2012年10月17日

ゴールドラッシュ 柳美里


ゴールドラッシュ 柳美里(ゆうみり) 新潮文庫

 14歳の少年を扱った作品です。離婚して家を出て行った母親美樹、子どもたちを引き取った興行グループ社長父親弓長英知、知的障害者の兄幸樹、ヤンキーの姉美歩、主人公は「かずき」、やくざの金本、不良仲間の玲司、卓也、あとはパチンコ店がらみで数名の男女が登場人物です。
 舞台は横浜です。昔聞いた山崎ハコの「ヨコハマ」という曲を思い出しました。全編に雨が降っているようです。そして、港では伝馬船が雨に濡れそぼったまま動かないという思いイメージがただよっています。
 作者は狂気の世界に足を踏み入れています。少年かずきは何に対して怒っているのか。村上春樹著「海辺のカフカ」のようです。かずき君は、図書館で暮らすカフカ君15歳であり、知的障害の兄幸樹君は、ナカタさんです。「海辺のカフカ」を読んだときは、難解で、主題を掴(つか)めませんでした。ゴールドラッシュの「かずき君」の言動が、カフカ君とナカタさんに分離されているところまで気づけました。
 父親がしていることは児童虐待です。知的障害のこどもをもった両親の苦悩が表現されています。文章は映像にこだわっています。文章を視覚的に見えるものにしようとしています。
 作品を読みつつも物語を離れて、書いている作者に焦点を当ててみることにしました。作品そのものが作者の生き様(いきざま)です。ゴールドラッシュ、お金が素材になっている。作者は悩んでいる。作者は何を表現したいのか。考える。考える。大金をコントロールしていくためには、能力と度胸が必要になります。そういったものを持ち合わせていない者が、大金を扱う立場に立ったときに、何が起こるのか。本人も家族も崩壊していく。
 272ページ、こどもは大人にとって、過去であり、未来でもあるという定義は深くて重い。キーワードは「親から子への愛情」です。作者は自分をさらけだして、自分の親に愛情を求めている。反面、親に対する憎しみもある。お金のことしか頭にない大人たちへの抗議でもある。お金と愛情を天秤秤(はかり)にのせてどちらが重いかを比較している。


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