2013年06月18日

フェリックスとゼルダ 2013課題図書

フェリックスとゼルダ モーリス・グライツマン あすなろ書房 2013課題図書

 哀しい物語です。ユダヤ人の虐殺が素材です。おととしの課題図書「マルカの長い旅」を思い出しました。過酷でした。なにゆえに第二次世界大戦中にヨーロッパで起きたユダヤ人迫害をテーマとした本が夏の課題図書に選ばれるのか理由はわかりませんが、「差別撤廃」が趣旨なのでしょう。そして、平和の希求です。
 舞台はポーランドです。フェリックスはユダヤ人夫婦のこどもで6才のときにナチスから守るために両親の手で孤児院に入れられています。今は、3年8か月が経過して9才8か月に成長しています。
 その後、おとなになっているであろう彼の手による当時のふりかえりです。孤児院を脱走して、途中で出会ったゼルダという6才ぐらいの少女とのナチスドイツからの逃避行について書いてあります。
 フェリックスの両親は本屋でした。両親の教育と影響によって、フェリックスはストーリー・テラー(物語を創作して語る人)に成長しています。彼の語り口は歌を聴くようです。リズミカルです。特徴はハッピーエンドにもっていくことです。各章は、「昔、ぼくは、」から始まります。だから今、フェリックスはナチスに殺されることなく生き延びて、こうして過去を語っているのです。
 「マルカの長い旅」と同じく、ゲットーという名称のユダヤ人を集めて管理する区域が登場します。主題の第一は、ユダヤ人として生まれてきたことの自覚です。差別される根源は宗教にあるようですが日本人のわたしには理解できません。キリスト教でいうところの裏切り者「ユダ」がからんでいるようです。主題の第二は、親子関係でしょうか。こどもからみて、親を頼ることはできません。親を頼ってもむだなのです。不幸があります。
 本にこだわりをもつ作者です。作者自身はオーストラリア人ですが、祖先がヨーロッパでユダヤ人だったとあります。ユダヤ人の母国語で書かれた本が燃やされる。イディッシュ語とあります。思想の統制です。母国語を否定されることは国民としてつらい。物語の設定は、1942年頃です。終戦は1945年ですから、まだ終わりは遠い。強制収容所でホロコースト(ユダヤ人の大量虐殺)は続きます。
 「にんじん」が伏線として用いられています。食べ物に飢えています。スープににんじん1本が入っていたらたいそう幸福なのです。
 フェリックスは両親に助けを求めます。「早く来て、母さん、父さん」。物語の最後まで、ふたりは登場しません。
 ナチスが嫌いなのは、ユダヤ人の本だけじゃないのかもしれない。きらいなのは、ユダヤ人かもしれないとあります。戦争にジャッジメント(判定)をくだすことはむずかしい。ドイツ人はユダヤ人を迫害しました。ユダヤ人はパレスチナ人を攻撃しました。日本人もアジアの国々に迷惑をかけました。戦争は犯罪ではありません。戦地で人を殺しても殺人罪には問われません。恐ろしいことです。戦争に負けたら母国が消滅することもあります。何年経ってもうらみは晴れません。
 苦痛をやわらげるために「物語」を編みだす。地下室で隠れて暮らす7人の子どもたちをなぐさめるためにフェリックスは創作した物語を語り続けます。しあわせな結末にもっていかねばなりません。
 ゼルダの立場は複雑です。本人は気づいていませんが、フェリックスは知っています。ゼルダの両親はナチス側の人間です。でも、ナチスの対抗勢力の手によって銃殺されています。ゼルダはユダヤ人ではなくポーランド人ですから助かることができる民族です。彼女は助かろうとせず、フェリックスたちと行動をともにしました。
 「カーフュー」という単語が出てきました。夜間外出禁止令と説明が続きます。外出した者は射殺されます。わたしが子どもの頃、韓国ソウルにもときおり外出禁止令がしかれていました。それを思うと今は、平和になりました。

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この記事へのコメント
有り難うございました。とても役に立ちましたが、もうちょっと詳しくかいてもらえると有り難いんですけど。
Posted by スキマスイッチ at 2013年08月29日 22:40
書いてもいいですが、何か月も先になります。
ヒントとして、フェリックスの両親の気持ちに立って読んで考えて書くことがあります。同様に、ゼルダの両親、それから名前は忘れましたが、ふたりの世話をしてくれた男性の視点に立ってみるなどがあげられます。
Posted by 熊太郎熊太郎 at 2013年08月30日 21:14
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