2012年09月05日

赤い月 なかにし礼

赤い月 なかにし礼 新潮社文庫 上巻・下巻

芝居がかった記述が続く。
スタートは冷酷表情である。戦争において殺人は罪に問われない。
簡潔平易な文章であるが実情がよく伝わってくる。「説明」ではないことが不思議なくらいだ。
情景、状況の表現がわかりやすい。
これは自伝なのだろうか。「公平」が著者であろう。
満州での逃亡列車の様子は凄惨(せいさん)である。日本人彼らの行為は詐欺である。善も悪もない。植物的で無表情で平らな心が広がる。
日本人が第二次世界大戦をとおして、どのように生きてきたのかをたどるいい本です。
若い人たちに読んでほしい。
上巻P209、森田勇太郎の言葉が胸に響く。
格差社会と称される現在の日本ではあるけれど、この当時の貧富の格差はすさまじい。
波子ひとりをめぐる男性ふたりの三角関係の良好さは考えにくい。
男は度胸という言葉を思い出させてくれる。そして女も度胸である。
人間は恐怖体験を経るごとに腹がすわってくる。
幻=満州国。将来が不安定な仮想国家。
本書は歴史書のようであってそうではない。
総じて「影」の人たちの物語だ。
影=汚れている、詐欺的。
人間の本性が鋭く、えぐりだされている。

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