2013年01月03日

仮面の告白 三島由紀夫

仮面の告白 三島由紀夫 新潮文庫

 1949年(昭和24年)作者24歳のときの作品です。作者は45歳で自決しています。94ページ、第二章まで読んだところで感想を書き始めます。これまでに登場した名前のある主要人物は、作者自身がモデルであろう「私(公ちゃんの呼びかけあり。作者の本名平岡公威ひらおかきみたけ)」。杉子(こども)、近江(中学生男子)です。
 自分の出生時の記憶があることから始まり、幼児期を経て、中学生まできました。自らの生活を記述する私小説の形式です。語られているのは、男子が男子を愛するきざしです。汚わい屋(おわいや、糞尿汲み取り人)の若者の肉体から始まり、単語で表わすと、淫ら(みだら)、陶酔、倒錯的、サディスティック、錯綜、そして、ヨーロッパ、殉教、拷問、絞首台と続きます。よく読まれている小説です。100刷以上の版が重ねられています。なぜなのか。それを考えながら読む読書の旅です。同性愛者の愛読書というわけではないと思います。
 ヒントになるのは、お祭りで神輿(みこし)をかつぐ男たちの陶酔の表情。13歳のときにあてがわれた作者が「玩具」と呼ぶもの(好奇の、愛の、欲求のという形容詞をともなうもの)。当時の彼の体重は、39.5kg。主人公が憧れた同級生男子近江の「悪」。腋毛(わきげ)へのこだわり。記述内容を想像することはむずかしい。最終的には「美」の追求までに至る気がしました。「命」よりも「美」を優先するのです。(読み終えてみて、違っていました。)

(つづく)
 202ページ、第三章まで読み終えました。感想を書き足します。
 思考の積み重ねは病的です。内向き過ぎます。バランス(調和)が偏っています。性欲、自己顕示欲の固まりです。20代の青年が「死」について考える。イコール「無」です。ピアノの音色は上流階級の生活を指し、家柄がいいから、お金があるからは、幸せと比例していません。豪放快活に見える作者は、作中では病弱だったとあります。ギャップ(差異)が大きい。日本人の大部分が百姓の子どもでした。園子との出会いはまるで、大和朝廷時代の男女の逢引、平安時代の恋歌(れんか)のやりとりに感じました。源氏物語の世界です。
 作者にとっては「思い出の記」です。21才の男子と19才の女子の恋。20才前後の心理的に不安定な頃の青年人物像の描写です。生贄(いけにえ)という言葉が登場します。作者は極端な世界に自分の意思を置いた人でした。発情という言葉まで出てきます。おどおどろしい単語が続く。交合という言葉が出てきます。主人公の思考の背景には戦争があります。園子を愛せない。彼は男女間では、不可能であり男色という言葉にいきつきます。
 戦争のために大学の講義はありません。戦争の真っ最中に1か月の休暇が与えられます。そういう世界がありました。作者が憎んだのは、作者自身の言動でした。全力をあげて快活であろうとしました。全力をあげて機知豊かな青年であろうとしました。
 女性側の意思として、死ぬときは、スカートをはいて、女らしいかっこうで死にたい。国民服やゲートルであってはならない。
 暑い夏、終戦の年、昭和20年の春先には、上流階級では敗戦を見越して、次なる産業振興策が練られていました。
 作者の周囲にあった、にぎやかな姉妹けんかは、作者にとっては苦痛でした。
 恋人や子どもを救おうとして、死んでしまった男性や親は、恋人や子どもに殺されたのだと考える若者の想像力は殺伐としていて哀しい。
 彼女を愛さなければならないという行為が苦痛だった。再会した男女は再び近づき再び別れる。
 当時の21才男子は、戦死することが宿命(さだめ)と自分を納得させていました。それなのに、生き残ってしまった。
 おとなたちによって仕立てられたカップルとして、おとなたちの未来予測のレールにのることに慄然(りつぜん、おそろしさにぞっとする。)とした。
 戦争に勝とうと負けようとどちらでもよかった。ただ、生まれ変わりたかった。
男女逆転で、力づくで、強引に女に抱かれてしまった。無感覚は強烈な痛みだった。彼は男として「不可能」でした。恥辱を受けた。続く第4章で、神の声が聞こえます。お前は人間ではない。お前は人間のような生き物だ。

(つづく)
 ラストはダンスシーンです。
 小説家は、自分の恥部をさらけだして作品を製作します。何かを捨て、何かを手に入れる。標準化された凡人にはなれない悲しみとひきかえに、凡人では理解できない特異な感情を手に入れます。
 不徳を告白する。同性(男性)の引き締まった上半身の筋肉を注視しながら情欲に襲われる。作者の思考は女性です。筋肉の固まりに全身がよろこびに震える。肉体ばかりか、精神の不存在にまで考えは至ります。衝撃的な告白ですが、ちょっと理解しがたい。


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