2012年07月18日

おくりびと 百瀬しのぶ

おくりびと 百瀬しのぶ 小学館文庫

 すばらしい出だしです。大笑いしました。舞台は山形県、主人公は大悟さん、納棺師業の会社社長が佐々木生栄さん、先輩職員が上村百合子さんです。オーケストラの「解散」という言葉にはホームレス中学生の田村君が思い浮かびました。この物語を読んでいるときに、ビッグバンドジャズのコンサートを聴きに行きました。大悟さんは、本来チェロリストです。オーケストラが解散するということが身近に感じられました。
 大悟さんの奥さん美香さんは、なんていい人なのでしょう。白鳥(はくちょう)の仲の良さとか、親子で交わした石による手紙のやりとりが伏線になっていきます。読み始めのあたりで、結末はどうもっていくのだろうかと興味津々(しんしん)でした。
 銭湯での葬式は若い頃に見かけたことがあります。銭湯通いだったわたしが、洗面器を小脇に抱えて、のれんをくぐると、脱衣所の奥に棺(ひつぎ)が据えてあり、葬式会場になっていました。
 テーマは「命」です。大悟さんが6歳のときに失踪した父親を殴りたい気持ちは痛いほどわかります。父が病死したときに、12歳だったわたしは、自宅に安置された父親の遺体に向かって、仁王(におう)立ちになりげんこつを握り締めながら、これからどうやって生活していくのだと強い怒りをぶつけていました。
 奥さんである美香さんの大悟さんの職業に対する偏見とも言える反対意見の表明は解(げ)せません。結婚生活は、相手が好きとか嫌いとかいう前に、働いて食べていけなければ話になりません。あきらめることも必要です。この物語に流れている太い芯は間違っておらず、正当です。

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