2013年03月03日

ソロモンの偽証 第1・2・3部 宮部みゆき

ソロモンの偽証 第1・2・3部 宮部みゆき 新潮社

 本屋大賞候補作11作品目の読書です。これが候補作最後の読書感想文です。(すべてを読み終えた今、充足感と満足感に満たされています)
 宮部作品は今から15年ほど前、40代はじめの頃に夢中で読んでいたことがあります。その後、作者の作風が変化したのか読んでも興味が湧かなくなり遠ざかっていました。今回もとりあえず第1部だけ読んで、その結果で第2部を読み継ぐか否かを決めるつもりでした。
 分厚い本3冊です。ひとつの本が700ページぐらいあります。第1部から読み始めました。時代設定は1990年ぐらい。88年から92年ぐらいまではバブル景気の最中です。舞台は中学校。最近某県某市で発生したいじめ自殺事件と酷似しています。その点で、2002年から書き始められたこの小説は未来の予言書です。
 クリスマスイブが明けた朝、東京駅近郊にある城東第三中学校裏門付近で同校2年生柏木卓也の遺体が降り積もった雪のなかから、同校同級生野田健一によって発見されます。11月から不登校になった卓也に暴力を振るったのは、財産家建材店の息子大出俊次、その子分橋口祐太郎、井口充です。事件は自殺と処理されます。しかし、年が明けた始業式の日に卓也がその三人に殺害されたのを目撃したという速達が届きます。校内の生徒の内部告発ですが殺人の事実確認はできません。
 ただいま、284ページ付近です。ここまでの主な登場人物は、刑事の娘14歳藤野涼子、第一発見者14歳野田健一、死んだ柏木卓也の兄高校生柏木宏之18歳、卓也の担任森内恵美子大卒後同校勤務。内部告発の手紙を出した同級生三宅樹里(にきびで悩んでいる。にきびが原因で大出たちにいじめられ暴力をふるわれた。)
 文章は宮部さんらしくきめこまやかな心理描写で天性を感じさせてくれます。このあとは、裁判に発展していくのでしょう。第1部で読みやめるつもりでしたが最後まで読んでみます。2週間から3週間ぐらいかかりそうです。
 ここまでで、印象に残ったのは、殺害された卓也の兄柏木宏之高校3年生の体験です。亡くなった弟は病弱だった。生まれてからずっと親から兄弟差別を受けていた。いつも弟が優先。病弱な弟の世話に明け暮れる母親から与えられた忍耐に耐え切れなくなり中学生のときに気持ちが爆発して両親にぶつかり、結果として、高校進学と同時に家を出た。そのとき弟は声には出さなかったけれど弟から〔兄さんの負けだ〕というメッセージを受け取った。そして、不良三人グループのひとりは、〔(弟は)薄気味悪いやつだった〕。死んだ卓也になにかが隠されています。
 余談になりますが、本屋大賞候補作を読んできて思ったことがあります。乳幼児期には親から児童虐待を受けて、学校にあがったら、いじめにあって、社会に出たらパワハラ・セクハラを受ける。うつ病になって自殺願望者になる。老齢になったら長寿をとがめられる。日本人の人生って、何なのだろう。疑問をもつと同時に、40年ぐらい前は、それでも救ってくれる人や救われる場所がありました。今の若い人たちが夢や希望を失うのは無理もないことです。

(つづく)
 第1部「事件」を読み終えました。時系列で感想を続けます。
 2年A組担任森内恵美子教諭のマンション隣宅に住む垣内美奈絵(もうすぐ31歳、浮気した夫と別居中、主婦)は、被害妄想です。自尊心が高く、依存心は強く、自立心は低い。
 あからさまに人や家庭の恥部を記述していく手法がこの作家さんの特徴です。記述内容に嫌悪感をもつこともあります。しかし、グイグイと読ませてくれる魅力があります。豪腕です。人間はけして美しくないという性悪説に基づいた筆記は説得力があり効果的です。
 人間は欲望の固まりで、自分を中心にしてしか物事を考えない。問題点の原因を他者に求めて、自分を責めない。作家の仕事として、人間のもつ「悪」をいぶり出す作業があります。
 ついにいじめ自殺事件解明として、マスコミ登場です。ニュースアドベンチャーHBS局土曜夕方の報道番組企画報道部茂木悦男35歳が乱暴狼藉(らんぼうろうぜき、秩序をみだす)な態度で学校や家庭に乗り込んできました。
 インターネットがなかったこの時代(ウィンドウズ95はまだ登場していません。)、野田健一14歳は図書館や書店を利用して、両親の殺害計画を練ります。午後8時20分、計画実行の火蓋(ひぶた)が切られました。「計画」との対話はスリルに満ちています。殺害するのは父だけではだめなのか。「オレに顔を与えてくれ」とささやきかけてくるのは悪魔です。天から何かが降りてきて、だれかにとりついて、だれかを殺す。印象に残ったシーンがあります。向坂行夫「ケンちゃんが死ななくてよかったと伝えてくれますか」。友情があります。
 章の変わり目表現として、まず「状態」を記述し、次に「氏名」を出す手法は緊張感が発生する効果があります。森内先生の隣人主婦は、森内先生の幸福をねたみ、同先生の不幸を喜ぶ。
 騒動の原因は、不良3人組であり、その親たちです。ラストは光っている。輝いています。立ち向かうんだ! 藤野涼子!!

