2013年07月09日

(再読)にいさん いせひでこ 

(再読)にいさん いせひでこ 偕成社

 物語の素材は「手紙」です。
 ヴィンセント・バン・ゴッホ兄弟の手紙のやりとりがふたりの生存中にあって、物語は、生きている弟が自殺した兄であるゴッホにあてたものです。再び、11才と7才のときのふたりに戻って、ヒバリが高く舞い上がる黄金色の麦畑で遊びたいのです。
 絵本の中で弟は生きていますが、今日の今、ふたりはもうこの世には存在しません。個々の人間は生きているときに深い哀しみをかかえていますが、最後はこの世にさよならを告げます。お疲れさまでしたと声をかけたい。
 弟はこの絵本のなかで、兄が11才で家を出て寄宿舎に入ったこと、絵を描くことに没頭したこと、牧師として炭坑の地下にもぐり、人のために働こうとしたことなどを思い出として語ってくれます。
 兄ゴッホはまじめ過ぎた。兄は、ふつうの人が見ているものとは異なるものを観ていた。「本物」の芸術家はお金の多寡(たか、多い少ない)に興味がない。兄はやがて孤立した。ひまわりや麦や星に話しかけながら絵を描いた。金色と濃紺の世界が頭の中には広がった。「風がないのに木が揺れている」は、ゴッホの魂が枝を揺らしていたのです。ぼくはここにいるよと弟に合図を送っていたのです。残された人生を思い出のなかだけで生きていくことはつらい。作者自身のゴッホ兄弟に入れ込む気持ちが強く伝わってくる作品です。
 弟は16才で画商として就職した。ゴッホにとっても弟にとってもかけがえのない兄弟でした。どちらかひとりが欠ければゴッホという画家は現在日の目を見ていなかったでしょう。
 ふたりの前の世代として、ミレーとかアンデルセンが登場します。伝承の重要性を感じました。

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