2013年05月27日

チャーシューの月 村中李衣 2013課題図書

チャーシューの月 村中李衣(むらなかりえ) 小峰書店 2013課題図書

 読み始めで強い力に引っ張られました。午後3時前に読み始めて、午後4時37分に読み終えました。骨太な内容です。
 児童養護施設で暮らす少年少女たちの暮らしぶりです。最初の数ページを過ぎたあたりから、泣けそうになります。最後は涙がにじみました。子どもを育てる気のない親はいらない。
 小学校6年生女子美香の視点から見た世界がつづられています。美香の相方が、小学校1年生新米入所の明希(あき)です。彼女は正確な記憶力をもっています。
 本のカバーの絵は月夜です。墓場の風景です。明希6才はこの記憶をなくさなければならない。ピンク色が好き。ぬいぐるみのネコであるミミイを手放せない。最初、明希は失語症かと思いました。ぽつぽつと言葉を発し始めます。単語のられつだったりもします。周囲は、彼女の言いたいことを推察します。同室で暮らす児童虐待を受けたこどもである12才美香は、おとなを信じません。「だれも思いやりをくれない」と嘆きつつ他者に対して卑屈です。(素直ではない)。
 親は罪悪感から施設に預けているこどもにものを与えます。こどもは親族におこずかいをせびったりもします。互いの関係は長続きしません。生活保障をしてくれる者がいない以上、子どもたちは施設暮らしを耐えるしかありません。
 明希のとうちゃんばなし、「とうちゃん、もうしません。ごめんなさい」とかあさんの弁当話はつらい。
 絵を描いて、音楽を聴いて、本を読んで、自分の心を支えてほしい。おおきくなったら、働いてお金をかせいで、それぞれの夢をかなえてほしい。余裕ができたら旅をして広い世界をみてほしい。自分で自分の望む家族をつくってほしい。父親の愛情に飢える明希の言葉に胸が詰まります。
 仕返しをしなくなったときに、人は成長したといえる。
 園長の言葉、「あいつらは、希望がもちにくいんです」。生まれて最初の20年程度で80年続く人生のすべてが決まるわけでもありません。

(再読 平成25年8月3日)
 明希の父親も施設育ちです。こどもを施設に入れようと思って、こどもをつくる夫婦はいません。親は、こどもができたとき、どう育てようかと迷います。結局、親が自分を育ててくれたように、自分も自分のこどもを育てていきます。このケースの場合、父方祖母と母親の衝突が原因で家庭が壊れています。母親が墓場で明希と心中しようとしたとき、明希の心から母親の姿が消えています。明希の意識には、自分の親族は、祖母と父親の姿しかありません。こどもにとってのいちばん望む夢は、家族そろって仲良く暮らすことです。明希にとって、父親とふたりで、そして、母親とふたりで食べたチャーシュー入りのラーメンが唯一の楽しい思い出です。本当は、家族三人そろって食べたかっただろうに。月は「陰(いん)」です。月にはわびしさや哀しさがあります。
 つらい内容の物語です。だれの回想だろう。作者ではありません。明希または美香の回想だろうか、あるいは、施設の先生のうちのだれかです。親に愛情を求めるのだけれど、返ってくるのは「暴力」というのは悲しい。おおきのぼるの母親は精神病院入院中でしょう。いいづかあきたちが暮らすのは、大阪のような感じもするし、九州北部地方のような感じもします。おとなになって、歳をとって、ふりかえってみると、幼児期に何があったかは、今となっては、何の問題もありません。エビフライ、ゆで卵、サラダ、みんなでの共同生活は、忍耐、秩序を学ぶ貴重な体験です。集団の中にいるとき、ひとりだけでいるとき、いろいろな体験を重ねて、こどもはおとなになっていきます。
 人間は何のために生まれてくるのだろう。しあわせになるため。自分がしあわせだと思っている人は、100人のうち何人いるのだろう。こどもが満足する心やさしい親が何人いるのだろう。あまりいないような気がします。
 異常な世界です。明希はなぜ、とおちゃんが好きなのか。叩かれても叩かれてもとおちゃんが好きなのか。明希は、父親の弱さを知っているやさしい子です。暴力と施設のことを除けば、このような親子体験をもつおとなは、現在も過去も多かった。
 最後に、印象に残った表現部分を書き出して終わります。
 (咲子は5000円がなくなったと嘘をつきながら)色のないぼそぼそとした声でつぶやいた。
 信也が夜の墓場でいくつもの墓石を見ながら、「つまんない人生おくってきたんだろうな」
 墓場にて、美香が明希に「(これは墓石ではないと示すために)こっちが、キリンに恋する馬」
 同じく美香の言葉「親とのことに縛られるのは、もうたくさんだ」


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