2012年06月27日

ナミヤ雑貨店の奇蹟 東野圭吾

ナミヤ雑貨店の奇蹟 東野圭吾 角川書店

 「ナミヤ」の由来は「悩み」で、主(あるじ)は浪矢雄治です。<ナミヤ雑貨店>が過去と現在をつなぐ舞台になって、お悩み相談の舞台となります。「過去」は、1970年代後半、ソ連がアフガニスタン侵攻をして、日本が米国に追随してモスクワオリンピックをボイコットした時期に向かっていく頃です。
 5つの章で構成されています。最初は短編集かと思いきや関連がありました。未来を知っている盗人(ぬすっと)3人の若者たちが悩みの相談に回答します。よくできた作品です。最初のつかみがいい。時空間移動はわたしの好むところです。
「第一章 回答は牛乳箱に」相談事の手紙はシャッターの郵便受けに入れる。回答は裏の牛乳箱に入れる。
「第二章 夜更けにハーモニカを」ミュージシャンをめざす松岡克郎が登場します。ギタリストです。音楽でメシがくえるかです。家族にそういう輩(やから)がいるので、たいへん楽しかった。雑貨店のほかに物語のもう一角をなすのが<児童養護施設丸光園>です。登場人物たちは恋愛ではない赤い糸でつながっています。因果関係があります。ダライラマのチベット仏教の世界です。読みながら松岡君、魚屋をしながらでも音楽はできると叱責していました。ナミヤ雑貨店の回答は「現実を見なさい」です。
「第三章 シビックで朝まで」70年代当時、友人のホンダシビックで四国を半周しました。よく走るいい車でした。全般的に今の中高年層が人生をふりかえる展開となっています。いいときもあった。わるいときもあった。なつかしい。そしてだんだん過去よりも未来のほうが短くなってきた。人生相談のほうは、「本人の心がけ」と「まっとうに生きる」が回答の柱になります。
「第四章 黙禱(もくとう)はビートルズで」涙で目頭が熱くなります。同一の映画フィルムの評価が同じ人間でも年齢によって極端に移動する。先がどうなるなどだれにもわからない。思いどおりに未来は運ばない。変わってほしくないもの、それが「愛」。人間は煩悩(ぼんのう、欲による迷い)の固まり。正解がわかっていても正解の行動をできない。
「第五章 空の上から祈りを」第一章と第五章は紙芝居の始まりと終わりのようでした。通常は第三章を第一章か第五章に配置するところですが、構成がうまい。タイムカプセルの掘り起しです。潔い(いさぎよい)男女の純愛が描かれています。いつか映像化されるのでしょう。いい作品でした。

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