2014年02月08日

昨日のカレー、明日のパン 木皿泉

昨日のカレー、明日のパン(ゆうべのカレー、あしたのパン) 木皿泉(きざらいずみ) 河出書房新社

 浮かれずに着実に暮らしていく。いいお話でした。何か賞をとってほしい。ただ、最後の少女がだれなのかが読み終えて1日経った今も不可思議です。おそらくテツコさんだと思うのですが自信がありません。ふりかえりながら感想文を書いてみます。少女がだれなのかを突き止められたらいいな。
 30ページ1話程度の短い短編が8本続いて1本の小説が完成しています。
「ムムム」テツコさんは、義父とふたり暮らしです。テツコの夫一樹は7年前、義父の妻は、テツコさんと一樹が結婚する前、一樹が17歳のときに病死しています。テツコさんの恋人が岩井さんです。人間関係の相関図が機微(きび、微妙なおもむき、心情)がきいていて、それが読者に読ませる原動力となっています。義父にとってはありがたい亡息子の嫁です。嫁にとって義父は気楽な同居人です。エロい場面はなく、かなり面白いドラマ設定です。テツコさんがもつ家族観にぐっときました。
「パワースポット」亡くなった一樹の隣人タカラ(女性)が登場します。「死」について考える。死にそうなとき、死んでいった人たち、死後、存在を忘れ去られるとき。タカラの本当の名前は小田さんで、職業はCA(キャビンアテンダント、スチュワーデス)、宝塚劇場に出られるぐらいの美人、だけど、今はうつ病。
「山ガール」義父の定年後の趣味がない。無趣味だから時間をつぶせない。義父は完璧な人間人格をもっているわけではないということがわかった。
「虎尾」一樹のいとこの名前が虎尾(とらお)。一樹の運転していた車に愛着あり。いや愛情あり。思い出があるから手放したくない。ここで、思う。一話一話が短いから物足りなさがある。
「魔法のカード」テツコの恋人岩井さんがテツコ以外の女とからんで、結婚詐欺に遭(あ)った。
「夕子」夕子は、義父の亡妻の名前です。「あきらめないで」のメッセージです。世の中の変化をからめたOLの心情表現はリアルで、自身にも覚えがあることの記述が続きます。この小編をこの小説のこの位置に置くという構成は効果的で、作品の質を高めています。個々の感情をからめあう。亡くなっていった人の気持ちを表現する。
「男子会」妻が死んで、息子も死んで、息子の嫁とふたり暮らし。中途半端といえば中途半端であるが、そんな暮らしを気に入っている。
「一樹」生活感があります。横方向の空間の広がりがあります。いいなあ。
 これで終わりですが、心に響いたフレーズを書いて終わります。ラストの少女はやはりテツコさんということにしておきます。
 無駄がなかったら人生はやってられないというような表現
 変わらないものがここにある。
 あなたが思っているほど怖くはない。
 人が変わっていくことは過酷だけれど救いがある。

(感想を書いて数日が経って)
 作品はご夫婦の共同です。ペンネームはご夫婦ふたりを表わしています。ドラマの世界では有名な脚本家の方々のようですが、これを読むまでは知りませんでした。

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