2013年09月11日

想像ラジオ いとうせいこう

想像ラジオ いとうせいこう 河出書房新社

 第一章から第五章まであります。章ごとに感想を記します。
「第一章」DJアーク38才、東北の海辺にある小さな町の出身、米屋の次男で、小さい父と大男の兄をもつ。都会の音楽事務所で働いていたが、10数年前に帰郷している。こどもの頃からの思い出が1人称で延々と語られる。リスナーとのやりとりは自問自答に聞こえる。3・11津波の被害者らしい。
 DJアークは、杉の木の高い位置に体がひっかかっていて下りることはできない。書かれている内容について、意味がわからない。印象に残った文節は、<あなたの想像力が電波であり、マイクであり…>。各章の最後に曲の紹介があります。<私を野球につれてって>好きな曲です。
「第二章」木の上にひっかかった男は何者なのか。空想から現実社会に引き戻される感あり。文章に読点(どくてん「、」)がなくよみづらい。文章のかたまりに空の行がなく、これも読みにくい。「東北」とか「ボランティア」とか「航空機中耳炎」、「右耳聞こえず」の状況が心に残り、自身の親族の法事のことまでよみがえりました。
「第三章」DJアークの本名は、「芥川冬助」、リスナーとのやりとりを続ける芥川冬助はリスナー同様に死んでいる。物悲しい。津波で亡くなった人たちがテレパシー(精神感応)で会話をしています。芥川冬助の妻美里は生きている。だから、芥川冬助のいる世界で妻美里を探しても見つからない。彼の兄である浩一も生きている。
「第四章」兄浩一の耳に弟芥川冬助の声が届いたらしい。この章は、人間が生きている現実の世界です。近しい人を亡くしたショックが癒えるのに何年かかるのだろう。人生をふりかえりながら7年~8年と答をはじきだしました。映画・小説「ツナグ」を思い浮かべました。
「第五章」りんごの木と会話をしていた「リンゴが教えてくれたこと」木村秋則さんを思い出しました。亡くなった人に声かけをしていく。信仰までいかなくても、神さまや仏さまの存在を信じる。自分も寿命で死ねば、あの世でまた会えると予測する。芥川冬助の父親の姿が登場します。父は生きています。杉の木の上にひっかかっている息子に向かって声をかけます。<父親としておまえを見捨てることはできない>。この世に引き戻すことはできない。極楽浄土へ旅立たせてやりたい。

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