2012年07月01日

ピリオド 乃南アサ

ピリオド 乃南アサ 双葉文庫

 この小説は、同作者著「風紋(ふうもん)」そして「晩鐘」の下地になった作品でしょう。ことに「晩鐘」に似通った記述内容です。両作品の完成度が高いので、こちらの作品は強い興味が無ければ読まなくてもいいでしょう。
 片方に離婚流産歴2回こどもなしの40才カメラマン宇津木葉子を置き、もう片方に彼女の同級生であり兄嫁である宇津木志乃主婦高校生の息子と中学生の娘ありを置く。両者ともに不倫をしている。そこに殺人事件と不治の病をからめ、さらに強姦がかぶさる。どろどろとした人間模様が書いてあり女性読者向きです。
 頭でっかちな印象があります。冒頭付近で青森県津軽にある古家が描写されます。別の土地であった連続強姦殺人事件死刑囚のこととか、生まれてきてすいません太宰治の影が重なります。この部分がとても重い。続く物語展開はそれより軽くて全体の均衡が保たれていません。
 男のふがいなさがあります。殺人犯の冷酷非情があります。未婚の気楽さと将来への不安、既婚の生活苦とうまくいかない親子関係、それらをまとめて象徴するのが家屋としての「家」です。家を捨てる物語です。家がなくなるということは「ルーツ(根っこ)自分の出処(でどころ)」を失(な)くすことです。
カメラマンの視線で家や人間が観察されます。家の姿かたちや人間の表情から心を読みます。生きているうちから話が出るのが「相続」です。死にかけている人の前で死後の打ち合わせをします。ひとりひとりは苦しい思いをかかえていて、気楽さからは離れた生活をしています。
 印象に残った部分を並べて終わりにします。
「20年以上昔のことだけれど」から続く「そんなに時がたったと思えない」という葉子の言葉は同感です。今日はたまたま結婚26年目の日です。長い歳月が経ったという実感がありません。
「子ども時代の夢を実現させている人間などそうはいない」不倫をしにいくとき葉子の思考に現れた言葉です。
「失敗だった。わたしの人生」葉子の兄嫁志乃の言葉です。
「すべてが終わる。なにもかもが目の前から消えてゆく」葉子の胸に迫った感慨です。

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