2014年02月03日

昭和の犬 姫野カオルコ

昭和の犬 姫野カオルコ 幻冬舎

 冒頭にある、舞台は琵琶湖をかかえる滋賀県、なんとか市からどこそこ市まで、馬(馬車)で54分という記事を読み、万城目学(まきめまなぶ)作品「偉大なるしゅららぼん」を思い出しました。湖に浮かぶ竹生島(ちくぶしま)が、主人公たちの目的地でした。(蛇足ですが、その後同島を訪れました。)
 空想時代小説だろうと先読みしましたが違っていました。作者の自叙伝風です。タイトル「昭和の犬」から、昭和時代に生まれた犬年の人とピンときました。なぜなら自分自身が昭和33年犬年生まれだからです。やはり、主人公柏木イクは、その年生まれでした。
 5才のイクは、言葉が不自由という記事を読んで、障害者モノかと思いましたが、それも違っていました。イクの言葉すぐ出ず現象は、両親をはじめとした周囲の人間の気持ちをおもんばかる、あるいは、自身への攻撃から自らを守るために、言いたいことがあってもストレートに言葉を口に出せないという苦労がともなっています。
 内容は、アニメ「ちびまるこちゃん」のワンシーンを見ているようでもあります。8編の短編が続いて1冊の本になっています。主人公柏木イクの成長記録です。5歳から始まり、49歳までの出来事が、その時々に飼っていたあるいは関わりになっていた犬のこととともに書いてあります。
 疑問は残ります。中盤まで読み進めてきて、これを読んで、どの部分で、どんなふうに感動すればいいのだろう。味わいは深い。されど、記録文を淡々と読み続けるだけなのです。
 父親と娘の関係が多く書かれています。イクは、「割れる」と表現されるかんしゃくもちの父親から離れたい。第二次世界大戦シベリア抑留帰りの父親は、いつまでたっても女性蔑視(べっし。下に見る)でした。そしてイクは、中学生になってもブラジャーを買ってくれない母親とも別れたい。主人公イクは、高校卒業と同時に実家から東京へ出て行きます。
「昭和の犬」のヒントは、夏目漱石作品「我輩は猫である」にあるのかもしれません。
 読んでいるうちにもう忘れてしまっていたイヤだったことを思い出し苦痛なことがありました。でも、数日がたって、それがなんだったのかを思い出せなくなりました。主人公同様に、自らも年をとりました。だから、悩みごとは減りました。忘れてしまうのです。人生ってこんなに早く過ぎるものだったのか。
「楽な生き方」というメッセージを受け取りました。イヤなものとの間に距離をおく。距離をおきつつも完全に別離はしない。距離をおきながら関係は継続させていく。それが楽な生き方です。

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