2013年04月05日

マレー蘭印紀行 金子光晴

マレー蘭印紀行 金子光晴 中公文庫

 本作品は、今から80年ぐらい前にマレーシア・シンガポールなどを作者が旅行したときの様子を書きとめたものです。読書は当時へのタイムトラベルになります。
 紀行文とはいえ、記述は「詩」です。自然の描写、光と影の交錯、昆虫やコウモリ、鳥たちを素材として作者独特の文字表現が続きます。彼の詩作の起源が、マレーシアの土地にあります。ゴム園をはじめとした自然観察の視点は神秘的です。暗い中に光るものが見える。作者自身がかかえている世界がこちらにも伝わってきます。その頃人間は大自然を破壊するまでの科学力をもちあわせていませんでした。自然のふところで人間は生息していました。
 日記が紀行文へと変化しているのでしょう。4歳のこどもを日本に残して、5年間の旅に出ています。旅の動機は語られていません。目的地はあるようですが、目的ははっきりしません。ゴム、混血、ベンガル、琉球、古い単語の羅列(られつ)があります。
 旅先の会話で使用する言語はどうしたのだろうか。通訳がいたとは思えません。マレーシア語というものがあるのかどうかは知りません。タガログ語、英語だろうか。
 内容と文の量に物足りなさはあるものの、読んでいると旅に出たいという郷愁にかられます。

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