2012年09月27日

半島を出よ 上・下 村上龍

半島を出よ 上・下 村上龍 幻灯舎

 半島というのは、朝鮮半島であり、敵国は北朝鮮です。まず登場人物の多さに圧倒されます。近未来の日米北朝鮮関係でしょうか。北朝鮮が日本を軍事攻撃する内容となっています。
 文字数が多すぎます。読むことがつらい。作者の調査情報が大量に記述されていますが、それを丁寧に読むことが苦痛です。だからところどころ流し読みに入ります。
 北朝鮮の侵略行為は元寇みたいです。福岡ドームでの戦いは「ガメラ対ギャオス」のようでもあります。
 北朝鮮は嘘をつくということが前提になっています。対して、なぜ犯罪者の集団が北朝鮮を倒す英雄となっていくのだろう。そのなかで、タテノの父親に関する話は悲しい。
 よど号ハイジャック事件を思い出しました。日本は無防備な国であることが、徐々につまびらかにされていきます。
 日本政府はのんきです。平和ボケしています。この状況になったら殺しあって国を守るしかない。なぜ、福岡なのか、東京でいいのではないか。(291ページで福岡である理由がわかります。)今の日本を平和ボケとして定義した作品です。
 戦闘状態のなかでは命の重みは軽くなる。日本語を話す韓国人と、韓国語を話す日本人の割合はどちらが多いのだろうかとふと思いました。日本が抱えている防衛問題の矛盾を提示した作品です。空虚な物語でもあります。事態は深刻にもかかわらず平穏無事に時が流れていく。作家から日本政府に対する警告ですが、「あのお金があったら」という同著者の作品を思い出しました。政府要人たちはなぜ北朝鮮軍人たちと話合いをしようとしないのか。九州に北朝鮮の新しい国家ができて、日本国から分離されるというような流れで下巻へつながっていきます。
 日本という国は、いざ他国から攻撃をしかけられたときは苦しい立場にあるということがよくわかります。アメリカは日本を助けてはくれません。
 北朝鮮軍を倒すためには司令塔であるチョ・スリョンをはじめとした幹部数人を倒せばいいと気づきました。指揮命令機能が働かなければ、兵士は動かないということがわかりました。
 すべての行為が愚かなことです。この状況になる前にこの状況を避ける努力が必要でした。167ページ、細田アナウンサーの言葉から「言論の自由」の大切さがわかりました。242ページ、終わりが見えてきました。福岡へ向かっている北朝鮮の船団は自ら撤退することになるでしょう。北朝鮮軍に対抗するグループのメンバーは全員あるいはほとんどが戦死するでしょう。
 凶悪グループの中にある個々人のそれぞれが、社会に受け入れてもらえなかた淋しさがただよってきます。
下巻300ページ、すさまじい緊張感です。すごい、人間は、すばらしい。
 福岡市の占拠は、西暦2011年4月2日から4月11日まで続く。上・下巻926ページ、なおかつ
1ページ全体に文字がびっしりと並ぶたいへん長い記述ですが、わずか10日間の出来事です。表紙カバーにある蛙(かえる)の意味がながらくわからなかったのですが、終わりが近づいてヤドクガエル(毒がえる)ということがようやくわかりました。凶悪グループの作業を読んでいて、なんだか炭坑での作業を思いつきました。地中深くで穴を掘って「宝物」を探す。宝物は「幸福」と呼ばれている。
 この当時「ドミノ」恩田陸著を読んでいました。ドミノは東京駅を舞台として横方向の動きを表現していました。「半島を出よ」は、福岡ドーム横にあるホテル「シーホーク」を舞台として、縦方向の動きを表現しています。同時刻にすぐそばで起きていることなのに位置や階数が違うとお互いにわからないという都会の凝縮された密室性が緊張を高めるのです。
 ホテルの倒壊は、長崎原爆の炸裂(さくれつ)を思わせる。作者は長崎県出身でもある。18歳のときに、長崎原爆資料館で原子爆弾の模型を見たことがあります。わずか3mほどの爆弾で10万人以上の人たちが死傷者になったことがショックでした。
 国は国民を救ってくれない。議員たちはああでもないこうでもないという議論をするだけです。立派な自衛隊は、他国の侵略行為を監視はするであろうけれど傍観するだけでした。この本は今の日本の防衛体制の特徴を捉えています。誰も何も選択しない。自分と自分が属する組織の維持を考えるだけです。

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