2012年07月07日

クジラと海とぼく 水口博也

クジラと海とぼく 水口博也 アリス館

 作者はわたしより8才ぐらい上の世代でしょう。作者の自伝です。幼少期から青年期を経て現在までを100ページほどにまとめてあります。職業がはっきりしないのですが、編集者を辞めてからは、海洋生物撮影カメラマンとか、同生物の生態研究家、ことにクジラ、イルカの研究家、つまりは、学者さんをされているようでもあり、やはり、出版界でお仕事をされているようでもあります。
 少年少女たちへのメッセージは、幼い頃の夢を努力して追い続けることです。作者はそのために、大学在学中に2年間休学して沖縄の研究機関で過ごしています。また、社会に出てから一定期間働いたあと、職を辞して、クジラを追いかけるために海外生活へ飛び込んでいます。なかなかできることではありません。
 作者は運にも恵まれています。父親が教師であったことから、顕微鏡やカメラなどの機器が身近にあったこと。書籍、映画、テレビからの情報を得られたこと。沖縄で海洋博があったこと。そんな部分を読んでいたときに、わたしも孫以降の世代のためにいい本や、映画のDVDを自宅に残しておこうと思うのです。
 この当時の小学生が粘土細工でよくつくったのは亀でした。作者は海亀が来る浜がある徳島県の母方実家で毎夏休みを過ごしています。亀を守るために人間に自制を求める。人間と亀の絆(きずな)づくりについて書かれている部分があります。さらに後半では、海中でのクジラの親子との交流が書かれています。クジラがまるで人間の知能をもっているような交流です。クジラの大きな口に飲み込まれてしまうのではないかと心配するのですが、動物はいつもいつでも攻撃的ではないようです。
 作者がおそらく小学生の頃ぐらいに挑戦し続けた、水中で長時間過ごすための方策あれこれは、命がけの行為で驚嘆します。知らないとはいえ、死ななくてよかった。
 作者が過ごした京都は日本の古い都です。また、大阪は水の街です。前述の徳島、そして、長らく過ごしたらしきハワイマウイ島、歴史と自然に恵まれた場所で過ごせたことがうらやましい。
 挿絵(さしえ)が美しい。光り輝いています。記述のほうは、作者が大人になるに従ってつまらなくなります。やはり、達成前の未成熟の時期が一番楽しい。失敗しても楽しい。

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