(つづく)
第二部「決意」、第三部「法廷」
 第二部を読み終えて、今は第三部の100ページあたりです。
 第一の感想は内容が古いというものです。ふた昔(20年前)の社会情勢、時代背景の物語です。ことに「電話」に関する記述は古い。「携帯電話」は登場しません。家電(加入電話)と公衆電話、この物語では、「公衆電話」の使用に事実確認の重きがおかれています。次に、「地上げ」、土地に高価値がついたバブル経済当時の暴力ほかによる立ち退き要求が書かれています。それから、保険金詐欺。テレビは真空管式です。
 この小説の連載は、2002年10月から始まり、2011年11月に終わっています。壮大な記述です。作者の手持ち資料が古いためか、今となっては現代社会としっくりいっていません。
 もうひとつ思うことは「学校」という世界が狭い。あわせて、舞台が「東京」に限られる。閉塞感があります。
 思いつくままに書きたいことを書いてみます。
 第二部のスタートは、1991年7月20日です。45ページあたりから中学生たちの本音がこぼれだしました。各運動・文化クラブのメンバーが登場してきて、登場人物が増えだしました。東都大学附属中学校3年生、私設法廷で弁護士を務める「神原和彦」が真実暴露の鍵を握っています。記述は落語を聴いているようです。
 虐待されていたこども時代をもつ神原和彦は高度な知能を取得しています。真実を裁判形式で突きとめる。225ページあたりから、これまでにまかれた「疑問」をひとつずつ解明していく作業が始まりました。
 ここまでで印象に残ったシーンです。
 中学3年生になった藤野涼子が教師と対立したときに涼子の母が「あとはお母さんにまかせなさい」
 放火事件において、「だれが被害にあったかではなく、こんなことをする必要があるのはだれか」を考えると景色が一変する。
不良の大出からひよわに見える野田に何度か相談の電話が入るようになり、「それはすごい変化なんだ」
 ここまでをふりかってみて、これはこどもの世界なのか、こどもの姿を借りたおとなの世界なのか、区別がわからなくなりました。
(つづく)
 読み終えました。いいお話でした。最後は、胸の中にさわやかな風が吹き渡りました。ただし、最終章はないほうがよかった。
 読書の経過をふりかえります。
 暑い夏、8月15日に法廷は中学2年生大出俊次を殺人罪で裁くために開廷しました。殺害されたとされる柏木卓也の不登校、死因、登場する人物たち相互のやっかみをとおして、生きることは人間の苦しみであることがひしひしと伝わってきました。検事役藤野涼子の個性は消えます。無色透明、性別不明、職務に忠実な一(いち)、職員です。
 美術教師丹野氏の卓也とのやりとりにおける卓也の気持ちは自分にもわかります。表面的なこととして、乱暴者の中学生大出俊次ひとりのために周囲にいた人間は振り回されてしまった。内面的なこととして、世に嫌気がさした仙人的存在をもった柏木卓也がからんだ。両者を阻害(排除)したがるのが一般人の性質です。
 ことの運びは、裁判の研修ビデオを見ているようでした。違和感として、女性から見た男子中学生の様子が描かれていました。同性として考えると14歳頃の男子は、アルファベットの「W」とか「Y」を見ただけで性的妄想にふけるぐらいエッチな欲望があるのですが、小説にはその気配はまったくありません。小説ではひたすら「死」をみつめます。死を覚悟してことを成す。怖いものはありません。友だちがいない。いても実際は友だちではない。悲しい一点があります。ふつうのことをふつうにやることがとてもむずかしい。「信じる」走れメロスを思い出しました。親に対する不満が列記されるのですが、親と一緒に暮らせるのは長い人生からみれば短期間です。
 わざと挑発して、相手を殺人者に仕立て上げる。人間って、何でもできる能力そして怖さをもっている。犯罪人(殺人)のこどもとして、どう生きていくのか。教えを示す小説でもありました。
 以下は印象に残った部分です。
 美術教師の言葉、実技を評価することはできない。
 学校の事なかれ主義は、善が破れ悪が栄える世界
 ほかに友だちがいなかった。
 矜持(きょうじ、誇りと分別をもつ)
 記憶を共有する。
 自殺防止の特効薬は存在しない。
 消費者としてしか社会に存在する意味がない
最後にソロモンは知恵をもった人で、彼もしくは彼女がみんなの幸せのために嘘の証言をするのです。


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