2013年12月01日

雨のなまえ 窪美澄

雨のなまえ 窪美澄(くぼみすみ) 光文社

 同作者の「ふがいない僕は空を見た」、「晴天の迷いクジラ」と読み継いできて、この本が3冊目です。
 5本の短編がおさめられています。互いの作品に関連はありません。最後の「あたたかい雨の降水過程」が好みでした。雨のなまえにこだわるタイトルですが、読み終えてみて、タイトルと作品内容のつながりがピンときません。
 東日本大震災の記述がところどころ現れますが、なくてもよかった。作品の価値が低下するものではありません。
 作品の特徴として、時空間移動があります。
「雨のなまえ」荒廃とか廃墟のイメージがつきまとうのは、細かな性描写とあわせて、最近の女性作家たちの作品製作傾向のひとつです。老齢の読者からすれば、もう終わった世界です。元気は残されていません。等々力(とどろき)さんという妊娠中の妻をもつ男性の浮気話です。作者独特の細かな生活描写文章表現が続きます。世の中が悪い。標準的生活のレールにのれない。暗い気持ちで読み終えました。
「記録的短時間大雨情報」こちらの作品内容も暗い。認知症の義母を夫の親族から押し付けられた嫁の物語でした。救いがほしい。性のことばかりが続く文章のかたまりを読むのは疲れます。とはいえ、心にしみいる文脈です。読んでいる途中から結末は見えていた。
「雷放電」いいなあ。好みの文学世界でした。ストーカー男性の精神心理状態を表現してあります。ミステリーを含んでいます。詩的でした。
「ゆきひら」中学校男性教諭のお話です。女子中学生同士のいじめが素材です。不登校の藤沢愛梨がいる。顔が美しすぎていじめの標的にされた転校生の永坂みるくがいる。女子グループによるいじめはあいかわらず壮絶です。ため息がこぼれました。男性教諭の妻も過去にいじめにあっていた。人間の愚かさを克明に浮かび上がらせています。作者が本作品に多大なエネルギーを注ぎ込んだことがわかります。ラストは残念でした。
「あたたかい雨の降水過程」離婚に至っていない別居母子家庭の母として片山繭子がいる。小学校2年生の息子晴文とふたり暮らし。PTA、学童保育、離婚交渉、もちろん仕事も含めて、母親失格の繭子を描いています。こどもを介しての人付き合いがうっとおしいのに、こどもは他者との関わりを求めています。母親の独占意識は強い。結婚してはいけない性格、こどもを産んでも健やかに育てる能力をもたない性質があることにまで思考は至ります。いくつかの気に入った表現です。「正しくても追い詰めてはいけない」、「あなたの言葉は刃物のように相手を傷つける」、「かたい人だねぇ」、「新しい人間関係を強要されたくない」、「箱にいれられて、箱がだんだん小さくなってくる」、「まわりにいるすべての人間をばかにして。あんたばかだよ」


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