2013年06月08日

オムレツ屋へようこそ! 西村友里 国土社 2013課題図書

オムレツ屋へようこそ! 西村友里(にしむらゆり) 国土社 2013課題図書

 今夏の課題図書では、食べ物に関する本が3冊あります。前回読んだ「お菓子な学校」とこの次に読む「くりぃむパン」、そして、この本です。本離れが増えて久しい。なんとか読書の興味を引き出そうとする感想文コンテスト主催者側の工夫が感じられます。
 小林尚子(なおこ、小6、11才)の母親悠香(はるか)は旅雑誌のフリーライターです。いまはモンゴルにて取材中で、ひとりむすめの尚子は、母方祖母の家に預けられています。
 母方祖母のオムレツ屋には、祖母、母の妹明子、その息子たち(ふたご)である小林和也と小林敏也(1才9か月のときに病気のため右足マヒの障害者)という尚子にとってはいとこがいます。
 まず、尚子と母親の関係という課題があります。母親は娘よりも自分がしたい仕事を優先する人です。次に、ふたごの兄弟の心の葛藤があります。兄にとって障害者である弟が負担です。また、母親の愛情が集中する弟に嫉妬(しっと)します。
 登場人物たちは、多すぎやしないかと思うくらいたくさんです。そして、母方実家のオムレツ屋は、東京から電車で3時間、「桜小路商店街」にあります。
 読みながら、思ったことを書きつらねてみます。
 尚子の母親と祖母は仲が悪い。読み落としたのか、離別なのか、死別なのか、もともと結婚していないのか、尚子には父親がいません。母子家庭です。さらに、祖母宅に預けられているので、尚子の気持ちはひとり家族です。祖母は子どもを置いて仕事を優先する長女を批判します。長女は、言うことを聞きません。育児放棄ともとれます。尚子は母親をあてにしません。母親との思い出は、北海道から沖縄までバイクで旅したこと、転校を何回も繰り返したことです。
 平易な文章ですが、高度な表現です。中身は深い。物語の組み立てと記述は練りこまれています。簡単な言葉で深刻な状況が続けて書いてあります。
 母子家庭尚子の母子関係については、尚子ががまんする形で終了しています。これでいいのかという思いにかられました。作者の考えを読者に押しつけたのではなく、作者は自分がもつ疑問を読者に解答者になってもらうよう投げかけたと受け取りました。こどもである以上、自力で生活ができるまでは、がまんするしかありません。
 和也と敏也の兄弟関係については、一時的なものと割り切ります。きょうだい間の比較とか区別はふたごではなくても大昔から続く永遠のテーマです。きょうだいは成長につれて、それぞれ別々の世界をもつようになります。お互いに干渉しあわなくなります。
 障害者である敏也に関する悩みをもつ和也に助言したいのは、「明日は我が身」です。今元気だからといって、これからも元気でいられるわけではありません。人生に病気やけが、事故はつきものです。文句を言う兄に対して弟がぽつりと「(健康な兄が)うらやましい」。胸にぐっときました。
 尚子の転校回数が多いという話が出てきます。尚子だけではありません。転校回数の多いこどもはたくさんいます。メリットもあればデメリットもあります。あきらめるしかありません。
 尚子に安心して暮らすことができる環境を提供しようとしない尚子の母親の姿勢には反対です。才能があっても地道な選択をしている人はいっぱいいます。尚子の「うちは家族じゃない」という言葉には泣けます。1番になるためには、たくさんの犠牲が必要です。1番は他者の犠牲のうえに成り立っています。2番以下の敗者がたくさんいます。物語の中に明記はされていませんが、オムレツ屋を営むふたごのきょうだいのおとうさんは、自分の料理に関する夢をあきらめて、オムレツ屋になったのです。だけどそれだって、負けたわけではありません。
 いろいろあるけれど、尚子はずっとこどもであるわけではありません。いっときの悩みです。尚子はやがてすてきなおとなの女性へと成長していくことでしょう。

 うまく気持ちを言葉で書けませんでした。もう一度読むかもしれません。

(再読 平成25年6月30日)
 尚子の母親は逸脱しすぎです。働く女性を否定はしたくありませんが、読み返してみても居候(いそうろう)である尚子の境遇はかわいそうです。尚子にとって周囲にいる人たちは親族ですが家族ではありません。冒頭にある言葉づかいは他人行儀です。なにせ、親族たちが前回尚子に会ったのは10年前、彼女がまだ1歳のときです。だれにも頼らずに生きていく。だから、ときには、親や友を見捨てることもあるでしょう。高度な自立心は協調性を失うことにもつながります。物語の展開を肯定する感想文を書ける小学生は気をつかっているのでしょう。がまんしなくていい。嫌なことは嫌と言える人になりましょう。印象に残った尚子のセリフは、「(ずっと心の中にたまっていた気持ち)もう、こんな暮らし、いやなんだ」。がまんをして、いい子を演じていると心が病気になってしまいます。もうひとつ、障害をもつ敏也の気持ち「ぼくはいやなんだ。家族ってさ、だれかがだれかのためにがまんするものじゃないよね」
 和也と敏也の父親は、ワールドホテルのレストランで料理長をしていた。今は自営のオムレツ店です。ホテルではサラリーマンです。今は、社長さんです。ホテルの料理長のほうが高収入とは限りません。尚子の母はトラベルライター(旅行作家)です。特異な場所のトラベルに限らず旅行先の文章は多方面で書けます。いろんな夢のかなえかたがあります。定型的なものにこだわらないほうがいい。最後に登場するおじさんが言っています。「たしかに一番上はいい。でも、一番下もいい。そして、五段目の景色もいい。(階段です)。どこにだって、すばらしい景色はある。」


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