2012年10月12日

メリーゴーランド 荻原浩

メリーゴーランド 荻原浩 新潮文庫 

 なぜメリーゴーランドなのだろう。主人公にこどもの頃の思い出があって、その夢をかなえることによって幸福感にひたる、ということが読む前に描いたストーリーでした。しかし、タイトルの意味について明確な理由が語られることはありませんでした。
 冒頭の小話部分が最後に種明かしとして紹介されると推測、期待もしましたが、それもありませんでした。渥美清主演「男はつらいよ」シリーズの冒頭のようでした。男も女もすでに亡くなっている。冥土の世界という印象をもちました。
 遠野恵一さん36歳、家電メーカー退職後ふるさとの駒根市役所に勤務。奥さんは路子(みちこ)さん、哲平君小学校1年生、かえでちゃん3歳の4人家族です。駒根市は人口7万人、市職員は500人。恵一さんの仕事は、衰退化したテーマパークアテネ村を活性化させることにあります。丹羽室長、林田さん(34歳、野球部キャッチャー)徳永雪絵さん(あだなは幽霊)、柳井君(茶髪)、河野係長がチームのメンバーです。
 いつの時代の市役所であろうか。記述はかなり古い。51ページまで読んで、記述は悲しくなってくる。公務員のやる気の無い仕事ぶり、その背景にある権力闘争、そして生まれてくる事なかれ主義。いちがいにそれがいけないともいえない。仕事がない国では仕事を細分化してできるだけたくさんの人たちに仕事が行き渡る、その結果少ないけれどだれもが収入を得ることができるという構造がつくられている。そこでは、効率化とか能率という言葉は最優先されない。その構造を変えれば貧富の格差は広がります。この物語には、あたりまえのことをあたりまえにやろうと奮闘する恵一さんが活躍する姿があります。
 メンバーの人物紹介は夏目漱石著「坊ちゃん」の冒頭のように楽しい。今していることを「変える」ということは大変なことです。目的がしっかりしていて、情熱が失われず、時の運に恵まれないと人が変わるというとこまで到達できません。
 251ページの「豆男」はいい話です。世の中、そんな話ばかりです。いくら努力しても結局変われない。同じところをぐるぐる回っているだけです。だから「メリーゴーランド」なのでしょう。294ページでは、恵一さんに「がんばれ!」と声援を送りました。

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