2012年07月12日

オロロ畑でつかまえて 荻原浩

オロロ畑でつかまえて 荻原浩 集英社文庫

 「村興し(むらおこし、寒村を繁栄させる)」を素材にした東北の物語です。場所は奥羽山脈にある牛穴村です。青年会の8人と東京の広告代理店社員たちが村興しにチャレンジします。この作者さんの初期の作品です。丁寧に書いてあります。先日同作者の「愛しの座敷わらし」を読みました。名作です。オロロ畑からの成長で成熟を感じました。
 物語は、千貫みこし(3750kg、実際のみこしはもっと軽い)の担ぎ手の数が足りないということから始まります。「オロロ畑でつかまえて」は、「ライ麦畑でつかまえて」サリンジャー著を思い出します。村人米田慎一37歳はじめ3人が村興しの助っ人を求めて東京を回る姿は「七人の侍」黒澤明監督です。北海道屈斜路湖と鹿児島県池田湖には行ったことがあります。彼らは、クッシーとイッシーのごとく、ウッシー(本当はウシアナザウルスにしたかった。)で牛穴村を売り出そうとします。わたしはやがて本物のウッシーが現れることを予測しましたが、それを上回る展開になったので感心しました。
 作者は広告代理店で働いたことがあるのかもしれません。各章は「プレゼンテーション」「ロケーション・ハンティング」「フィニッシュ」のような専門用語で区切られています。大穴村の現地に赴くユニーバーサル広告社の杉山、石井、村崎の3氏は作者の分身で、実際に村興しのため派遣されたことがあると勝手な想像を楽しみました。なお、同社が力を入れているのはコンドームの宣伝です。ユーモア作家という個性で売りたい気持ちが伝わってきます。
 ゴンベ鳥、クモタケ、オロロ豆、ナダッコ、ヤマヘポコなど日本昔話に登場するような項目は、ラストへの伏線として用意されています。女性ニュースキャスターの恋とか、フィリピン人妻とか、たまぎり(シャーマン、死者が女性にのりうつる)など、作品を書いた当時の世相も背景に置いてあります。丁寧に構築された物語です。方言の記述も好ましい。
 160ページにある「日本人の社交辞令」では、過去を振り返り、何度かわたしもだまされた気分になって心が傷ついたことを思い出しました。その問題点は物語の最後に解決されます。作者は純粋なもの、素朴な心を追求しています。
 読み落としたのかもしれませんが、99ページにある提灯(ちょうちん)を下げた何本かの案山子(かかし)の意味がとれませんでした。

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