2012年06月18日

走れ!マスワラ グザヴィエ・ローラン・プティ



走れ!マスワラ グザヴィエ・ローラン・プティ PHP

 読み始める前に考えたことです。マスワラというのは少年で、家庭は貧しい。家族の中に病人がいて、その人の治療費を稼ぐためにマラソンの賞金レースに出場する。マスワラ少年は見事優勝する。違っていました。
 マスワラはおかあさんでした。心臓病(奇形で血が漏れる)の9才の娘シサンダの治療費をたたき出すために走るのです。女子マラソンです。42.195kmを素人の主婦が走るのです。気持ちだけで十分です。優勝は無理です。心臓病の治療費が100万ケル。一家の稼ぎが1か月で500ケル。500ケルを日本円で1万円として、100万ケルは500ケルの2000倍ですから、1万円をかけると治療費は2000万円になります。マラソンの優勝賞金が150万ケルです。(3000万円)。前年優勝者のタイムが2時間41分23秒です。距離÷時間で計算すると、42.195km÷2.68時間で答は15.74km/時間となり、時速15kmから16kmで走ります。41分は41÷60の0.68時間で、2時間41分は2.68時間ぐらいです。心臓病のシサンダには算数の才能があります。生まれてからずっと心臓の鼓動を数えているからです。生き続けていくために1日あたり何回しか心臓を鼓動させてはいけないという制限ルールがあるのです。
 アフリカには日本のような四季がありません。雨季と乾季です。はじめの部分に、西洋の家は部屋がたくさんあるが、アフリカは一部屋を寝室・居間・食堂で兼用するとあります。50年ぐらい前の日本も同じでした。おふとんを敷いて夜は寝る。昼間はおふとんを押入れにしまっていました。4畳半と6畳のふた間に台所という狭いスペースに親子4人ぐらいで暮らしていました。同じ部屋をいく種類にも使い分けていました。家にはトイレもおふろもなく、共同便所と共同風呂でした。世帯ごとに便所掃除当番とかお風呂をわかす当番が回ってきました。
 物語の後半ではテレビにまつわるすったもんだが出てきます。異国のことのようでそうではありません。昔の日本もテレビのない家ばかりで、こどもの頃は、みんなでテレビのある家にテレビを見に行っていました。人に人生という歴史があるように国にも国の人生のような歴史があります。
 母親のマスワラは文字を読むことができません。勉強するチャンスがなかったからです。日本でも文字を読むことができない人はたくさんいます。みなさん、苦労されました。こどもの頃から働かされて学校へいけず、勉強させてもらえなかったからです。
 シサンダは病院までいくのに近所のおじさんの自動車で片道6時間かかります。先日読んだ本には、日本を訪れたタイの女性は日本の空港からタイの空港に到着したあと、自分で600km離れた自宅まで自家用車を運転して帰ると書いてありました。時速60kmで走り続けても10時間もかかります。人は便利さに慣れてしまうと身勝手になり、怒りばかりが増えて元気がなくなります。
 マスワラの「スワラ」はレイヨウという鹿を指します。おかあさんのマスワラは鹿のように走るのです。おかあさんは速く走ることができる才能があります。でも、効率よく正しく走る教育は受けられません。マスワラは、はだしで走ります。おとうさんがシューズをプレゼントしてくれたけれどシューズをはきません。それが原因ではありませんが、マスワラはサソリに足を刺されて体に猛毒がまわります。マラソン出場なんてできる状態ではありません。でも、出場するために参加費5000ケル(10か月分の生活費)をマラソンの主催者に払いました。棄権すると、一番大きなヒツジを売ってつくったお金がパーになってしまいます。マスワラのゼッケンは953番です。ひとりの参加費が5000ケル×953人として、476万5000ケルになります。優勝賞金が150万ケルですから宝くじ方式の賞金です。おおぜいの人たちが力を合わせれば大きな力になります。
 勝負に勝つためには運が必要です。マスワラのまわりの人たちが祈ります。運をもたらせてくれるのは神さまです。原始的です。病気のシサンダは夢の中で幻のレイヨウ(鹿)に出会います。選手はそれぞれが優勝したいと思ってレースに参加しています。でも優勝できるのはひとりだけです。気の毒だからと勝ちを譲るのは八百長(やおちょう、インチキ)です。ぼろまけしてもいいから正々堂々と闘うのです。サソリに刺されて毒の後遺症が残っているマスワラが優勝できるわけがありません。本当なら1年後のマラソンレースに向けて体力の回復を待ち練習を再開すべきです。でも1年待っていたら心臓病のシサンダは死んでしまうかもしれません。
 マスワラは走りました。おかあさんとして、自分が産んだ娘に責任をもつために、力いっぱい走りました。


この記事へのトラックバックURL

http://kumataro.mediacat-blog.jp/t80130
※このエントリーではブログ管理者の設定により、ブログ管理者に承認されるまでコメントは反映されません
上の画像に書かれている文字を入力して下さい