2012年06月30日

ながい旅 大岡昇平

ながい旅 大岡昇平 角川文庫

 旅行記だと思って購入しました。違っていました。ながい旅とは、戦後死刑となった日本軍幹部の裁判資料が公表されるまでに36年間を要したことを「ながい旅」と言い替えてあるのでした。
 主人公は陸軍中将だった方です。罪名は正式な裁判手続きを経ずにアメリカ人捕虜27名を日本刀による斬首という方法で処刑させたことになっています。どうも真実は彼が命令を下したのではなく、彼がまず死を決断し、部下をかばったようです。捕虜たちはB29で空襲に来て、日本軍に撃ち落とされ、あるいは、航空機の不具合のためにパラシュートで地上に降りた米兵です。ほかの何人かは、降り立った場所で、日本人になぶり殺しにされています。
 米軍航空機は、日本の象徴である富士山を目標に飛んできて、富士山の手前で右に曲がって東京に空爆を与え、左に曲がって、浜松・名古屋方面に空襲をしたというお話は、富士山を誇りにしている日本人にはつらい。
 戦争は、始まってしまったら、重篤な被害をこうむるまでは止められない。個人の力では止められない。そのような趣旨がレポートには流れています。ただ、事実が判明しても、もう亡くなった人は生き返りません。この時代に生きていた関係者でなければ、理解できない本の内容でもあります。
 著者には学歴と血統に関するこだわりがあります。命令遵守とか、武士道とか、古い日本人像があります。「こだわり」は必要なのか不必要なのかとも考えさせられます。主人公の遺書は、家族に語りかえるものでした。仏教の教えも登場します。主人公の心残りが伝わってきます。昭和57年4月に記述された本ですが、老齢により、作者自身も死が近づいています。作者は昭和63年に亡くなっています。昭和の終わりの年でした。

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