2012年06月29日

ピアノはともだち 奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密

ピアノはともだち 奇跡のピアニスト辻井伸行の秘密 こうやまのりお 講談社

 子どもさん向けの本ですがおとなが読む本です。主役は有名な盲目のピアニストです。2009年6月7日にアメリカ合衆国テキサス州で開催されたピアノコンテストで日本人として初めて優勝しました。20才でした。
 音楽に国境はない。5才の誕生日、サイパン島のショッピングセンターにあったピアノを演奏されています。天才です。ショッピングに来ていた外国人たちのスキンシップによる歓待を受けています。外国の人たちの「いいものはいい」というストレートな感情表現が辻井さんに自信と勇気を植え付けました。あけっぴろげに彼をほめています。日本人は、「謙虚」とか「けなしてほめる」のような裏腹なほめかたをします。
 パパはドクター、ママは元アナウンサーという順風満帆なご家庭にみえますが、ママは息子さんとともに「死」を考えたし、パパの心の葛藤(かっとう、心の中で相反する感情のぶつかりあい)があったとお察しします。たいへんなご苦労があったことでしょうし、いまもあるだろうし、これからもあると思います。それは、一般家庭でも同じことなのですが、負担が重い分だけ喜びも大きかったことでしょう。作者の文章は暖かく愛情に満ちています。まだ、辻井君が世界的に有名になる小学校5年生当時に初めて出会ったとあります。
 音楽の才能のなかでもことに「記憶力」に驚嘆します。目が見えないから楽譜は見えない。楽譜を見なくても音を聴いて真似して記憶して1時間ぐらいの曲でも弾ける。楽譜の音符を追いかける必要がないから音に十分感情をこめることができる。読みながら思ったことは、そんなすごいことはできなくてもいい。そんな大きな夢はかなわなくてもいい。凡人は、小さな夢がかなえばいい。
 積み重ねです。彼の周囲は優秀なスタッフで固められています。ピアノの先生たち、ドクター、同じく盲人のサポーターさんたち。みなさんが、音楽を愛しています。感動を生む演奏は、みなさんたちの合作による目には見えない1枚の楽譜なのです。
 見たことがない「色」をイメージして曲を弾く。お手本となるピアニストの動きは見えない。ハンデ(マイナス材料)はたくさんあります。後半で父親との対立が少し記述してあります。天才ピアニストだからといって甘やかさない。ピアノを弾く以外の規律正しい生活を身につけさせる。目が見えようが見えまいが、自分の身の回りのことは自分でできるようにさせる。ショパンコンクールでは、途中で落選するという挫折(ざせつ)も味わっています。だれしも「挫折」を体験するべきです。挫折を乗り越えたところに、観客と審査員とピアニストが一体になってできる音楽という会話のやりとりが待っています。

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