2012年07月03日

チーム・バチスタの栄光 海堂尊


チーム・バチスタの栄光 海堂尊(かいどうたける) 宝島社

 バチスタというのは心臓手術のことを指し、チームとは、その手術を行う医師たちと麻酔医、臨床工学士なる人、そして、看護師のグループを指します。
 非常に狭い世界のお話です。医学用語は読んでいてもわかりません。舞台は東城大学病院で、バチスタ手術を失敗した患者さんが、実は、チームの誰かに殺害されているのではないかというところから物語が始まります。
 その件を調査するのが、不定愁訴(ふていしゅうそ)外来を担当している田口医師、41歳ぐらいでしょうか、になるのです。彼の助っ人が厚生労働省の厄介者の職員という設定で、白鳥くんになります。
不定愁訴というのは、検査をしても異常がないけれど、患者が不調を訴えるというような病名だったと思います。この物語全体が不定愁訴に包まれています。どこかしらおかしいのだけれど、グループの中の誰かが患者を殺害しているのだけれど、証拠が見つかりません。
 わたし自身は血を見る手術には拒否感があり、病院の雰囲気も苦手で、ちょっと読むのに抵抗がありました。本をだいぶ前に買ったものの、家族が先に読んでいたので、今週になってようやく読めました。ところで、チーム・バチスタの花形医師が、桐生恭一(きりゅう)氏になります。
 100ページ、氷室麻酔医の話には真実味があります。それは、病院組織のなかだけではなくて、いずこの組織においてもある危うさです。無理・無駄・ムラをなくすために日本の組織は人員を削減しすぎているとか、十分な期間をかけて人材を育成するゆとりがなくなっています。そんなことから、他者のことはどうでもいいとなり、誰しも自分のことしか考えないようになっています。
 セリフが物語を引っ張る進め方の物語構成です。わがまま勝手な振る舞いをするのだけれど筋は通っている。そんな白鳥くんのような人物は現実社会にもいます。能力があっても、大半の人たちから嫌われるタイプです。水準が高い位置での「落ちこぼれ」です。
 描かれていることの一部は、引き出しの図を想像しました。たくさんの引き出しがある大きなケースがあります。ちいさな引き出しの中では大事件が発生しています。しかし、他の引き出しにいる人間たちは、当該事件勃発で困っている引き出しの人間を助けようとはしません。大変なことはわかっている。だけど、自力で解決してくれと言っています。全体の引き出しの人間たちで協力して助け合うなんてことはないのです。
 白鳥くんは、国の某部署の検査官のようだ。人を見たら泥棒と思え。心理学の手法による能動態と受動態の描写でしょうか。犯人の殺意の動機は何だろう。東城大学病院は自分自身の力で膿を出し切るしかありません。理論に溺れないでほしい。人間は感情の動物です。舞台背景はちょうどこの本を読んでいた時期、2月上旬から下旬の出来事です。
 犯人の動機を聞いて、昨年発生したとある殺人事件の犯人の言葉を思い出しました。議論は空虚です。戦争による人殺しは殺人の罪を問われません。
 最後は、「人」なのかなあと感じました。肩書きと人格の高潔さは一致しません。人間を信じることはむずかしい。犯人に言いたいのは、そんな理由で人間を殺してほしくないし、殺人行為はどんな理由でも容認されない。
 第三部「ホログラフ」は、現実にはそんなふうにはならない。犯人を闇で切って終わります。当該人物に容疑者とか犯人とかいう名称がつく前に処理します。最後の部分はくどかった。栄光には影があるものです。


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