熊太郎の旅と映画と読書感想文

風を追いかけて、海へ　高森千穂　国土社

　タイトル「風を追いかけて」の風は、亡くなったおとうさんとの思い出を指します。4年１組水原一樹くんは、川崎から江ノ島まで、小さな頃、おとうさんと一緒に鎌倉の海で写った写真をもって、自転車で旅します。彼につきあってくれるのが、同級生の新城拓人くんです。
　徒歩で旅する人、車やバイクを使う人、鉄道に乗る人、ひとはさまざまな手段で旅を続けます。この本では、父親についてのありかたとか思い出が詰まっています。また、親が読むと、親はこどもにこどもが望む快適な環境は、なかなか提供できないという思いにかられます。
　この本には、さまざまな視点から見た現在置かれているこどもの状況が列挙してあります。共働き家庭の子どもの孤独、他人を見たら疑えという人間不信、不十分な食生活、「友だち未満」と形容された中途半端な友人関係、登場人物のこどもふたりは、海をみたい。ひとはなぜ、海を見たくなるのだろう。
　未知のことを知りたいという好奇心と冒険心があります。目的を達成するために距離を知り、速度から所要時間を計算する。勉強することの意味がさりげなくストーリーに織り込まれています。
　最後には、大人らしい大人がいなくなったと感じました。