2014年06月02日

時をつなぐおもちゃの犬 2014課題図書

時をつなぐおもちゃの犬 マイケル・モーパーゴ あかね書房 2014課題図書

 色付きのイラストがきれいです。とくに、人物の絵を気に入りました。
 イギリス国の物語です。第二次世界大戦のことが書いてあります。イギリスとドイツの戦艦が海戦を交えています。そこに、不幸な物語と今なお思い出に残るお話が含まれています。過去から現在への橋渡しをするのが、犬の形をした玩具です。戦争はやめようという作者からのメッセージがあります。
 ワールドカップサッカーのお話がからんできます。今月からブラジルでワールドカップサッカーが開幕します。そのへんのところも意識してある物語でした。
 さて、わたし(チャーリー女性)の手記が始まりました。わたしという女性は、今頃、たぶん60歳すぎぐらいでしょう。物語はずーっと昔のこと、わたしが12歳、弟アレックスが7歳4か月の頃のことです。ふたりのそばには、牧羊犬マニー(正しい名前はマンフレート)もいました。場所は、イギリス東部サフォーク州ケッシングランドにあるメイフィールド農場です。自宅には、「リトル・マンフレート」(わたしであるチャーリーの母親グレースが名付け親)という木でできたダックスフントがあります。(後半で「平和の犬」と称されます。)それは、茶色いペンキで塗られた胴体に赤い車輪が4個付いていました。でも、車輪の1個はなくなって、こわれて動かせません。
 1966年の夏に「マンフレート」の意味がわかります。わたしは12歳です。マンフレートは、男性の名前です。その日は、サッカーワールドカップの決勝戦の翌日だった。イングランドがドイツを破って世界一になった。翌朝、ふたりと一頭の犬は、海岸でふたりの男性に出会いました。マーティ・ソーパー(イギリス人)とヴァルター・クロイツ(ドイツ人)、そして姿はないけれどマンフレート・ハイデ(ドイツ人)、今浜辺に居るヴァルター(ドイツ人)は、戦後間もなくの2年間をメイフィールド農場で過ごしています。サッカー決勝戦を観戦に来たふたりは、ヴァルターの思い出の地を訪ねたのです。
 文章を読んでいたらイギリス映画を見ているような気分になりました。質実剛健、硬い雰囲気、格調高い、こわばったユーモア、わたしが抱くイギリス映画のイメージです。そうそうたいてい王様とか王をたてまつる意識が出てきます。
 マンフレートとヴァルダーは、今、みんながいる砂浜で、昔、ランチを食べた。海の向こうにあるふたりのふるさとドイツバイエルンを思い描いた。ふたりは近所に住む幼なじみだった。マンフレートはユタと結婚してインガという名の娘をもった。ふたりは海軍に入って戦争が始まった。2000人を超える人間が乗っていたビスマルク号は1941年に海戦で破れ沈没した。最初はうかれていたが、やがて気づいた。「おれたちが殺すのは人間で、おれたちを殺すのも人間だ」。マンフレートとヴァルダーは、海上で溺れかけていたところをイギリス兵のマーティに助けられています。勝負がつけば、勝者は敗者を助ける義務があります。ヴァルターの片足は折れていた。ふたりは、戦争捕虜として6年間をイギリスで過ごしました。その後半の2年間をチャーリーとアレックスが住む牧場で過ごしています。
 ドイツへの帰還が近づいてきた頃、マンフレートは事故死します。海岸に埋められていた地雷(爆弾)を踏んで吹っ飛ばされてしまいました。
 66ページ、ドイツ人ヴァルダーのイギリス人マーティ・ソーパーに対する言葉「あの親切は一生わすれない」「死んだ兵士には家族がいた」。ドイツ人マンフレートにはふるさとに妻ユタと娘インガがいた。ドイツへ帰国したヴァルダーは、亡くなったマンフレートの妻と娘のめんどうをみます。このあたりは、名作「永遠の0(ゼロ)」百田尚樹著と似通っています。
 1966年から25年後、1991年に、37歳になったわたしことチャーリーは、ロンドンへ旅しています。チャーリーは結婚して4人のこどもがいます。アレックスは32歳でカナダのトロントに住んでいます。ドイツ人のヴァルターは前年に亡くなりました。その妻ユタが娘のインガを連れてきました。マーティは高齢でよろよろです。インガが、玩具<リトル・マンフレート>を帝国戦争博物館の展示として陳列ケースにおさめます。
 文中からドイツ語をふたつ拾いました。26ページ、ブンダバー(おどろいた)、28ページ、アウスゲツァイヒネト(夢のようだ)。お気に入りの2語です。

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