2013年12月29日

2013年 今年読んでよかった本

2013年 今年読んでよかった本

手鎖心中・江戸の夕立 井上ひさし 文春文庫
かなり面白い。「江戸の夕立」のほうがよかった。今年読んでよかった最初の物語です。力作です。まず、前提があります。一昨年の秋に車で東京湾を一周しました。都市高速道路の湾岸線を右回りに横浜-羽田-浦安-幕張-市川-海ほたると回りました。また、千葉県房総半島にある鋸山(のこぎりやま)に登りました。この物語の冒頭付近では、江戸時代末期の時代設定で、江戸の薬問屋の若旦那清之助とたいこもちの桃八が品川で時化(しけ、海が荒れる)に遭い遭難します。ふたりが東京湾内を漂流しながらながめる場所が、さきほど書いた地名の場所です。とても身近に感じました。

ふくわらい 西加奈子 朝日新聞出版
哀愁に満ちた幻想的な物語でした。人はかよわいものであることが、ひしひしとこの身に伝わってきます。主人公である鳴木戸定(なるきどさだ、25歳女性、編集者)の個性設定が成功しています。定は肉親がなくひとりぼっちです。母親は腎臓病でしたが、無理をして定を出産し、定が4歳のときに腎臓病で亡くなっています。父親は紀行作家でしたが、小学生だった定と一緒にアフリカ冒険旅行中、ワニに喰われて亡くなっています。おとなになった定の感情には、喜怒哀楽がありません。思考回路もふつうではありません。頭脳のなかには、幼児の頃から好きだった「ふくわらい」がぐるぐる回っています。

晴天の迷いクジラ 窪美澄 新潮社
登場人物は、田宮由人(ゆうと、24歳、広告デザイン会社勤務、うつ病、実家は北関東の盆地にある農家、26歳のひきこもり兄と22歳のヤンキー妹がいる)、中島野乃花(48歳、社員8人田宮由人が勤める倒産寸前の会社経営者)、正子(16歳、母親と対立しているリストカット少女)です。3人は一緒に車に乗り合わせます。3人の目的は自殺です。3人は、瀕死の状態で湾に打ち上げられているクジラの死を見てから自死したい。

楽園のカンヴァス 原田マハ 新潮社
どういった趣旨の物語なのだろうと思い描きながら読んだ最初の100ページでした。疑心暗鬼、つかみどころのない不安を伴いました。ところが、100ページを過ぎると、グイグイと展開にひきずりこまれました。いっきに最終ページ294ページまで疾走しました。フランスへ行きたいとまで思わせてくれたこの本は、読み手をヨーロピアン(ヨーロッパ人の意識)に変えてくれます。情景描写では、モンマルトルの丘とか、布施明さんのカルチェラタンの歌が聴こえてきます。

チャーシューの月 村中李衣(むらなかりえ) 小峰書店
読み始めで強い力に引っ張られました。午後3時前に読み始めて、午後4時37分に読み終えました。骨太な内容です。
児童養護施設で暮らす少年少女たちの暮らしぶりです。最初の数ページを過ぎたあたりから、泣けそうになります。最後は涙がにじみました。子どもを育てる気のない親はいらない。

はるかなるアフガニスタン アンドリュ-・クレメンツ 田中奈津子訳 講談社
いい作品でした。最後のページを読みながら、胸にジーンと湧いてくるものがありました。書名にある「はるかなる」は、アメリカ合衆国とアフガニスタンとの実測距離だけではなく、心の隔たりをさしています。第三者の立場であるアジア人として、仲介役をつとめるべき立場で、自分はなにをしたらいいのだろかという課題が浮かびあがってきます。両者を援助しつつ、「自由」の獲得とか、「平和」の維持をしていかねばなりません。「誠実に生きる」という言葉がぴったりの物語です。

娘が学校に行きません 野原広子 メディアファクトリー
作者の実体験を四コママンガ集にしてあります。不登校当時の作者の娘さんは、小学校5年生でしたが、巻末で、中学生に成長した娘さんが、描いていいと母親に賛意を表わしています。
親にとって、子の不登校は、重大かつ深刻な問題です。母親のとまどいの内容は素直です。日記のように書かれた四コママンガから母親の苦慮がよく伝わってきました。

ロンドン貧乏物語 ヘンリー・メイヒュー 悠書館
少年時代貧乏暮らしだったので、貧乏話には興味があります。この本は、英国作家によるロンドンで呼び売り商人(行商人、店舗をもたず商品を街頭で売る)から取材した結果をまとめた本です。作家は西暦1812年に弁護士の息子として生まれ、1887年に74歳で亡くなっています。日本の時代におきかえると、江戸時代後期から明治時代初期にあたります。141ページまで読みましたが、日本の50年ぐらい前の暮らしと共通する点もあります。読んでいると、過去へ行っている感覚があり、今年読んでよかった1冊になりそうです。

陽だまりの彼女 越谷オサム 新潮文庫
 鎌ヶ谷西中学校で学年有数のバカと呼ばれたいじめられっ子の渡来真緒(わたらいまお)と25歳で再会した同級生奥田浩介のラブロマンスです。味付けのひとつは、真緒には、13歳以前の記憶がありません。 さわやかな出会いではあるけれど、どことなく、淋しさや悲しさがただよっています。冒頭部を読んで、ふたりは最後には結ばれないと予測しました。中学時代、イジメにあった女子と彼女をかばいつづけた男子が、仕事の取引の場で再会します。

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