2013年01月31日

夏から夏へ 佐藤多佳子

夏から夏へ 佐藤多佳子 集英社

 佐藤多佳子さんの作品でまず思い浮かぶのは、「しゃべれどもしゃべれども」そして、「一瞬の風になれ」です。「一瞬の風」はたいへん素晴らしい作品です。お勧めします。そして、「一瞬の風」の下書きになったのが、この本「夏から夏へ」だと思うのです。両者とも短距離に強いスプリンターたちによるリレーのお話です。違うのは、「一瞬の風になれ」に登場する短距離ランナーは架空の人物です。「夏から夏へ」は実在の短距離走者たちです。彼らは朝原宣治さん、末續慎吾さん、塚原直貴さん、高平慎士さん、小島茂之さんなどです。「夏から夏へ」というのは、世界陸上大会が開かれる時期である夏から夏へという意味でしょう。
 いっぽう、天性のスピードをもった彼らの生活ぶりは常人の生活とはかなり異なることがよくわかります。油ものは食べずに低い体脂肪を維持するという体の管理、時間の感覚、「記録」という限界への挑戦、一般のサラリーマンの生活とは違います。本の内容は、「一瞬の風」の取材メモのようです。筋肉の話が多く、写実的です。選手をとりまく家族、恩師の支えがある反面、ひとり競技の孤独も存在します。


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