2013年06月29日

脳男 首藤瓜於(しゅどううりお)

脳男 首藤瓜於(しゅどううりお) 講談社文庫

 名前ほか固有名詞漢字にこる作者です。自身の名前が瓜於(うりお)、舞台が愛知県愛宕市(おたぎし)、主人公の本名が入陶大威(いりすたけきみ)、他の登場人物として医師内身(うつみ)、占い師金城理詞子(きんじょうりすこ)、院長曲輪喜十郎(くるわきじゅうろう)、精神科部長苫米地(とまべち)などです。30年前に主人公が受診した病院は、橡木クリニック(とちのきクリニック)です。対して、主人公の偽名は「鈴木一郎」、主人公を追いかける刑事が茶谷(身長190cm120kg)とシンプルです。対比してあります。
 映画は観ていません。タイトル「脳男」は不気味です。小説を読んで、映画を観たくなりました。映像化に合う文章表現です。わくわくします。ありえないことが起こる。戦闘の舞台は総合病院です。マネキン人形のような心もちの男子は現実に存在します。喜怒哀楽がなく、指示待ち、無表情で植物的、あるいはロボットのようです。
 妄想の世界を文章化して物語が形成されています。自閉症の研究をする病院に預けられた主人公は、交通事故で両親を失います。引き取った富豪の祖父も亡くなります。主人公自身は火災で全身の60%以上を火傷(やけど)します。生まれながらに意思をもたなかった彼は、その後、連続爆破事件の犯人となります。これ以上書くとネタばれになるのでやめておきます。
 精神構造に関する記述が緻密で説得力に満ちています。ページをふりかえりながら、感想を添えてみます。
 「(政治的)圧力などが捜査陣に雪崩(なだれ)となって襲ってきた」なだれという表現を気に入りました。
 「こうして自我が組織されていった」ヒトという生き物が人間になっていく。
 3本の線「赤が血圧、青が脈拍数、黄色が発汗量」。ウソ発見器です。リアルな表現がいい。
 「生まれつき感情が欠落しているのかもしれない」。周囲を巻き込む不幸が始まる。不気味です。
 「サバン症候群だったのですか」
 「他人から指示されなければ指1本動かさない」
 「彼は脳だけの存在で手足はないも同然」
 「感情がなければ、色彩のデータ、音波のデータの集積にすぎない」
 「感情表出障害」。優れた研究者のなかには、このタイプがいる。あいまいなことを受け入れられない。
 「ヨハネの黙示録」。宗教が人間性を占めて操作する割合は多い。
 「自分を神に見立てた」
 「夢をみるようになった」
 「自我の代わりに情報を取捨選択する虚構をつくりあげた」。なんだか、すごさが迫ってきます。

(2013年11月8日)
 DVDで映画を観ました。
 映画を見始めて、こんな話だったっけ?から始まりました。冒頭部は別の話を付け加えてあります。見終えても小説とは違うような気がしました。こんなシーンあったかなあという感想でした。観客が自分で考えなくてもいいのか映像です。いいかよくないかはわかりません。
 喜怒哀楽はない。感謝しないのが「脳男」です。前半は脳の状態に執着します。脳だけの存在であるのが「脳男」です。「共存」という言葉が頭に浮かぶ。
 「脳男」は後半になるにつれて、やつれていく。映画は、オカルト(特異な現象)、ホラー(恐怖)でした。

以下は特典映像が収められたDVDの感想です。
 役者は大変な仕事であることが伝わってきました。
 爆破・炎上、筋肉質の上半身をつくるための忍耐
 感情のない人間を演じるために引きこもる。
 リハーサルの繰り返しが重要です。
 撮影地に興味があるので、千葉県木更津市、富山市などの映像を楽しみました。
 しばらく間をあけて、また、観てみます。

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