2014年03月31日

(再読)走れ!マスワラ 

(再読)走れ!マスワラ グザヴィエ=ローラン・プティ PHP

 こどもさん向けの本で、少ないページ数のなかに、気持ちがいっぱいこめられていて、最後は涙しました。いいお話でした。
 再読して、前回、いくつかのことを見落としていたことを知りました。この物語は、フランス人男性作家の作品です。女性が主人公であることから、女性作家が書いたと思い込んでいました。
登場人物アフリカ人母親のモデルが存在することを知りました。物語では、母親はマラソン大会で優勝することはできませんでした。素材となった現実の女性マラソン選手は2004年のナイロビマラソンで優勝しています。また、マスワラは毒蛇に噛まれたと記憶していましたが、サソリに刺されたが正しかった。頭の中は、誤解ばかりで成り立っています。
 心臓病をもつ娘シサンダのひとり語りが続きます。心臓の鼓動を管理しなければならないことから数学に強い。病気の人とその家族の気持ちを知るための作品でもあります。
 以下は、気持ちに響いた表現です。
 「数には終わりがない。」
 ランドローバー(車の名称です。)の車輪の下に新聞紙が入りこんだ。(偶然、マラソン大会出場者募集の情報が記事として提供されます。)
「世界一の病院で、シサンダの心臓を手術してもらうのよ」

【前回の読書の感想 2012年6月18日】
走れ!マスワラ グザヴィエ・ローラン・プティ PHP
 読み始める前に考えたことです。マスワラというのは少年で、家庭は貧しい。家族の中に病人がいて、その人の治療費を稼ぐためにマラソンの賞金レースに出場する。マスワラ少年は見事優勝する。違っていました。
 マスワラはおかあさんでした。心臓病(奇形で血が漏れる)の9才の娘シサンダの治療費をたたき出すために走るのです。女子マラソンです。42.195kmを素人の主婦が走るのです。気持ちだけで十分です。優勝は無理です。心臓病の治療費が100万ケル。一家の稼ぎが1か月で500ケル。500ケルを日本円で1万円として、100万ケルは500ケルの2000倍ですから、1万円をかけると治療費は2000万円になります。マラソンの優勝賞金が150万ケルです。(3000万円)。前年優勝者のタイムが2時間41分23秒です。距離÷時間で計算すると、42.195km÷2.68時間で答は15.74km/時間となり、時速15kmから16kmで走ります。41分は41÷60の0.68時間で、2時間41分は2.68時間ぐらいです。心臓病のシサンダには算数の才能があります。生まれてからずっと心臓の鼓動を数えているからです。生き続けていくために1日あたり何回しか心臓を鼓動させてはいけないという制限ルールがあるのです。
 アフリカには日本のような四季がありません。雨季と乾季です。はじめの部分に、西洋の家は部屋がたくさんあるが、アフリカは一部屋を寝室・居間・食堂で兼用するとあります。50年ぐらい前の日本も同じでした。おふとんを敷いて夜は寝る。昼間はおふとんを押入れにしまっていました。4畳半と6畳のふた間に台所という狭いスペースに親子4人ぐらいで暮らしていました。同じ部屋をいく種類にも使い分けていました。家にはトイレもおふろもなく、共同便所と共同風呂でした。世帯ごとに便所掃除当番とかお風呂をわかす当番が回ってきました。
 物語の後半ではテレビにまつわるすったもんだが出てきます。異国のことのようでそうではありません。昔の日本もテレビのない家ばかりで、こどもの頃は、みんなでテレビのある家にテレビを見に行っていました。人に人生という歴史があるように国にも国の人生のような歴史があります。
 母親のマスワラは文字を読むことができません。勉強するチャンスがなかったからです。日本でも文字を読むことができない人はたくさんいます。みなさん、苦労されました。こどもの頃から働かされて学校へいけず、勉強させてもらえなかったからです。
 シサンダは病院までいくのに近所のおじさんの自動車で片道6時間かかります。先日読んだ本には、日本を訪れたタイの女性は日本の空港からタイの空港に到着したあと、自分で600km離れた自宅まで自家用車を運転して帰ると書いてありました。時速60kmで走り続けても10時間もかかります。人は便利さに慣れてしまうと身勝手になり、怒りばかりが増えて元気がなくなります。
 マスワラの「スワラ」はレイヨウという鹿を指します。おかあさんのマスワラは鹿のように走るのです。おかあさんは速く走ることができる才能があります。でも、効率よく正しく走る教育は受けられません。マスワラは、はだしで走ります。おとうさんがシューズをプレゼントしてくれたけれどシューズをはきません。それが原因ではありませんが、マスワラはサソリに足を刺されて体に猛毒がまわります。マラソン出場なんてできる状態ではありません。でも、出場するために参加費5000ケル(10か月分の生活費)をマラソンの主催者に払いました。棄権すると、一番大きなヒツジを売ってつくったお金がパーになってしまいます。マスワラのゼッケンは953番です。ひとりの参加費が5000ケル×953人として、476万5000ケルになります。優勝賞金が150万ケルですから宝くじ方式の賞金です。おおぜいの人たちが力を合わせれば大きな力になります。
 勝負に勝つためには運が必要です。マスワラのまわりの人たちが祈ります。運をもたらせてくれるのは神さまです。原始的です。病気のシサンダは夢の中で幻のレイヨウ(鹿)に出会います。選手はそれぞれが優勝したいと思ってレースに参加しています。でも優勝できるのはひとりだけです。気の毒だからと勝ちを譲るのは八百長(やおちょう、インチキ)です。ぼろまけしてもいいから正々堂々と闘うのです。サソリに刺されて毒の後遺症が残っているマスワラが優勝できるわけがありません。本当なら1年後のマラソンレースに向けて体力の回復を待ち練習を再開すべきです。でも1年待っていたら心臓病のシサンダは死んでしまうかもしれません。
 マスワラは走りました。おかあさんとして、自分が産んだ娘に責任をもつために、力いっぱい走りました


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