2013年06月16日

奇跡のリンゴ 映画館と本

奇跡のリンゴ 映画館と本

 青森県には二度行ったことがあります。岩木山は、八甲田山の上からながめました。映画では幾度か雄大な山が映し出されます。「津軽魂」の象徴です。写真を入れておきます。

 映画のラストシーンは、リンゴの白い花で飾られて終わります。本はそうではありません。花が咲いてからがまた永い。ちいさなリンゴは、流通にのらなかったのです。生産者の木村さんは、大阪城公園でちいさなリンゴを売り始めますが、そこで、他の売り子の人と交流が芽生えて、ようやく商売になりはじめたと記憶しています。本は2冊読みました。「奇跡のリンゴ」、そして、木村さん本人が書いた「リンゴが教えてくれたこと」です。内容は、映画よりも本のほうが過酷です。あとで、読書感想文を追加しておきます。
 俳優さんたちの演技がしっかりしています。女子はいつも強気です。木村さんの実母、奥さん、三人の娘たち、とくに長女。救われます。養父のお話には耳を傾けました。親父に感謝です。方言表現がいい。言葉に気持ちがこもっていて、言いたいことがよく伝わってきます。撮影はつなぎの部分がうまい。重要なことはセリフにしない。表情や動作で表現する。ひとりという単体ではなく、複数で、感情の固まりを放出する。
 生き続けていくために「ばかになる」、「笑顔を保つ」、「貧乏を恥と思わない」、「おてんとうさまになる(結婚して妻を照らし続ける)」という約束を果たす」。「感謝する」、木村ファミリーが、リンゴの木、一本一本に「ありがとうございました」と頭をさげていくシーンでは涙があふれます。
 夢の実現について考えました。夢はたいてい努力してもなかなかかないません。がんばって、がんばってそれでもだめで、あきらめたときに夢がかなう。感動が生まれます。
 「共生」。虫を退治するのではなく。共生する。このキーワードから色々なパターンを派生していくことができます。

奇跡のリンゴ 石川拓治 NHK製作班
 青森県リンゴ農家木村さんの言葉を拾い読みしました。馬鹿だから生きていける。笑うことで生きていける。りんごの樹(き)に自分で生きていくように仕向けていく。農薬の力に頼らずに山野の樹木のように育っていく。それは周囲との協調があって成り立つ。虫も鳥も動物も互いが生命を維持していくために存在している。
 家族や親族に借金で迷惑をかけて、ようやくたどりついておいしいりんごをつくった。だけど、りんごは売れない。後半にある大阪駅の駅員さんとのやりとりとか、大阪城公園の自由市場での柿農家との出会いをきっかけにしたファンの広がり部分は感動に値(あたい)します。
 44ページにあるタヌキ話はあたたかい。害獣、害虫に愛情を注ぐ。50ページにある本との出会い話もいい。有機農法とは農薬の代わりに昔ながらの人糞を使用するものという思い込みがありましたが違っていました。土とか木の根にこだわりがあります。実験、知恵、根気の繰り返しで、たくさんのりんごの木を枯らしながら10年近くかけて笑顔にたどりつきます。親族からの借金話は身にしみます。
 木を始めとした植物と会話をする木村さんは素敵です。太古のりんごと農薬でつくられた現在のりんごとはまったく別の果実だそうです。味がおおきく変化しているそうです。当初、木村さんのりんごはピンポン玉ぐらいの大きさでした。でも食べるととてもおいしいのです。
 
リンゴが教えてくれたこと 木村秋則 日経プレミアシリーズ
 無農薬によるリンゴづくりに挑戦して、失敗の連続で家族が貧困に陥って、11年が経って、ようやくリンゴの白い花が咲いて、赤いリンゴが実(みの)ったという感動的な経過と結果が本人によって記されています。キャバレーでの就労は、とても真似できません。こどもとの関係では、PTA会費も払えない悲しさがあります。
 この本の魅力は、木村さんのお人柄とご家族の協力、本当のリンゴの味、そして、うつ状態の人が読むとほっとできることです。前半の100ページで100%堪能(たんのう)できます。それ以降は、作物の育て方となり、ことに148ページ以降は、農業従事者向けの内容となっています。わたしは、そのページ以降は読みませんでした。
 害虫・益虫の観察、同様に鳥の観察、一本一本のリンゴの木への声かけ、まるで宗教のようです。お店で売られているリンゴ1個にも心がこもっていることがわかります。作者は意外に若い。都会暮らしの経験もあり、工業簿記を学んでいたことから数値による表現があちらこちらに出てきます。文章はアマチュアですが、説得力があります。苦労の積み重ねの体験は、想像を絶(ぜっ)します。
 長い人生は、常にいつでもベストでは、ありえない。長い経過のなかで、いい時もあるし、ついていない時もある。そう慰められます。はじめにある、地球の自然にとっては、人間はいないほうがいいという言葉は、的を得ています。人間=毒です。あわせて農薬も毒です。作者は農薬の散布で体を壊します。農薬でできた果実や野菜を食べているわたしたちの体も蝕(むしば)まれているのでしょう。
 24ページ付近にある開放的で寛容な学校運営はなつかしい。わたしたちはたくさんのものを失いました。

この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t91504
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい