2014年02月14日

穴 小山田浩子

「穴」、「いたちなく」、「ゆきの宿」 小山田浩子 新潮社

 3本は関連がありそうなので、まとめて感想を書きます。
 「穴」は脳みそに不思議な働きをしてくる小説です。読んでいたら日頃の疲れがとれていないせいで眠りにおちました。夢をみました。小説のなかみの続きです。小説は、夫婦が転勤して夫の実家の隣家で暮らします。転勤によって、妻の生活は仕事を辞めて家事専業の主婦に変化します。彼女は、田舎暮らしをしていて「獣(けもの)」を見つけます。獣の顔は細長くて、目は黄色です。ハクビシン(ひたいから鼻にかけてがしろいネコみたいな生き物)だと思いましたが、「いたちなく」で、いたちということにしました。主婦松浦あさひさん30歳は、姑におつかいを頼まれたあと「穴」に落ちます。不思議の国のアリスみたいだと思っていたら、その後アリスの記事が出ました。自分は夢の中で、穴に落ち、顔だけ地上に出しています。周りの世界は見えるけれど、穴の外に出ることはできない。穴は「日常」です。人は誰しも一定の範囲内でしか動けない。
 主人公の生活は田舎暮らしに変化しました。パート仕事を辞めて専業主婦です。姑所有の戸建てなので、家賃はいりません。ただし、夫の実家の隣に住んで初めてわかったことがあります。夫の祖父はどうも認知症の90歳です。結婚後も知らなかった夫の兄の存在(20年前から登校拒否のまま成人)を知ることになります。あさひさんは、一族の暗部(穴)に落ちたというか、入ったのです。
 「いたちなく」、「ゆきの宿」では、不妊治療とか、猪鍋とか、不良老人(たかりにくる)とかも出てきます。
 何気ない日々の暮らしを見つめながら老いていく。そのへんのところをしみじみとした文脈で綴った作品です。
 「穴」の始まりでは、あさひさんの3歳年上である33歳の女性が、正規社員と非正規社員との格差に対して強い抗議をします。人はみな労力にみあった報酬がほしい。現実社会の文章置き換えはリアルです。読んでいて、母親の若い頃の生活を思い出しました。
 徒歩とバスの移動手段のみは世界が狭いと感じました。脱線しますが、オリンピック競技を見ていて、世界は地球規模で交流範囲が広がっている。言語は、アルファベットで表記される。日本の漢字はそのうちすたれていくだろうと予測しました。
 冒頭から続く、ページにきっしりの文字は、最初は読みにくかったけれど、文章は平易で、そのうち苦にならなくなりましたが、少し整理はしてほしい。読み手はときおり休憩したい。心落ち着く小説ですが、ちとわたしの好みには合いませんでした。

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