2013年10月17日

ひたひたと 野沢尚

ひたひたと 野沢尚 講談社文庫

 未完成作品集となっています。「ひたひたと」というタイトルにひかれました。
「十三番目の傷」くつわ田芳雄が、2年前に人を殺したという秘密を吐露します。殺した相手は東原佐和子34歳独身の外科医でした。33ページまで、すごいなあとため息がでました。惜しい作家さんを自死で亡くしました。タイトル十三番目の傷の意味がわかりました。敬服です。ただ、その後の展開は、試作品で未完成です。恐怖小説(ホラー)でした。
「ひたひたと」ひたひたの音(おん)がいい。たった5文字でスリルを感じます。期待がふくらみます。物語は、河野加寿子39歳の1975年8月12日における悲しい回想から始まります。読んでいて、生きていることが悲しくなりました。彼女は復讐を思い立ちます。強い。人間はやられっぱなしでは自己を確立できません。物語に登場する地名は身近です。種明かしは残念なものでした。うーむとうなりました。種明かしの内容は、予想したもののひとつでした。そうであってはいけないと考えた展開でした。他のパターンにもっていけないか。ところが、最後にもうひとつどんでんがえしがあります。主人公女性がタイムトラベラー(時空間を移動できる人)と思える瞬間が幾度かありました。最後まで読んで、恐ろしいと思いました。
「群生(ぐんじょう)」これから書く小説の構成表です。流刑地の島が舞台です。自分の息子を自殺に追い込んだ相手を殺害する主人公の殺人に至るまでの動機と達成感がすごい迫力で書かれています。内容は暗い。車椅子刑事が登場します。「傷」とか「自殺」にこだわりがあります。前半は思い詰めている。考えすぎではないだろうか。妾の子どもとして生まれた犯人は、自分の息子をどう育てていいのかわからない。
 感情的な部分を極力除いたプロット(企画書ですが意味としては企て(くわだて))です。こんなに長いプロットは初めて見ました。すでに小説です。各個人の悲惨な過去が複数記述されています。印象に残った文節は、「生まれてきたのは間違いではない。死んだことが間違いだった。」

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