2012年07月12日

ささら さや 加納朋子

ささら さや 加納朋子 幻冬舎文庫

 若くして、赤ちゃんを抱えて、夫を亡くした女性にぜひ読んでいただきたい1冊です。“ささら さや”は、埼玉県佐々良市に住むさやさんの物語であり、交通事故で亡くなった旦那さんからのメッセージ音でもあります。やっつの小さな物語が集まって1冊の本になっています。
「トランジット・パッセンジャー」和訳すると乗り換え客です。この世からあの世へ乗り換えるお客さんがさやさんの旦那さんで、彼は霊になって、さやさんと赤ちゃんのユウ坊(ユウスケ)を守ろうとします。素敵な文章です。旦那さんが事故死するも彼の霊魂がこの世に残る。ここまでは書ける。されど、ここからどう書くのか。読んで良かった1冊になる予感がします。女性作家なのに男言葉がうまい。次の展開が判明しました。面白い。
「羅針盤のない船」船はベビーカーを指します。さやさんが押すユウスケ君を乗せたベビーカーはどこへいったらよいのかわからないのです。桂山駅長さんとさやさんのやりとりを見つつ、読者はさやさんがんばれと声援を送るのです。
「笹の宿」125ページ、幽霊、見えないものが見える。真実は見えないところにあるものです。128ページ以下、宿の様子は、以前訪れた四国小豆島にあった二十四の瞳の素材となった分教場に居るようでした。
「空っぽの箱」郵便局配達員の森尾さんが登場します。時を超えて手紙が届きます。繊細で優しい文章です。
「ダイヤモンドキッズ」209ページ、エリカさんに対するさやさんのぼけた返答がいい。それから、買い物とか料理とか、日々のささやかな積み重ねが、しあわせな生活へとつながっていく啓示がいい。
「待っている女」自分自身の子育てをしていた頃を思い出します。いいときもあったし、いやなときもありました。ふりかえってみて、選択を誤ったこともあったと反省することもあります。されど、とりもどすことはできません。もうあの瞬間は戻ってきません。そういったことを帳消しにしてくれるいいお話でした。
「ささら さや」親族というものは、当事者でもないのに口出しをしてきます。この物語全体を見渡すと、作者自身の体験もいくつか織り込まれているのだろうと推察します。ヘルパンギーナという病名をわたしも覚えています。高熱が出る風邪のような症状でした。
「トワイライト・メッセンジャー」重松清著「その日の前に」文芸春秋とこの本を合わせて読むと特段の感慨が湧きます。妻を亡くした夫と、夫を亡くした妻の物語となります。

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