2012年06月18日

延長戦に入りました 奥田英朗

延長戦に入りました 奥田英朗(ひでお) 幻冬舎文庫

 短文のエッセイ集で、今から20年ぐらい前の内容になります。木の幹を見ずに枝を見て評価する辛口記述の手法をとっています。日本人のあいまいさを突く傾向があります。江戸時代尾張藩の侍、朝日文左衛門の日記を思い出しました。今でいうところのブログでしょう。
 今を語りつつ中身は過去が好きです。この作家さんのシリーズに登場する伊良部Dr.の個性が、かいま見られます。作者の意見を読んでいると、テレビは白黒でいいじゃないか、夏はエアコンをやめて扇風機とうちわでいいじゃないか、テレビの放映は夜11時まででいいじゃないか、新聞の発行は一日おきでいいじゃないか。省エネ、節電ではありませんが、まだ不便を感じていた昭和30年代の社会生活が思い出されます。郷愁です。
 エッセイのネタはスポーツです。野球、プロレス、陸上競技など。高校野球の記述では悪のりもあります。甲子園で高校野球を観戦したことがない人が読んだら洗脳されてしまうでしょう。高校野球は学校教育の場です。ショーではありません。世界とか社会は、マスコミを初めとした映像錯覚行為で真実がゆがめられている。だまされている。だからだまされてはいけないというメッセージを裏返しとして感じます。
 スポーツで勝ったときのうれしさ、楽しさの表現がいい。作者は作家で自由業です。勤め人が働いている時間帯に図書館をゆっくり利用できる気楽さがうらやましい。

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