2014年05月01日

どこかいきのバス 2014課題図書

どこかいきのバス 井上ようこ 文研出版 2014課題図書

 まずは、カバーの裏書を読んでみました。
 おかあさんとけんかして、うちをとびだしたぼくのまえに、どこかいきのバスがあらわれた。なかなかおもしろそうです。
 はじまって数ページが過ぎてバスが登場したときに、トトロのネコバスを思い出しました。
 こどもさんが読むには、「バス」が何かを知っていなければ理解できません。今どき、バスに乗ることは少なくなりました。移動は乗用車中心です。こどもさんの場合、料金を支払う公共バスを利用するよりも、幼稚園バスのほうが身近でしょう。付け加えるなら、家族によっては、電車にも乗らなくなりました。戸口から戸口まで家の車で移動するのは、都会よりも田舎のほうが多いでしょう。さらに加えるなら、乗車料金を現金で支払うことも少なくなりました。ICカードで支払う時代です。余談が長くなりました。
 母親とけんかして、家出する。ありそうで、あまりない。もなかのはこに、セミのぬけがらをいれておく。これも、今は、ほとんどない。もなかを食べることは日常的にないし、セミのぬけがら集めをするこどもを近所で見かけることもない。ここまできて、これは、現在、50代なかば以上の世代が、こどもの頃に体験したことを思い出す物語だと思ってしまったのです。郷愁です。もう、あの時代には戻れない。どこかいきのバスにのった昭和30年代当時の少年少女たちは、未来である今にたどりついたのです。
 どこかいきのバスは、失ったセミのぬけがらをふたたび見つけるために、山へ行くのだと思っていました。しかし、着いたのは山ではありません。港のどんづまりでした。
 名前のない主人公の「ぼく」は、セミのぬけがらを8個ももなかの箱に入れていました。宝物です。お金のない時代、少年少女にとって、大切なものは、お金のかかるものではなく、自分の気持ちをこめることができるものでした。
 どこかいきのバスが、せんすいていに変化したのにはがっかりしました。形を変えないでほしかった。海にもぐるにしても、バスのままの姿でいてほしかった。
 せんすいていは無人島へいきます。なぜ? 読むうちに、ひとりでは生活できないという理屈にたどりつきます。その先には、叱った母親をはじめ周囲の人と仲良く暮らすというメッセージがあります。メッセージをしつけとか教育というのだけれど、安定した組織を維持していくための個性や行動の標準化を強いられている気がします。
 子ダヌキがバスに化けていたという設定には、やっぱり発想や内容が古いなあという感想です。ディズニーやハリー・ポッター、わたしも知らないゲームの世界に出てくるキャラクターを知る6才ぐらいのこどもたちはこの本をどんなふうに読んで、どんなことを思うのだろう。
 先日、車で遠方へ出かけた帰り、午後10時頃でした。運転していた家族が、自宅の近所の道路上でおとなのタヌキを見つけたと、タヌキは両足で立ち上がって、目をランランと輝かせて、こちらを見ていたとハンドルを握りながら言いました。一瞬のことで、わたしは目が悪いので、タヌキの姿を見ることはできませんでした。タヌキはいるんだ。人目につかないところで生きているんだ。本を読むこどもさんに実体験がほしい。

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この記事へのコメント
はじめまして。
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もしよろしければ遊びにきて頂ければと思います。

よろしくお願い致します。
Posted by 読書ログ at 2014年05月02日 09:41
とりあえず「お気に入り」に入れさせていただきました。
本や映画さがしの参考にさせていただきます。
ありがとう。
Posted by 熊太郎熊太郎 at 2014年05月03日 17:51
ご返信ありがとうございます。
ご都合のよろしい時にレビューやコメントなどなど参加して頂ければとても嬉しいです。
今後ともよろしくお願い致します。
Posted by 読書ログ at 2014年05月09日 13:52
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