初めて見ました。」

いいなと感じた表現です。「出口どころか入口もはっきりしない。」、「職業的な笑み」、「ペンライトの灯りを向ける」  

Posted by 熊太郎 at 10:02Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2018年05月07日

5月の名古屋港

5月の名古屋港

名港水族館との間にかかる橋の上から撮影しました。奥に見えるのが、トリトン(名港大橋)



帆船を模した建物で「ポートタワー」






風薫るさわやかな一日でした。  

Posted by 熊太郎 at 11:33Comments(0)TrackBack(0)名古屋市

2018年05月05日

すごいね! みんなの通学路

すごいね! みんなの通学路 西村書店 2018課題図書

 もう、30年ぐらい前、この本と類似する本を読んだことがあります。
 場所は、ヒマラヤ山脈のちゅうぐらいの海抜の土地で、そこに住むこどもさんが学校へ行くのですが、距離は遠く、道は険しい、氷河をとおったり、細くて危険な標高のある山道を歩いたり、川を越えたりというものでした。過酷な通学路なのですが、こどもが学校に行く理由は、勉強をして、いい仕事に就いて、十分な収入を得るためというものだったという記憶があります。高い教育=安定収入につながるという一面があります。(それがすべてではありませんが、読み書き計算、企画立案、実行の頭の良さは必要です。)
 それは、単一の国の通学路の紹介でしたが、この本は、複数の国のこどもたちの通学路を紹介しています。

 ではこの本を読んだ感想を書きます。
 まず、ひととおり、1回目をとおすように読みました。そのとき、ページを見て感じたことを、付箋(ふせん、ポストイット)にメモして貼りました。次にもう1回ていねいに読みこみました。また、付箋にメモをして貼りました。

 わたしは、付箋を見ながら感想文をつくります。

 まず、ノーベル平和賞を受賞したマララさんの紹介があります。実はマララさんは、地元のパキスタンでは嫌われている一面があると別の記事で読みました。英国居住で、守られている。経済的に保障されている。されど、この本を読むと彼女は、私財を出して女学校をつくっています。彼女への援助資金は地域の人たちのために還元されています。なかなかできることではありません。当然と言えば当然ですがたいしたものです。15歳のときにタリバンから銃撃された彼女ももう20歳になりました。人類にとっての偉大な人です。

 この本の趣旨は、「こどもには教育を受ける権利がある。同様に、女子には教育を受ける権利がある。おとなは、子どもに平等に、教育を受けさせる義務がある。」 だから、危険な思いをしてでも、こどもたちは学校へ通う。その通学路、安全ではない、世界の通学を紹介するものです。

 通学がたいへんで学校へ行かなくなる子どももいるでしょう。
 学校でいじめられたから学校へ行けなくなる子どももいるでしょう。
 世界のことを知り、日本のことを考える。
 アフリカウガンダでは、子どもたちが机を運びながら通学しています。通学ではありませんが、日本も昔は、修学旅行にお米を持参して行きました。持参したお米を旅館に渡すのです。第二次世界大戦後の小学生の修学旅行ではそれが普通でした。

 地震、津波、台風、自然災害で、橋がくずれて傾いている。それでも、その橋を渡って学校へ行く。自治体なり国家には、橋を修理するお金がない。(税金がない。) インドネシアの写真を見ながらそう考えました。

 上と下、川をまたいで、ワイヤーを渡してあるだけです。上のワイヤーにつかまって、下のワイヤーに足をのせて、少しずつ体をむこうの岸へと動かす。怖い。

 友だちと遊べるから学校へ行く。
 学校が大好きだからあぶない思いをしてでも学校へ行くとありますが、しかたがないから行くという理由もあるでしょうし、友だちがいるからということもあるでしょうし、新しい知識や体験があるのが楽しみということもあるでしょう。

 本で紹介されている国は、日本、フィリピン、中国、インドネシア、タンザニア、ハイチ、ラオス、インドです。インドは暑い国という先入観がありますが、紹介写真を見ると氷河の上をはって移動しているように見えます。インドでも寒い地域はある。

 通う手段として、自分の足、川の渡り方は、まるで、人間ロープウェイ、人間リフト、人間ケーブルカーで、信じられないというおもいがします。危険です。まるで登山です。崖をのぼります。はしごを登ります。山腹の狭い通路みたいな道を歩きます。うそみたいです。
 訓練と体験で、強くなれるでしょう。知恵もつくでしょう。

 日本の都市部、中心の商業地区にあるマンション住まいのこどもたちは、地下街が通学路です。以前、その光景を見たことがあります。まだ、開店していないお店を横に見ながら、地下街の廊下のような幅の広い通路を集団登校して小学校へ行くのです。田舎ではちょっと考えられません。

 人間は生きている。人間はこれでも生きていくというメッセージが伝わってきて、今年読んだよかった1冊です。  

Posted by 熊太郎 at 23:04Comments(0)TrackBack(0)読書感想文

2018年05月04日

こども孫子の兵法 監修 齋藤孝

こども孫子の兵法 監修 齋藤孝 日本図書センター

 売れている本だと思うのです。

 意外だったことがあります。
 「孫子」は、人物の名前ではない。その昔中国に孫子という人がいたのだと思っていました。
 「孫子」は、書物の名称である。「孫子」を書いたのは、孫武そんぶという人が「孫子」を書いた。
2400年前の当時は、まだ「紙」がなかったので、竹に書いた。

 内容はごもっともです。
 道徳の本を読んでいるようですが、内容は兵法です。勝負のしかた。勝ち方です。

 本に書いてあるとおりやれば、たいていは、安心と安定を得られます。
 デメリットとしては、感動の少ないあるいは、アゲサゲのない、平坦な、つまらない、たいくつな人生を送ることになるでしょう。それでいいということであれば、教えに従うといいことがあります。
 戦法は、戦術であり、心のこもらない対応です。勝つためには感情に押されてはいけないのです。怒りは禁物です。常に冷静であれ。ロボットのように論理的であれ。得るものもあれば、失うものもあります。正面から戦わないわけですから、卑怯にも思えます。
 効率優先、安全第一、精神論よりも科学です。
 自分を危険な状態に置かないのです。

 こどもさんが読んでも学べるようにつくられた本です。
 孫子自体の文章は理解不能です。(途中からこの部分は読みませんでした。)
 日本語へ変化させた書き下し文がわかりやすい。
 
 負けないための準備をする。
 相手の戦法を予測する。
 
 成功するためには、「繰り返す。」が大事です。繰り返しながら、次々と見えてくること(気づくこと)があります。車の運転も最初は苦手でも毎日ハンドルを握って車通勤をしていたら運転が苦にならなくなり、さらに行動範囲も広がります。やればできる。できないことはないという自信がつきます。

 自分のことは自分で決めようという言葉があります。たしかにそのとおりなのですが、世の中にはいろいろな人がいます。自分で自分のことを決めることができない人もいます。「どうする、どうする」と言う人はたくさんいます。逆に、ぱっぱと決めることができる人もいます。なにごとも、ふたとおりあります。  

Posted by 熊太郎 at 06:15Comments(0)TrackBack(0)読書感想文