2012年12月02日

隠蔽捜査(いんぺいそうさ) 今野敏

隠蔽捜査(いんぺいそうさ) 今野敏(こんのびん) 新潮文庫

 映画「踊る大捜査線」の対極に位置する小説です。映画では「事件は会議室ではなく現場で起きている」と表現されます。この本では「現場ではポカをするやつがかならず出てくる。会議をばかにするやつがいる」と表現されます。つまり、この本の主役は東京大学卒(大卒キャリア)竜崎伸也46才であり、彼の個性設定はこれまでの警察もの小説では異例です。
 竜崎は真面目に上を目指しています。学歴差別意識は強い。東大以外は大学ではない。一流の人間になる。息子にも東大卒を求める。職場でも家庭でも「変人」扱いされます。彼の対極として同級生の私立大学卒伊丹刑事部長がいます。小学生のころ、竜崎は伊丹グループにいじめられていました。しかし、伊丹にはその記憶が残っていません。
 映画・小説「さまよう刃」東野圭吾著では、父子家庭の父親が高校1年生の娘を薬物注射・強姦・死体遺棄した10代けだもの男たちを復讐のためにひとりずつ殺していきます。少年であるがゆえに軽い刑しか受けないということに強烈に反発します。この「隠蔽捜査」でも、服役後の囚人が連続殺人として殺害されていきます。
 竜崎がプライドのみが高い人間であったら小説は成立しません。彼には「正義感と潔白であること、そして計算」がありました。
 「勇気って何だろう」江川紹子著では、正直に正義を貫いた人は短期間の輝きのあと没落していき、最後は家族バラバラになり、親族が淋しく死んでいく姿が事実として紹介されていました。「隠蔽捜査」も似たような内容で竜崎が突っ張りとおします。
 警察(キャリア)について、ずいぶんとかたよった内容の記述が続きます。市民のための警察ではない。個人の支配欲を満たすためともとれます。出世・マスコミ対策・事なかれ主義、作者ひとりの頭の中で思考が続く物語です。職場が家であり、幹部職員の家庭内は崩壊しています。人間心理を的確に把握して描ききった良作でした。


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